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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章
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一方的な戦い

 会議から数時間後、俺達は戦闘を開始した。まず王率いる軍勢が進撃する魔物と交戦を開始する。敵は小出しにしており、人間側は各個撃破することができて、順調だった。

 これはおそらく、ヴァルトとしても警戒しているのだろう……神族側の動きが気になるため、どう立ち回るかこちらの出方を窺っているのだ。


 こちら側はそこを狙う方針であり……突如、味方の勢いが増した。攻め寄せて来た魔物に対し応戦するだけでなく、逆に反撃に転じた。騎馬隊が怒濤の勢いで進軍を開始し、魔物を蹴散らし始める。

 どちらかというと消極的な動きを見せる相手に対し、こちらが先に仕掛けた形だが……これにはヴァルトも対応を余儀なくされたようで、後続からさらなる魔物を進軍させる。とはいえ前線からは遠く、多少の時間を要する。ならば――


「行くぞ!」


 そこで登場したのが、神族達。既に結界を行使してヴァルトを閉じ込めているためか――それに加えてノルバもまたこの戦いに全てを賭けているためか、用意した部隊はかなりの規模。それが人間達のために戦うのだ。否が応でも士気が上がる。

 彼にとっても、あの燃える都を見て後悔し続けたのだろう……だからこそ、この戦いで決着を。その思いは俺と同じというわけだ。


 鬨の声と共に、神族達も動き出す。その攻撃は一切の容赦もなく、魔法を駆使して的確に魔物を撃滅していく。それは戦いと呼ぶには、あまりにも一方的なもの。これには指揮官である魔族も動きを止める。


「仕留めにいくぞ」


 ノルバはさらに命令を下す。温厚な彼からは考えられない思い切った攻め。とはいえここが正念場……というより、ヴァルトを引きずり出す好機だと考えているのか。

 よって、神族達は指揮官である魔族に狙いを定める。敵側も反撃に転じるが……神族は複数人で攻撃を仕掛けたため、多勢に無勢。魔族はあえなく撃沈する。


 ここまでは余裕……なのだが、さすがにこれで終わってはくれないだろう。ヴァルトが動き出すか、それとも他の何かが出てくるのか。


「フィス」


 ふいにメリスが俺へ声を掛けてくる。


「まだ私達の出る幕はなさそうですが……」

「ノルバ達の連係攻撃は見事だ。俺達が入ればむしろ邪魔になる可能性すらある。ここは任せよう」

「決戦まで体力は温存、というわけだね?」


 チェルシーが問う。俺はそれに頷き、


「ああ、ヴァルトはこの戦場を見ているはず……俺が軽々に動けば、それに対し反応を示すことになるはずだ」


 ヴァルトそのものを引きずり出さなければならない状況に持ち込むためには……、


「もし前方にいる魔物や魔族達を殲滅させられたら動くだろうけど……そこまでは望んでいないさ」


 神族という強い援護があるわけだが、それだけで倒せるのかどうか。ヴァルトが率いる魔王軍は尋常じゃない規模だからな。


「とはいえ」


 ふいにチェルシーが戦場を見据えながら続ける。


「神族側は、むしろそういう気持ちなのかもしれないねえ」


 ――彼女が語る通り、神族達はそれこそ魔物や魔族達を、始めから徹底的に叩きつぶすために動いているように見える。あえてそのような戦法をとって誘っているのか、あるいはノルバは今が好機だとして攻め立てているのか。

 ヴァルトを倒したとしても、この場にいる魔物や魔族達は残る。となれば、今のうちに叩いておきたいと思うのは事実だが……ふむ、ヴァルトとしてはこれが誘いなのかそれとも本気なのか、判断に迫られるわけだ。


 策の読み合いになってきたわけだが……ヴァルトはどう応じるのか。


「ヴァルトという存在は、戦略に長けているのでしょうか?」


 ふいにメリスが問い掛ける。それに俺は、


「あいつは元々研究者だからな……千年魔王以降、様々な魔王を作り上げてきたわけだが、基本的に戦略部分は個々の魔王に任せていたように思う……何かしらレクチャーくらいは受けているかもしれないが、軍師のように策を練り上げることは難しいような気もする」

「なるほど……今回の戦いにおいても、単純に物量で押し込めば……そんな風に考えていた、と」

「実際のところ、俺達は緒戦に勝っていたわけだけど、ヴァルトが出張れば全て終わっていた。そうでなくとも、日が経てばあっさりと物量で押し込まれていた……よって、作戦など深くは考えていなかったように思えるな」


 研究者だった人間が、俺を戦場で叩きつぶすために戦略を学ぶというのは考えにくい。俺を滅したのは結局のところ、戦争とは別の場所に用いた策だからな。

 徹底的に自分の姿を出さないように立ち回り、俺の前世である魔王ヴィルデアルを滅ぼした。そうした遠大な策謀は舌を巻くほどのものではあるが、現状ではそうした時に見られた策の仕込みなども見当たらない。精々伏兵を潜ませておくとか、その程度だろう。


 神族がさらに攻勢に出る。それだけで魔物達はたじたじとなり、中には後退さえ始める個体がいた。それをヴァルトのはいかが押し留め、指示を出して対抗する。

 目の前にいる魔王軍としては、初めてだろう……根本的に技量や能力を上回る相手と戦うのは。そもそも数による蹂躙を基本戦法としていた魔王軍としては、一騎当千とさえ呼べるだけの力を持つ神族と戦うことは想定していないはずだ。


 なおかつノルバの気合いの入れようが違うのか、神族達の動きも恐ろしい程に鋭く洗練されている。この調子であれば、ヴァルトと戦う際は当初の想定と比べて遙かに有利な状況になっているかもしれない。

 できればこのままヴァルトには手をこまねいていて欲しいのだが……と、ここで魔王軍に動きが。さすがに指示を出して対処するか。


 その狙いは――どうやら、人間の軍勢。まずは弱い方を狙い、仕留めるつもりか。あと神族側はそれを助けるだろうし、進撃の手が緩む……というわけだ。

 ノルバ達はどうするのか……神族が動く。彼らはさらに攻勢を仕掛けた。人間の軍勢には目もくれず、むしろそちらへ襲い掛かろうとする軍の中核へ向かい、指揮官を仕留めようという様子だった。


 これには魔王軍も驚いたのか、魔物達の動きがおかしくなる。どうすべきなのか判断に迷っているのだ。それは指揮を執る魔族も同じであり、神族側はそれを狙って仕掛けたに違いなかった。


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