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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章
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意図の見えない策

 魔王軍としては人間達に狙いを定めて攻撃を仕掛けたはずが、逆に追い込まれている状況……さすがにこれでは方針を転換せざるを得ない。とはいえ、おそらくヴァルトから告げられた作戦。安易に放棄するわけにもいかず、どうすべきか逡巡する。


 しかし神族が目前に迫っている時にそれは、悪手に違いなく……隙を突いた神族の攻勢が、前線にいた魔族を周辺にいた魔物ごと吹き飛ばす!


「凄まじいですね……」


 メリスが呟く。こちらが同意するように頷いた直後、神族は人間側の軍勢の援護を開始する。数により押し込まれそうになったわけだが、神族側の助力によって立て直した。

 ノルバとしては先に敵の中核を倒してから助けようと思った……効率的ではあるが、普通ならば成功はしない。魔王軍だって能力が高い。相応の力がなければ魔物達を撃滅することはできないからだ。


 つまり神族達は、それができるだけの力がある……魔王軍としても神族の参戦は誤算に違いなかった。ともあれ、これで指揮官級の魔族が倒れた。その影響は戦場を伝播し、神族側がさらに押し込み始める。

 加え、後方から神族の援軍がやってくる。前線にいる者達と比べ数は少ないが、それでも魔物達を蹂躙できるであろう数。人間達は声を張り上げ新たな味方を歓迎する。


 前線の神族達は疲労している様子すら見られない。合流してさらに戦力を増強し、一気に突破する……ノルバとしてはそういう作戦か。

 ではヴァルトはどうするのか……俺達は選択を突きつける。このまま魔王軍がやられてしまえば裸の王様同然だ。例えヴァルト自身が強くとも、神族達に加え俺までいる以上は勝ち目がない。さらに、逃げることもできないのであれば……動くしかない。


 戦場における策略という点で、ヴァルトの能力は低い。というより、ヴァルトは徹底的に準備を行って作戦が確実に成功するまで待つ、というのが基本的手法だ。予定外の出来事が起これば即座に逃げる……その繰り返しによって、ヤツは生き延びてきた。

 けれど、今はそういう状況ではない。切り札となる千年魔王については手中に収め、なおかつその力を所持してはいるが、退路を塞がれもはや決戦しかない状況……千年以上戦ってきたからわかる。今のヴァルトは決めあぐねている。だが、一度決断すれば確実に、俺達を――


 その時、戦場に変化が。魔物達の動きが守勢に回り始める。先ほどまではこちらを押し込もうという気概を含んでいたのだが、そうではなく、徐々に後退を始める。

 ここに来て、籠城戦に決め込むのか……? 疑問に思ったのだが、とにかくこれは好機でもある。後退によって相手の動きが悪くなったので、神族達が攻勢に出る。


 戦力差が元々あったことに加え、ここからさらに神族が火を噴くように攻め立てているわけで……状況はさらにこちらに傾いている。しかも魔物を倒すペースが相当早く、なおかつそれを指揮する魔族達も退却を優先しているためか、上手く指示をできていない。

 これはヴァルト、相当無茶な命令を送ったな……戦略的に、完全に敗北している。戦況などを無視して後退を命じたわけだから。


 ただ、魔族や魔物は全速力で逃げていく。さすがに後陣に存在していた敵を打ち倒すことはできず、戦況としては前衛にいた部隊を半ば見捨てる形になっている。


「これは……何をするつもりだ?」


 俺は疑問を口にする。いくらヴァルトであっても、引き際くらいはわきまえている。今が退却の時ではないというのは、理解できるはずだ。


「守りを固めるきなのかねえ」


 チェルシーはそんな推測をしているが……それは違うような気もする。このまま拠点に立てこもっても、状況は絶対に良くならない。ヴァルトとしては戦力が減り続け、反面俺達は戦力をさらに増やすことができる。情勢が悪くなり始めていることに加え、神族の助力まである。例えば人間側の裏切り者が策謀により、混乱させるといったやり方をするにしても、王だって警戒しているし成功率は低い。まして神族は人間側とは独立した部隊である以上、人間に干渉しても主力と呼べる彼らを止めることはできないし、場合によっては神族達と俺達だけで決着をつけても良い。


 なおかつ旗色が悪い状況で、裏切った人間が作戦を遂行するかというと……神族まで加わっているのだ。現状で下手に事を起こせばどうなるか……裏切り者が理解できないはずもない。それよりも保身を優先するだろう。


 となれば、裏切り者を利用して戦況をかき回すというのは、効果がない……結界の外にいる魔物達をけしかけるか、あるいは結界を解くために動くか? ただ、ノルバ達もかなり気合いを入れて作成しているはずだし、簡単に壊せるとは思えない。ノルバは千年魔王が顕現した場合でも対処できるように手は打ってあるはずで……そもそも結界を壊そうと外に出れば、俺達と戦うことになる。魔物達を盾代わりにしてそれをするつもりなのか? だとしても、俺を止めることはほぼ不可能だし、ヴァルトとしてはどうしたって邪魔が入るはずだ。


 俺の能力については最大限警戒しているはずだし、今の俺を過小評価するなんてことは絶対にしないだろう。ということは、破れかぶれになってこういう策を……? さすがにあのヴァルトがそんな風に考えるとは思えないな。


 ヴァルトがどういう策なのかを読もうと必死に思考を巡らせる。戦況は非常に有利ではあるのだが、相手側の一手でそれが覆る可能性は十分ある。盤面をひっくり返すような一手がなんなのか……それを先に読まなければ。

 考える間も、戦況はこちら側へと傾く。逃げ続ける魔物や魔族で神族に加え騎士達も追撃を仕掛ける。魔法が射出され、騎士達が魔物の背を狙う。神族達と比べて倒すペースは遅いとはいえ、戦果を十分上げている。前線部隊を見捨てるどころか、中核部隊まで届こうとする勢い。退却を完全に終えるまでに、相当な部隊が消え去ることになる。


 俺は地面に目を向ける。罠の類いなどは一切ない。誘い込んでどうにかする、というのはなさそうだ……そもそも、ヴァルトにとっては勝ち戦だったわけで、わざわざ自陣深くに罠を用意する必要はないからな。

 となれば、一体……疑問に思った矢先、魔族側の後陣。そこに、明瞭な変化を見て取った。


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