二つの剣
魔王レドゥーラの精鋭と言える金属製のゴーレム。それへと繰り出された、アレシアの一撃。結果は――金属音を立て、弾かれた。
「硬度も十二分に高めてある。さて、どこまで頑張れるかな?」
金属製のゴーレムがアレシアの剣を弾いたことで、レドゥーラは語る。ふむ、どうやら通常の岩ゴーレムとはひと味も二味も違うらしい。
しかしアレシア達が怯むわけもない。彼女は即座に魔力を高める。それは先ほど以上の出力であり、さらなる攻撃を仕掛けようとした金属ゴーレムへ向かい突撃する。
そうして放った斬撃の狙いは左足の付け根。ゴーレムもそれなりに動きが速いのだが、彼女の動作には追いついていない。
すると、あっさりと真下に到達しアレシアは剣を薙いだ。またも金属音が響き――今度は多少なりとも金属を抉ることに成功した。
「へえ、なかなかやるじゃないか――」
魔王が称賛した直後、アレシアが追撃を仕掛ける。そこで収束させた力はレドゥーラを多少なりとも驚かせたらしく――刃は見事、足を両断することに成功した。
そうして倒れる金属ゴーレム。岩であったら後方の個体は踏み砕いて進むのだが、どうやら金属製では難しいのか後方にいたゴーレムは停止した。
そこでメリスもまた剣に力を集め斬り込んでいく。金属ゴーレムは即座に対応し拳ではなく蹴りを放ったのだが、彼女は見極めそれをかわす。
そして軸足に狙いを定めて一閃。抵抗があったようで刃が入りはしたが一瞬止まった。
下手すると剣が抜けず武器が持って行かれる……そんな予感を抱いた矢先、
「はあああっ!」
振り抜いた。結果、その剣が足を両断し、ゴーレムは倒れる。
すぐさま追撃。跳躍しその頭部に剣を――突き立てた。
それによって、ゴーレムは動かなくなる。アレシアもまた倒れたゴーレムにトドメを刺し、撃破に成功。
他の神族は岩のゴーレムに狙いを定めて魔法を撃ち込んでいく。さらにアレシアと共に前線にいる面々は魔法による結界を構築。金属ゴーレムの足を止めることに成功した。
「なかなかやるじゃないか」
そんな光景を見てレドゥーラは拍手を始めた。相変わらずこちらを舐めたような態度。
「なるほど、このくらいは簡単に倒してくるか……まあそうでなくては面白くないな」
――そんな言葉を発している間に今度は俺が動く。魔力を静かに剣に込め、手近にいた金属ゴーレムに狙いを定め接近。敵は即座に拳をお見舞いしたのだが、俺は紙一重でそれをかわす。
そして、振り下ろした拳へ向けて一閃。刃が金属に当たった瞬間、確かにちょっとだけ抵抗があった。けれど俺にとってみればそれは野菜でも切るくらいのもの。
よってそのまま振り下ろし、腕を両断する。
「ほう」
レドゥーラの呟きが聞こえた。こちらはそれを無視し今度は蹴りを放とうとするゴーレムへ向かってさらに近づき、足を切断。
バランスを崩し倒れていくゴーレムに対し、俺はすかさず頭部へ突きを放ち――撃破に成功。これで三体だ。
「なるほどなるほど。それならこっちもそれなりに本腰入れないとなあ」
さらに呟くレドゥーラ。金属ゴーレムなら俺達に手傷くらいは負わせられる……と考えていたのかもしれないが、その予想が外れた形。
とはいえ悲観的な表情はしておらず、それどころかさらに目を輝かせる。
「お前達との戦いは楽しそうだな……さて」
レドゥーラが歩む。そこで残る金属ゴーレムは前進を止め、俺達と向かい合う。
仕掛けてもいいが、アレシアやメリスは近づくレドゥーラを警戒している様子。
「……選択肢はいくつかある」
ここで、アレシアが口を開いた。
「レドゥーラとゴーレムを同時に対処するのではなく、戦力を分けるべきだが、私の部下は全てゴーレムに振り分ける。とはいえ金属製のゴーレムについては部下ではキツイ」
「つまり、俺かメリスかアレシアか……誰かが金属ゴーレムの対応をしなければならないと」
こちらの言及にアレシアが頷き、
「そこで、だ。フィス殿、そちらにゴーレムを任せてもいいか?」
「俺が?」
「残る七体のゴーレムを放置していてはまずい。先ほどの攻防で一番効率良く倒すことができたのは間違いなくフィス殿だ。よって任せたい」
こちらの動向は見ていたらしい。
「……倒した後は、速やかにレドゥーラとの戦いに参加すればいいんだよな?」
「申し訳ないが」
「わかった。それでいこう」
俺がレドゥーラを狙い、アレシアとメリスでゴーレムを倒すというやり方もあるが、先ほどの攻防から考えると倒すのに多少なりとも時間は掛かるだろう。もしかすると二人の攻撃を逃れたゴーレムが神族に狙いを定めるかもしれない。
それは避けたいため、アレシアとしては俺に任せ後顧の憂いをなくしたい……そういう思惑だろう。また彼女の表情には多少なりとも策などあるように見える。
あの様子だと、たぶん俺が魔王を倒すと言ってもゴーレムを頼むと答えるだろうな。神族である以上、魔王を倒したという実績を手に入れたい――そんな風に考えているのかもしれない。
まあゴーレムを瞬殺できることから考えても人選としては正しいし、ここは従うことにしよう。そう思いながら俺は標的にゴーレムへと変える。
残り七体で、なおかつアレシア達の邪魔にならないよう処理する必要があるけど……楽勝だな。
俺が一体目と交戦開始した直後、アレシアとメリスが動く。ゴーレム達をすり抜け近づこうとしていたレドゥーラへと駆ける。
「そちらから来るか。判断としては間違っていないな」
魔王が呟く間に、肉薄したのはアレシア。続けざまに魔力を高めた斬撃が放たれる。刀身から魔力が迸り、これまでの剣よりさらに上をいくものに昇華。
果たして通用するか……対する魔王はアスセードと同様に腕をかざした。その腕には小手が。それで防ぐつもりなのか。
刹那、一際甲高い金属音が戦場にこだました。結果は、
「お前は神族の中でも精鋭と呼べる存在なのかもしれないが」
レドゥーラが言う。小手を多少なりとも砕いたようだが、傷を負わせることもできない。
「見誤ったな。俺をアスセードと同じと思わないことだ!」
剣を振り払う。だがそこへ今度はメリスが近づき、その横っ腹に一閃する。
タイミング的には完全に虚を衝いた一撃。けれどレドゥーラが着る鎧に阻まれ、彼女の刃が弾かれる。
……ただの鉄鎧であれば、あれだけ魔力を収束させた二人の剣なら簡単に斬ることができるはずだ。レドゥーラが着る鎧の素材は金属ゴーレムと同様か、それ以上のものだろう。
「傷も負わせられないお前達に、俺を倒すことはできそうもないな」
悠然と語るレドゥーラ。その間に俺は二体目を撃破する。この調子ならメリス達の戦いが終わる前に介入できそうだ。そうなったら絶対に命運尽きるぞ。
もっとも、メリス達としては不本意だろうが……と、
「メリスさん、この辺りで気合いを入れ直さないといけないようだ」
アレシアが呟く。すると、
「奇遇だね。私も同じことを思っていた」
――元悪魔と神族だが、それなりに相性はよさそうだった。
「切り札でもあるのか? まあ、だとしても俺に勝とうなどと――」
レドゥーラの言葉が止まる。メリス達が魔力を発し、それが予想外のものだったから、だろう。
おそらくメリスはマーシャとの話し合いで語っていた切り札。そしてアレシアもどうやらそれに類似する技法を持っている様子。
「なるほど、俺を滅するために用意していたか」
そしてレドゥーラは楽しそうに呟く。
「いいぜ、来い。どんな技法も通用しないということを理解させてやる」
「――望むところだ」
アレシアが発した直後、二人はまったく同時に動き、死闘が始まった。