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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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彼の目的

「精霊に関する、話だよな?」


 確認のために俺は問い掛ける。すると彼は小さく頷いた。


「ああ、そうだな……精霊だ」

「見つかったのか?」

「残念ながら……しかし、その居場所はわかっている」


 強い瞳を伴い、彼は告げる……知っている。しかし俺やイルフが暮らす周辺でヴァルトの気配は感じなかった。ということは、


「わかっている? ならすぐにでも――」

「だが、駄目だ。今の俺では触れることができない」

「それは……手の届かない場所にいる?」


 疑問に対しヴァルトは「ああ」と答える。


「そうだ……だからこそ、得るために活動している」

「この騒動と関係があるってことか?」

「ああ、そうだ……まず、俺のことから話さないといけないな」


 何か――強い恨みを抱いているような態度。そしてその矛先について、俺はなんとなく理解できた。


「アスタが研究所に在籍していた時点で、俺は何をしていたかわかるか?」

「精霊を探していた、だろ?」

「そうだ。力を暴発させて研究所を抜け出したわけだが、不安定な存在であるためそう遠くには逃れることはできないはずだった。加え、研究室を破壊するほどの魔力放出……もし魔力が尽きたら大気の魔力を吸収するはずだが、どうやらそれをしなかった……いや、それをする前に魔力が薄くなり場合によっては霧散しているかもしれない……俺はそう推測した」

「でも、それでは――」

「魔力を取り戻せば、復元することは可能だ」


 そう語るヴァルト……本当にできるのかと疑問に及ぶところではあるのだが……いや、生成した直後みたいな形に戻すことは可能だと言っているのか。

 現在イルフは大気から魔力を取り込んで大きく姿を変えている。俺と出会った時はそのような状態であり、おそらく爆発によって消耗した魔力を、すぐさま大気から吸収したのだろう。


 つまり、ヴァルトの見立ては間違っている……のだが、これについては彼だって検証したわけではないので推察するのは無理か。ともあれ、彼自身はそうなっていると断定している。精霊が知恵を持ち動くはずがないと。


「だから、俺は魔力を探した……カケラでも存在していれば、そこから情報を抜き取ることは可能なはずだった……けれど」


 ギリッ、と奥歯を噛みしめる。それは間違いなく怒りを我慢している。


「俺が手に入れる前に……横取りされた」

「誰に?」

「王宮の研究所……そこの所長に、だ」


 思わぬ人物が登場してきた。


「彼の所に、精霊の魔力……その一欠片が辿り着いた。所長はそれを採集し、分析した。そして精霊の研究をしている俺が呼ばれた。どうやら分析により俺の研究であることを確信したらしい」

「その探知能力はすごいな……」

「ああ。俺自身も驚いた。だが問題はここからだった。俺は魔力を受け取りたいと申し出た。しかし、所長は拒否をした。精霊……生命の研究は許されるものではない。よって、この研究を禁止すると俺に通告した」


 なるほど、研究機関側はヴァルトの所業を認めなかった……ただ、


「所長は精霊のカケラをどうしたんだ?」

「そこだよ」


 強い口調で俺へと語るヴァルト。どうやら怒りを抱くのは、その部分らしかった。


「所長は処分したと語った。だが俺は違うと思っている……というより、王宮の研究所から、精霊の魔力を感じ取ることができた」

「それはつまり……」

「俺の研究を真似している……危険であると禁止したにも関わらず、自分達はのうのうと研究を進めているんだ。俺の技術を参考にして」


 ……その言葉が事実なのかわからない。ヴァルトの被害妄想という可能性もゼロではないが……いや、王宮ならやりかねないか?

 ただ、王宮が精霊を作り上げてどうするのか……もしかするとその価値に気付いたのかもしれない。俺が不老の存在となってしまったように、何かしらの手段をもってすれば寿命を延ばせるのではないか……そんな風に考え、研究してもおかしくはない。


 仮にそうであったとしたら精霊の魔力を研究しているだけであり、精霊を生み出すという結果には繋がらない。あくまでヴァルトの研究を参考にしている……といった可能性もある。

 ただ、今のヴァルトにそのことを告げてもおそらく意味を成さないだろう。彼の頭の中では精霊の研究を王宮が奪ったと解釈している。その正否がどうであれ、少なくともヴァルトはそうにらんでいる。だからこそ――


「……そして俺は左遷された。危険因子として、中央の研究所から排除されたんだ」


 おそらくその時、彼が所属していた研究所の所長は退任という形になったのだろう。ヴァルトの研究を止めなかった……危険であることは理解していたはず。だからこそ、止めるべきだった……こんなものは結果論なのだが、例えそうだとしても所長は責任をとって辞めた。

 なるほど、大筋の状況は理解した。つまりヴァルトは王宮に奪われた精霊のカケラを奪還すべく、南部で色々と動かしてそれをやるための準備を進めているわけだ。


「……けど、具体的にはどうするんだ?」


 俺からの疑問。


「物騒な雰囲気で、実力行使も辞さないって雰囲気だけど……さすがに分が悪いんじゃないか?」

「まともに戦えば勝てないのはわかりきっている。こちらとしてもすぐに攻撃を仕掛ける気はない。あくまで目的は、精霊のカケラを取り返すことだ」

「……その目的と現在の状況が一致しない気もするけど……ま、いいか。外野がとやかく言うような話じゃないな」

「悪いな」

「別にいいさ」

「……なあ、アスタ」


 と、ヴァルトは俺の名を呼び、


「そちらは暇であれば……手を貸してくれないか?」

「俺が? 魔法もまともに使えない人間だぞ。荒事の役に立つなんて無理だろう」

「いやいや、腕っ節は必要ないんだ。研究員としての知識とかを生かして、手伝って欲しいだけさ」

「研究員として、か……」


 それなら頷くこともできる……が、問題は研究所に入ってから。

 手伝うとなれば、俺自身身動きをとることが非常に難しくなるだろう。情報収集だけなら外側で使い魔を用いて調べるだけで済む。けれど研究所の内側に入ればそうもいかない。


 ここは分岐点だな……ヴァルトは俺に何をやらせるのか不明だが、研究関連となればゴーレムの調整とか、その辺りだろうか?

 どうすべきか……俺は沈黙。ヴァルトは答えを待つ構えであり……やがてこちらは、口を開いた。


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