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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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変わった自分

「……そちらが懸命なのはわかっている。正直、俺に話を向けてきたことに驚いているくらいだ」


 まず前置きをする。それでヴァルトは何が言いたいのか理解したようだ。


「精霊のことは、なんとなく気になっていた……ヴァルト自身の研究テーマだからな。精霊が顕現したなんて噂はなかったから、俺は消滅したと思っていたけど」

「そう考えるのは無理もないさ」

「そうだな……俺の答えだけど、さすがに参加できない。ヴァルトの知人として研究所に入れば軋轢の一つも出てくるだろう。そういう意味合いでも、俺はいない方がいいさ」


 こちらの言及にヴァルトは沈黙し、


「……そっか。わかった。俺としては強制するつもりはないから」

「悪いな」

「これからどうするんだ?」

「物騒な話だと理解したから、おとなしく町を出ることにするよ」

「わかった」


 ……俺が研究機関のスパイだとか疑わないのか? と問い掛けたくなった。けれどヴァルトは全てをわかっているように、笑みを浮かべる。


「また、そうだな……騒動が片付いたら、落ち着いて話をしないか?」

「……ああ、いいよ」


 そうして会話は終わる。俺とヴァルトは店を出て別れ……彼は、雑踏の中に消えていった。






 以降、俺は使い魔を用いてヴァルトの動向を観察することにする。例えばここで中央からやってくる調査団の方へ情報を渡すというのも、一応行動の仕方としては存在する。けれど俺自身どちらかを肩入れする気はなかったし、何よりヴァルトが中央の面々に対し使い魔などで情報収集をしていれば俺のことがバレるだろう。それは今後彼と接触していくことがあるかもしれない以上、愚策と言ってもいい。


 よって、ここからはひたすら観察をし続けることになる……状況はわかったので、一度帰ることにする。ヴァルトの近くにいて何かあれば割って入るという選択肢もあるにはあったが……さすがにヴァルトが暴走しても中央が対抗できるだろうし、もし騒動になってもあっさりと鎮圧されるに違いない。だから俺がいても意味はないと考えた。

 よって俺はヴァルトと別れ、その足で帰ることにする……魔法を使い移動を続け、距離からすると驚くほどの早さで拠点に戻ってきた。


「お帰り、アスタ」

「ただいま、イルフ」


 互いに挨拶を交わした後、俺は彼女へ告げる。


「ヴァルトの居所は判明した……よって、ここからはひたすら彼について観察し続ける」

「わかった。砦にずっとこもるの?」

「その選択肢もあるが……ま、狩りとか採取くらいはするさ」


 そんなやり取りをしつつ俺はヴァルトを観察。帰る間にとうとう中央からの調査隊とヴァルト達が接触。正直言って、かなり険悪な感じのようだ。

 双方が敵意をむき出しにしており、まさしく一触即発。何が起こるかわからないという状況を考えれば、帰ってきて良かったのかと思うところなんだが……まあさすがに、ヴァルトも無茶はしないか。


 そんな楽観的な見方をしつつ、俺は観察を続け……どうやら話し合いの席がもたれたらしい。どういう内容なのかはわからないけれど……結果的にヴァルトは中央へ戻ることになった。

 いや、この場合は中央から呼び出しをくらった、ということか? そうであればヴァルトはこれからなぜこんなことをしたのか詰問されることになる……審問会が開かれる可能性もあるな。


 審問会とは、研究員が何かしら問題を起こした場合に行われるもの。研究の意図などを話し合い、問題があるかどうかを判断する。今回のヴァルトについてはなぜこんな反乱まがいのことをしたのか……その理由説明といったところだろうか。

 ヴァルトは正直に精霊にまつわることだと説明するのか? いや、彼は研究所の上層部が精霊のカケラを持っていると思っている。それが真実なのかどうかは別にして、彼がそう思っていることがここでは重要になる。


 つまり、審問だとしてもヴァルトの主張は退けられ、中央の研究員は精霊に関することを秘匿する……そんな可能性だって考えられるのだ。ヴァルトであればこの展開は予想できるはず。ならばなぜ、彼は中央からの呼び出しをあっさりと受けたのか?

 もしや審問会を開くためにこんなことを……? 色々と疑問が湧き出る。南部での騒動はあっさりと解決しそうではあるが、今度は逆の問題が発生した様子。


 ならば、俺はどうすべきか……ヴァルトを追って都へ向かうか? ただ、研究員でずっとこもりきっていたとはいえ、知り合いも多少ながら存在している。ならば少し様子を見るべきだろうか?


「……アスタ?」


 ふいにイルフから名を呼ばれた。はっとなり視線を変えると、心配そうに顔を覗き込む彼女の姿が。


「怖い顔してる」

「あ、ああ……ごめん。結構深く考え事をしていたみたいだ」

「そんなに重大なことなの?」


 問われ、俺は一度考え直す。


 ふむ、重大なことか……ヴァルトの状況が果たして良いのか悪いのかわからない。ただ、呼び出しを受けたということは、おそらく彼としても想定の範囲内なのだろうとは思う。まさか審問で精霊のことを主張するとは思えないし、何かしら秘策があるのだろう。

 ただ、俺が都へ赴いたとしても、それらの詳細を把握することは難しい……ならば、ここで坐して待つのが賢明かもしれない。


「……ごめん、心配かけた。ひとまず俺はここで都の様子を見るつもりだから」

「わかった。何かあったら相談して」


 イルフは離れる。俺は一度ふう、と息をついてからもう一度思案する。

 少なくともきな臭い戦争の雰囲気は消えたと解釈しても良い……よって、俺が何かをする必要性はない。とりあえず情報収集を行い、何かあれば都度動く方針でいいだろう。


 下手に動いてヴァルトに怪しまれるのが一番まずいからな……まあ審問会でも発生したらそれが噂話として聞けるのは間違いないだろうし、ひとまず様子見といくか。

 そう考えた後、俺はもう一度息を吐いてから外に出る。そう長くない旅路ではあったが、なんだか森の中にいる方が心安まる。


 喧噪に包まれた町の中にいて、少しだけ煩わしく感じたのは事実……精霊になったからではなく、この暮らしに慣れきってしまったからだろう。


「俺も変わったなあ……」


 そんな呟きを発した後、俺は木の実でも採取するかと思い、森の中へと進み始めた。


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