表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/190

別れの言葉

 索敵を行いながら都を迂回して北へと進む。その道中で商人の一団らしき者達と遭遇し、俺は顔を合わせた。


「都は、見ての通りだ」

「なんということだ……」


 誰もが炎を見上げ絶望している。


「私達は都に居を構える隊商だったのだが……」

「命が助かっただけ、マシと思うしかないな……どこかに避難場所があるはずだから、そこへ向かうしかなさそうだ」


 俺の言及に商人は小さく頷き、


「あなたはどうするのだ?」

「魔物の姿が見え隠れしている。都をこんな風にした存在がなんなのかわからないが、魔物の姿がある以上、悪しき存在であることは間違いない」

「……まさか、魔物の王……魔王が現われたとでも言うのか」


 ――見方によっては、そんな風に解釈できなくもなかった。


 魔王……それこそ想像上の存在でしかなかったが、一つの国を終わらせたヴァルト達は、まさしく魔王という存在と呼ぶにふさわしいかもしれない。

 俺は商人達と別れ、ひたすら北へ進む。索敵を繰り返した結果、先ほど倒した研究者達と同じ魔力を抱える存在が集まっている場所がわかった。


「村を拠点にしているのか……」


 とはいえ彼ら以外に人の姿がない。たぶん炎により村人達は右往左往して、逃げた際に入り込んだのだろう。そこでおそらく、都の様子でも見に来た研究者の帰りを待っている。

 俺は気取られないよう慎重に近づく。そこで、村の中央広場で会話を行う研究者の声が耳に入ってきた。


「まだ帰って来ないのか?」

「都が崩壊した影響で魔物が動いているのかもしれない」


 ひとまず死んでいることは把握していない様子。その時、残る研究者が広場へと来た。その中には、一切見た目が変わっていないヴァルトの姿もあった。

 俺は気配を消しながら観察する。もし始末するのであれば――今しかない。


「これからどうする?」


 ヴァルトが問う。すると別の研究者は、


「準備していた研究所へ移動しよう……ここを集合場所としているが、いないとわかればそちらへ戻ってくるだろう」

「あちらの研究所はすぐに稼働できるのか?」

「説明をしていなかったか? 資材の搬入は済ませている……だからこそ、今日策を実行したわけだが」

「ヴァルトは神聖騎士団対応役だったからな。こっちの準備内容を把握していなくとも仕方がないさ」


 別の研究者が呟くと、ヴァルトは肩をすくめる。


「そういうことなら……このまま全員で向かうのか?」

「何かやり残したあれば、留まっていてもいいぞ。今回準備した場所は個人スペースもかなり大きい。何か入り用なら、持ち込んでもらって構わない」

「場所がわからないが……」

「地図は用意している。荷物の中に入っているから、こちらの家に来てくれ」


 どうやら、研究所の位置はわかる……そこまで破壊する必要があると理解すると同時、やはりここしかないと悟る。

 極限まで気配を消しながら、魔法を行使。魔力が露出すれば奇襲にはならないが……幸い、彼らは誰一人として気付かなかった。戦闘能力はさほど高くない。都が崩壊したのも、遠大な策によるものなのだろう。


 だから、決着をつけられる……俺は、闇夜の中で動いた。炎に包まれた都が存在しているとはいえ、周囲は暗い。俺を見咎める研究者は、ヴァルトを含めていなかった。

 よって俺は彼らに接近し、まずは一人その首を――飛ばした。


「っ!?」


 誰かが小さく呟いた。何が起こったのか理解するより早く、俺は二人目の心臓を魔法で貫く。突然穴の空いた体。攻撃を受けた当人でさえ、何が起こったのかわからない様子だった。

 三人目も同じように魔法で心臓を吹き飛ばすと、ヴァルトを含めた残る三人は顔を引きつらせる。フードを被っているので俺であることは露見していないはずだが、時間を掛ければ正体がバレる。このままいけば倒せるとはいえ、警戒はしておく必要がある。


「な、なにもの――」


 四人目が声を発するより先に、頭から上を吹き飛ばした。彼らからすれば王家が放った刺客に見えるだろう。それでいいと思いながら、最後の二人を仕留めるべく接近する。

 その中で唯一、ヴァルトだけは手をかざし反撃しようとした。だが俺からすれば動きが遅い。かざした手を魔法で切り飛ばすと、その首筋に風の刃を放つ。それにより、鮮血が周囲に満ちる。


「あ……?」


 ヴァルトの呟きが聞こえた。それに対し俺は何一つ感情を持たないまま、最後の一人を撃ち倒す。そうして残ったのは俺一人。ここで俺は、手をかざし炎をその手に宿す。

 いずれ死んでしまうが、村に誰かが戻って介抱してもおかしくない。それで助かるとは思えないが、処置をしておいた方がいい。


 だから俺は、研究者六人へ炎を放った。燃え上がる紅蓮。その中で俺は、


「……さよなら」


 ヴァルトに向けた言葉だった。ポツリと放った言葉は漆黒の闇の中へと消え……踵を返す。村の中心には土の地面以外何もない。彼らが炭となるまで焼き尽くした後、どこに燃え広がることもなく魔法の炎は消えるだろう。

 そこから俺は民家へ足を踏み入れる。無断侵入はあまりやりたくはないが、彼らの荷物がある。それは確認しておかなければならない。


「これか……」


 すぐにそれは見つかり、なおかつ地図も発見した。どうやら彼らは新たな拠点として山岳地帯の地中に研究所を作ったらしい。そこを拠点として今後活動していくことにしていたようだ。


「間違いなく、世界にとって良くないことなんだろうな……」


 きっと研究所から人間達を支配するような段取りをしていた。そうして彼らは老いぬ体で永遠に好き勝手やり続ける……けれど、研究者達は始末した。その野望は叶えられない。

 彼らの荷物をまとめて手に入れ家を出る。このまま研究所へ向かい一切合切破壊するつもりだった。


「あと、気になるのは王家側だが……まあ、全て終わった後に調べればいいか」


 優先すべきは後始末。俺は村の中央で燃える魔法の炎に一瞥した後……ゆっくりと、歩き始めた。

 結局、ヴァルトに正体が露見することなく、全てを終わらせることができた。もしかすると、会話とかすべきだっただろうか……なんだか少しだけ引っかかるような気持ちを抱いたが、世界を壊した張本人だ。もう彼は友人でもなんでもないと、割り切ることにした。


 そうしてヴァルトのことは忘れようと思った……そこから無言のまま村を出て、研究所へ向かう。魔法を使った高速移動ではあったのだが、胸の内は釈然としないわだかまりが存在し続けたのだった――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ