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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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長い時

 その後、審問会が行われた。詳細については不明……というより、直接その経過を見ることはできなかったため、あくまで情報を頼りに考察したのだが……ひとまず、騒動のようなものは発生しなかった。

 結果から言えば、ヴァルトはどうやら研究所へ舞い戻ったらしい……どういうことをしたのか俺にはわからないけど、ひとまず彼は南部での騒動を経て、自分の理想的な展開に持ち込んだ。


 一体どのように丸め込んだのか……詳細を知りたいくらいなのだが、さすがに審問会の内容まではわからなかった。ここは残念だが、ヴァルトがとりあえず暴走しなかっただけ、良かったと思うことにしよう。

 できればその姿を確認しておきたかったのだが……王宮内に存在する研究所についてはさすがに把握することが難しい。というか警備が厳重すぎて使い魔すら入る余地がない。


 精霊云々のことについては、決して俺やイルフとは無縁の出来事ではないので、できることなら情報を得たいところなのだが……この辺りはどうやら厳しいようだ。伝え聞く情報だけで、考察するしかないだろう。

 ただ、少なくともこれで外に目を向ける可能性は低くなった……俺は警戒はしつつも森にある砦の中で暮らすことに。研究内容についてはそれこそ情報を探ることなどは一切できず……そこから何年も経過した。


「収穫はなしか……」


 研究所そのものも内容が少しずつ変化していく。俺がいた時とは人員も変わり、ヴァルトの存在も見えなくなる。

 彼自身、再び精霊を生み出す日が来るのだろうか……それを調べるために俺は色々と探るために魔法を開発した。具体的に言えば都の周辺に魔力を漂わせ、異常があれば検知するというやり方だ。俺の魔力であることを露見してはいけないので、かなり慎重になったが……俺の能力はそれを可能にした。


 そうして対策を施し、毎日観察し……それが日課となって以降、変化は何もなかった。相変わらず都は栄え、永遠に続くような光景だと思われた。


「戻りたいと思ったことはある?」


 イルフがある時、観察している俺へ問い掛けることがあった。やはり人々が暮らす場所に戻るべきでは……そんな考えが浮かんだのかもしれない。でも、


「いや、俺はこのままで……この場所で、暮らしていくつもりだよ」

「そう?」

「もう俺は人間ではない……ただそれは否定的な意味ではないよ。精霊の力を得た……場合によっては人々の役に立てるだけの何かを持っているかもしれない。でもそれは、決してできない。それをやれば、俺やイルフが狙われるから」


 隠れて暮らすというのは、他者から見ればあまり良い展開ではないかもしれない……けれど俺は心の内で納得をしていた。


「俺のことは大丈夫。この場所が……この砦こそ、俺のいる場所だ。どこにも行く気はないさ」


 その言葉でイルフは笑みを浮かべた。喜んだ表情を見て、それが正解なんだと俺は確信した。






 やがて――人間を辞めてしまった俺は、人間というものがどういう存在であるのかを知る。

 馴染みの店へ赴いたら、店主が替わっていた。聞けば先代は体調を崩し、病院にいると。見舞いに訪れると重い病気らしく、場合によっては――と聞かされた。


 その時、先代は俺に「若作りで羨ましい」と語った。ふと気付けば、その時点で彼と出会ってから十年以上が経過していた。そこではたと思う。人は年を重ねていく。けれど今の俺はそれもできなくなっている……同じ人間に会い続けるのは、もう避けた方が良いのだと。

 その後、少しして店主は亡くなった。俺は二代目の店主に「もう来ることはない」と告げ、町を去った。研究所の情報は別所で得ればいい……けれど、その店で前の店と顔を合わせた人間がいるとしたら? そういう風に思うと、情報を得るのも難しいと感じた。


 怪しまれれば致命的なことになりかねない……そして、人がいなくなっていく情景を見て、俺は違う存在なんだと改めて認識させられる。とはいえそれは絶望的なものではない。そういうものなのだと認識し、これからの生を全うしていけばいい。

 だから俺は、自分で情報を集めるべく色々と試行錯誤をした。顔や姿を変えて活動し、知り合いに遭遇しても問題ないように取りはからった。ただこれでも例えば何かの癖とか、そういうので知り合った人間にはバレるかもしれないので、顔なじみの店などには入らなくなった。魔法を使っているし、変に怪しまれるのも危険だと判断したので、念には念を入れた形だ。


 そうして研究所をなおも観察し続ける。結論から言えば、何もなかった……もしかすると、俺の知らない場所で何かが起きている可能性だって考えられた。けれどそれを確認することができない。限界があるのはわかっているが……平穏な暮らしを維持し続けるには必要なことだ。油断はできない。

 ただ、そうした生活も少しずつ変わっていく……店主が亡くなってさらに数十年経過すれば、研究所で働いている人間で俺を知る者など皆無になるし、なおかつ年数が経てばヴァルトも研究員ではなくなる……そればかりか、亡くなっている可能性さえあった。


 研究員は根を詰めるためか、時には若くして命をなくす者がいた……特に宮廷に近しい研究員は顕著だ。それだけ過酷な環境であることもある……だから中央に配属されたヴァルトだって、そう長くはないだろう。だからなのか……数十年経過した時、俺は最低限の情報収集をするだけで、都とは関わりを持たなくなった。

 その一方で俺とイルフは何一つ変わらなかった。変わらぬ姿で、変わらぬ生活を続けた。数えるのも止めたほどに季節を繰り返した。春の芽吹きを喜び、夏の暑さに嫌気を感じ、秋の紅葉に目を奪われ、冬の雪景色を砦で眺める……そんな生活が延々と続いた。これはきっと幸せなのだと思う。人間では決して成し得ない生活……それが俺とイルフにはあった。


 砦をさらに改修するくらいに時間が経過した時……俺はふと、どれだけの時間が経過したのか、少し調べてみようかと思った。都の様相も大きく変わっている。様々な魔法が生まれ、人々の生活を便利にしている。

 それは間違いなく、繁栄の絶頂……しかし、それが覆るときが迫っていた。その時、俺はどれだけの時間が経過をしたのか確かめる……精霊になって、百年が経過した時だった。


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