戦闘狂
ゴーレムを倒し続けたことにより、どうやら本命である魔王レドゥーラが動き出した模様。思いの外早かったな。
「魔王が来る! 全員ゴーレムを迎撃しながら注意しろ!」
すかさずアレシアの指示も飛ぶ。加えメリスも深追いは厳禁と考えたか、ゴーレムへ飛び移ることを中断。大きく退き俺がいる所まで戻ってきた。
「ありがとう」
……俺が魔法で援護したことかな。こちらは「どうも」と応じることにして、真正面を見据える。
気付けばゴーレムは動きを止めていた。そして山からの気配が輪を掛けて濃くなる。
「どうやら、お出ましみたいだな」
俺の言葉と同時、山道を駆ける存在が目に入った。それはあっという間にゴーレムの後方に到着すると、戦場を見回し始めた。
現れたのはずいぶんと体格が大きい黒髪の魔族。顔つきも野性的で俺達のことを見て笑みを浮かべている。
……戦闘狂、って雰囲気がひしひしとする。たぶん彼は自分が楽しければいい。そして快楽を追求して暴れるような魔族だな。
「いやあ、人間相手だと無敵のゴーレムなんだが、さすがに神族と勇者様相手だとこうも苦戦するのか」
相手は言う。そこでアレシアが剣の切っ先を相手へ向け、
「確認しておこうか。貴様は魔王レドゥーラだな」
「いかにも。レドゥーラ=マリオス。ロウハルド様にお仕えする存在だ」
どこか芝居がかった口調で答える。もっとも棒読みに近くて、本当に仕えているなどと表現し敬っているのかは微妙だ。
「アスセードを倒し、早速ここまで来た……その行動力は認めてやろう。だが進撃もここまでだ」
「ゴーレムをこうも破壊されていながら、そのセリフはないんじゃないか?」
挑発的にアレシアは告げるが、レドゥーラは肩をすくめ、
「いやいや、ここまでは単なる審査だ。お前達がこの俺と戦えるかどうかのな」
「審査? そんなことをしてどうする?」
「わざわざここで待っていて、もし弱いヤツだったら腹が立つからな。戦うのならそれなりに歯ごたえのあるヤツがいい。弱いものイジメは嫌いなんだ」
なおもその顔には満面の笑み……俺やメリスのことを見て勇者と言っている以上、アイツはこちらが魔王アスセードを滅ぼした面々だとわかっているはずだ。にも関わらずこうして嬉々として俺達と戦おうとしている……アスセードを倒した存在と戦ってみたい、という感情が先だっているのだろう。
それと、これは推測だが魔王レドゥーラはおそらくアスセードが弱いと思っている……例えばレドゥーラが俺達の戦いぶりを見ていたとしても、彼自身「俺の方がずっとアスセードより強い」と認識していれば、嬉々とした態度も理解できる。
アスセードは神族すらも圧倒する力を持っていたわけだが……あれくらいは余裕だと自認しているのか。
「少しはできる手合いのヤツが来たってことで、俺が直接赴いた」
「ザガオンはどうした?」
アレシアが問う。それにレドゥーラは笑い、
「あんなヤツに獲物を横取りされてたまるかよ」
……なんとなく予想はしていたけど、仲は良くないどころか悪そうだな。
とりあえず連携する可能性は低そうだ。とすれば各個撃破で対処できる。俺としても二体同時に相手をするのは面倒だったから、これは都合が良い。
「まるで、子供のようだな」
その時、アレシアが皮肉混じりに呟いた。
「どうやら強くなったことで増長しているようだが、その力は所詮借り物の力だぞ」
「その力をどう扱うかは、この俺次第だ。それにロウハルド様……いや、ロウハルドは自分を殺せるならそうしろと言っている。単に利害が一致しているだけで、部下になったわけじゃない」
そう告げるとレドゥーラは凶暴で野心的な笑みを浮かべた。
「今はまだ、ヤツの方が強いから従っているまで」
「どう言おうとも、所詮お前は誰かの下でしか生きられん存在だ。魔王ヴィルデアルの時もそうだっただろう?」
さらなるアレシアの問い掛けに若干メリスが反応する。
「貴様はヤツの配下だったわけだが、その命により暴れていた……所詮そのくらいのことしかできないというわけだ」
実際は配下でも何でもなく単に名前を利用していただけなんだけどね。で、アレシアの反応にメリスは肩をピクピクさせた。色々言及したいことはあるみたいだけど、落ち着け。
「ふん、どうとでも言えばいいが……お前達は今からその程度のことしかできない存在に負けることになるぞ」
「残念だがお前の野望はここで終わりだ」
挑発し合った後、互いに構える……神族はアスセードとの戦いで反省もあった。それを埋めて今回の戦いに臨んでいるだろう。俺はどうすべきか。
ここは俺も加わりてさっさとレドゥーラを倒すか? それとも――
「……あなたは」
ここで、今度はメリスが話し掛けた。
「そうやって誰かの下について、思うがままに暴れていたってこと?」
「ああそうだ。魔王ヴィルデアルの時もそうだった。本当のことを言えばヤツに忠誠など誓ってはいなかったし、ついでに言えば暴れたのも俺の独断だ。ヤツの名を出せば人間は震え上がった……それが楽しくて、利用していただけだ」
うん、俺が滅ぼされる要因の一つで間違いないな。よし、滅ぼそう。
「そう」
メリスの声もひどく冷たいものに変わった。というか、もしかすると怒りは俺よりも上かもしれない。
今も忠誠を誓っている存在を馬鹿にされたのだから怒っても無理はないんだけど……発せられる魔力は怒りすぎでは? と当事者の俺が思ってしまうくらいだった。
「貴様が単なるクズであることはわかった」
そしてアレシアは辛辣な一言を述べる。
「後がつっかえているんでな。さっさとご退場願おう」
「断る。さて、始めるとするか!」
喜悦に染まったレドゥーラの顔。直後、彼が立つ周囲の地面が光り輝いた。
そして地中の中から何かが出現する。それはゴーレムであったが、素材が違う。明らかに金属。そいつらが合計十体ほど。
「こいつらは特注品だ。たっぷり味わってくれよ!」
ゴーレムが進撃を開始する。すかさず俺は左手をかざし、光の剣を新たなゴーレムへ放った。
狙いは正確で剣は頭部に当たった……が、パキンと乾いた音を立てて光は弾き飛ばされる。
「無駄だ! このゴーレムはいかなる魔法も遮断する!」
ほう、なるほど。魔法を弾く素材でできているゴーレムか。これは確かに面倒だな。
なおかつ岩のゴーレムも一斉に襲い掛かってくる。なおレドゥーラはまだ動かない。というより神族に目を向け注意している。
さすがに相手が相手なので、攻撃については多少なりとも警戒しているか……ここで神族達が魔法により岩ゴーレムの頭部を破壊する。しかしそれを押しのけて金属製のゴーレムが突撃してくる。
「魔力の流れからすれば、弱点は同じようだが……」
アレシアは呟きながら迎え撃とうとする。直後、最前線にいた新ゴーレムが拳を振り上げ、彼女目掛けて振り下ろす!
だが地面に触れるよりずっと前に彼女は横へ逃れ回避に成功。刹那、ズドンと振動が生じるほどの勢いで拳が地面に叩きつけられた。威力は十分みたいだが、当たらなければ意味はない。
そしてアレシアがゴーレムへ迫る。狙いを腕に定め――渾身の剣戟を放った。