神を自称する者
都へと到着した時、時刻は夜を迎え紅蓮の炎だけが、世界を照らすようになっていた。その中で俺は破壊された城門を見据える。内側からの攻撃によって、ガレキが散乱している。これを成した者達の力が、如実に理解できる。
俺はまず、外套のフードをかぶる。それにより熱がこもってしまうのだが、あまり顔を探られないようにするための処置だ。仕方がない。
「生存者は……」
周囲を見回す。都の入口はあらゆる建物が燃えさかり、声を発する者は誰もいない。
そればかりか、地面には焼け焦げた何かがある。それが一体何なのかについては、俺自身考えないようにした。
どうやらこれは、想像以上にひどい状態らしい……どうするか思案していると、後方から足音が聞こえ始めた。
「ほう、生存者がいたのか」
聞き覚えのない声。顔をさらさないように振り向けば、青いローブ姿の人間が四人。全員が若い男性で、年齢としては二十代半ばといったところか。
「これは、一体どういうことだ?」
俺が尋ねる。それに相手は……先頭にいる男性はくぐもった笑い声を上げた。
「この国は、終わった。全ては炎に包まれ消えた。貴様もとっとと逃げろ。無様に悲鳴を上げながら立ち去れば、見逃してやる」
事情を知らない俺を嘲笑うような態度だった。それに対しこちらは、
「お前達は、何か知っているのか?」
「口の利き方に気をつけろ、人間。私達は神だ。この世界を自由自在にできる、全知全能の神だぞ」
その言葉に少なからず不快感を抱きながら、俺は男性達を見据える。
おそらく様子を見に来たのだろう。言葉遣いからして……何より格好から考えて、間違いなくこの国を終わらせた研究者達だ。
「……こんなことになった、関係者か?」
答えが返ってくるのかわからなかったが、ひとまず尋ねてみた。それに男性は、
「そうだと答えたらどうする気だ?」
俺は一時沈黙する。それと同時、後方にいた男性三名が右手に魔力を集め始める。
このままだと、魔法を撃たれて会話にならないか……と思った矢先、けれど攻撃が来る前に男性からさらなる言葉が飛んできた。
「答えについては、そうだと返答しておこうか」
「なぜ、こんなことを?」
「世界を変えるためだ。この世界を私達の手で塗り替えるために」
「神だから、それをやると?」
「そうだ」
言うや否や、彼は後方で攻撃の気配を見せる男性達を手で制する。
「そうだ、お前をメッセンジャーにしようじゃないか。生き残った人間達も多少ながらいる。そうした者達と合流したら伝えろ。神が顕現したと。救いを得たければ、私達に従えと」
「……あんた達は、力を持っているんだろ? 何でこんなことをする必要があったんだ? 力があれば、如何様にもできたはずだろ? こんな……都を無茶苦茶にする必要はなかっただろ?」
「消さなければならない者達がいた。ただそれだけだ。それをするためにはこの都全体を焼かなければならなかった。そいつらは、血筋で多数繋がっているからな。その全てを滅するには、こうするしかなかった」
王家か……彼らの存在がいる以上、都は消え失せても戦争になる。だからこそ、容赦なく……禍根を残さず神となるには、こうするしかなかったと。
「犠牲が多く出たのは確かだが、仕方のない処置だった。死んでしまった者は、石碑でも建てて弔うとするさ」
「……そうか」
俺はただ男性を見据える。相手は俺なんて即刻殺せるからこそ、ベラベラと喋ってくれるということなのだろう。
「他にも、神となる存在はいるのか?」
「ああ、いるとも。全部で十人……そうだな、誰がどういう神となるのか、後で決めなければならないな。豊穣、繁栄、破壊……様々な神がいる。余すところなく私達の手で作ろうじゃないか」
後方にいる男性達が笑い始める。それに対し俺は、フードの奥で目を細めた。
「そうか……わかった」
「メッセンジャーとなってくれるか?」
「拒否したらどうなるんだ?」
「わかっているのだろう? 貴様は私達の手のひらの上だ。こうして全てを話すのは慈悲だ。それを無駄にするというのなら、一つしかあるまい」
「……そうか」
素っ気ない返事の直後、俺は息を吸い込む。
「もう一つだけ質問だ。残る六人はどこにいる? この都に残っているのか?」
「都の北に居を構えている」
俺達のいる森とは違う方角だな……イルフに被害が及ばないようだとわかったのは収穫だ。
「わかった。なら――」
俺は腕を振った。その直後、話をしていた男性が眉をひそめ――直後、その右腕が、ちぎれ飛んだ。
「が……あああああああっ!」
「お前達を残してはならないことが、はっきりわかったよ」
魔法が飛んでくる。けれど既に見極めていた俺は一瞬の内に彼らの背後に回り、一番後方にいた男性に接近。腕を振るった。
次の瞬間、男の首が消え失せる――こいつらはあくまで人間であり、また同時に不老の存在であるというだけ。会話中に魔力を調べ、分析し結論を得た。年をとって死なない少し魔力の多い人間……ただそれだけだ。
つまり、俺のように膨大な力を得ているわけでもない……だから、首を吹っ飛ばせば必然的に死ぬ。
「き、貴様――」
誰かが叫んだ矢先、そいつの上半身は消えていた。次いで腕を振れば残っていた一人もまた首がなくなる。
そうして最後に残ったのは、俺と会話をしていた男性だけ。彼は神速の攻撃に震え、腰を抜かし俺を呆然と見上げるだけ。
「神であれば、復活するんじゃないのか? ずいぶんともろいんだな」
「な、何者だ……貴様……」
「何者でもないさ。まあ、そうだな……言うなれば、お前達の敵だ」
「ま、待て! 私達と手を組めば、神になれるぞ! それだけの力があれば支配は盤石なものとなる! 私達の魔法と力を合わせれば、世界は――」
「いらないさ、そんなもの」
刹那、腕を振った。最後に残っていた男性の体も粉々となる。
「支配するつもりなら、とっくの昔にやっている」
吐き捨てるように告げた後、俺は男性の言葉を思い返す。
「北か……そこにきっと、ヴァルトもいる」
可能であれば、相手に気付かれない速度で片を付けたい。魔法により力を得てはいるみたいだが、俺と比べれば大したことがない。
これなら、一瞬で決着をつけることができる……ここで終わらせると胸に誓いながら、俺は都を後にした。




