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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章
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希望を胸に

 俺と目が合った瞬間、まずメリスが声を掛けてくる。


「あなたの戦いが一つ終わりました……とすれば、これから――」

「ああ。魔族達が暮らせる場所を作り上げていく。ここについては俺自身、変わらずやっていこうとは考えている」


 ヴァルトの存在が明確になったことで、そちらを優先していたわけだが……目的を忘れたわけじゃない。


「むしろヴァルトが本当に消え去った以上、やらなければならないことだ……それに、もう邪魔されずに済むから気合いを入れないと」

「なら私達はそれの手伝いってわけかい?」


 チェルシーが問い掛けてくる。そこで俺は、


「どうするかは、自由にしていいさ。俺は強制するわけじゃない……そもそも俺は勇者フィスであり、メリス達を率いていた魔王ヴィルデアルは既に滅んだ。俺はその記憶を持っている身だが、従えと言うつもりはない」

「……ま、それでも一緒に旅をした方が面白いかもしれないねえ」


 笑いながらチェルシーは話す。彼女ならそういう結論を抱いてもおかしくはないな。


「マーシャはどうだ?」

「私はもちろん、従いますよ。あなたの目標を聞いて……その成就のために頑張ろうと決めていたので」

「ならメリスは……聞かなくてもわかるな」

「はい」

「そっか……なら、付き合ってもらうとしようか。長い旅になる。それこそ、目標はあれど果てしない道のりだ。今回の戦いで俺の事情を知り、手を貸してくれる人間も現われた。ノルバについても、今後話をすることができるだろう。けれど、そうであっても、遠い道のりだろうと思う。必要なものはたくさんある……ま、勇者フィスとして活動はしていくし、少しずつ集めていくとしようか」

「勇者として旅は続けるんですか?」


 メリスからの疑問。俺は頷き、


「もちろんだ。勇者フィスの名声を得ることもまた、目標到達へ必要なことだ……その中で王族とか貴族とか、そういう人間と関わるようになったら、面倒事も増えていくけど……それは仕方のない話だ。頑張っていくしかない」


 肩をすくめながら俺はメリス達へ伝えた後、


「そういうわけで、大陸中を回ることになるだろうな……焦っても仕方がないし、少しずつでも進んでいくとしよう……それと、ヴァルトが大陸で活動していた以上、彼を支持する存在がまだどこかにいるはずだ」

「それを見つけて倒す、と」

「そうだ。しばらくの間は、そちらがメインになるかもしれないな」


 中にはヴァルトに代わって魔王となるべく奔走するものだっているだろう。今回の戦いで、ヴァルトとその配下は全てまるごと消え失せた。だから支持者であってもそれほど力を持っていないとは思うのだが……、


「ここはノルバとも協議して、だな。神族側が何かしら情報を得ているかもしれないし」

「そうですね……それと」


 メリスは俺のことを見据え、


「あの、イルフさんについてですが……」

「どうした?」

「お墓とか、あるんですか?」


 問われ、俺はメリスを注視し、


「……気になるのか?」

「今回の戦い、最後の最後でイルフさんが仕込んだ魔力を活用した……ですよね?」

「そうだな。それがあったからこそ、倒すことができた」

「最後の最後まで、ヴァルトを討つために……私としては、彼女に感謝したいと思いまして」

「……遺体があるわけじゃない。けれど、俺と彼女が暮らしていた場所に、墓は建てたよ」


 暮らしていた森はいまだに森の中であり、砦はとうに朽ち果ててしまった。今はただ木々が生い茂る場所になっているのだけれど……そこに、墓はある。

 俺の話を聞いて、メリス達は思うところがあるらしい……ま、それなら墓参りをしようかな。


「わかった。ならまずはそこへ向かうとしようか。最初の目的は墓参り……墓前できちんと報告するのは、良いな」

「はい」


 メリスは返事をして、チェルシーやマーシャはそれに同意する。

 ――これから大変な旅が始まることは間違いない。けれどヴァルトと対決してきたような悲壮感もない。

 希望を胸に、歩き続けることができる……どこか心地よさを覚えながら、俺はメリス達と今後のことを話し合い続けた。






 そこから俺達は、メリスの主張した通りにイルフの墓参りを行った。俺は墓の前で報告をして、そこから新たな旅を始めた。

 最初にやったことは、魔王の討伐だった。やはりというかなんというか……ヴァルトの後釜を狙って動き出す輩というのが即座に出てきた……しかもそれは一人ではなく、複数。連携でもしているのかと最初疑ったくらいだったが、一番目に攻撃を仕掛けた魔王によると、単なる偶然らしい。ちなみに俺が力で無理矢理聞き出したものなので、嘘は言っていないと思う。


 よって、俺は魔王をまず討伐することを優先した。もし以前の同胞がいたのならば……と懸念することもあったが、結局知り合いに会うこともなかった。また討伐の間に、俺は以前の部下だった者達とも顔を合わせる。もう隠す必要はないので、魔王ヴィルデアルであった証明をして、今後のことを相談する。その結果、反発するような存在が現われることはなく、ひとまず俺に付き従っていた者達については、手を貸してくれるらしかった。


 で、幾度となく魔王を討伐することで……名声が勢いよく広がり大陸中に伝わっていく。そうして俺に近寄ってくる輩も発生し始めたわけだが……仲間達と上手くやってどうにか対処できた。一人であったなら対応はおそらく無理だっただろうから、ここは非常にありがたかった。

 いずれ、魔王を自称する存在がいなくなったら……いよいよ同胞が住む場所を確保するため動くことになる。それはまだ遠い話ではあるのだが、展望くらいは持っておくべきだと思い、幾度となく相談することとなった。


 それともう一つ……俺の両親だ。というより父親――元勇者としては、俺のことをどう考えているのだろうか? 尋ねてみる勇気もなかったのだが……いずれ、話をすることになるかもしれない。もし故郷に帰るようなことがあれば……心構えはしておこうかと思った。

 あとメリス達は――相変わらず俺に付き従い、協力してくれている。どこまでも上司と配下の関係から抜け出せない感じではあったのだけれど……時が経過することで、その辺りも少しずつ解消はされていった。いつか対等な存在となれたのなら、良いかなと思っている。


 様々な考えの中で、俺は今日も旅を続ける。メリス達も追随し、勇者として大陸に名を轟かせ続ける。

 いつか、勇者として……英雄として活動を終える時。そこが本当の終着点だろう。辿り着くまで……俺の命が消えるより先に、その場所へ必ず到達してみせる。そんな決意と共に、俺は勇者フィスとして、ひたすら歩き続ける――


完結となります。お読み頂きありがとうございました。

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[一言] 新たなる旅立ち。その道の先に幸あれ。 完結お疲れ様でした。
[一言] 完結お疲れ様でした。
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