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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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いつか出すべき答え

 店主から話を聞いてやはりヴァルトの居所くらいは知りたいと思ったのだが、さすがに一研究員の情報があっさりと手に入れるわけもなく……いや、そもそも研究所側がヴァルトの研究内容を危険なものであると判断したのなら、所属していた事実すら抹消していてもおかしくはない。

 よって、ここからは調べるには使い魔などによる自力だけだ……ここで俺はイルフのことが気になった。そういえば彼女は、


「なあイルフ」


 薬草の採取を終え砦に帰ってきた時のこと。俺は意を決するように彼女へ問い掛けた。


「俺と出会う前の記憶もあるって聞いていたが……自分が何者かに作られた存在なのは理解できているんだよな?」

「うん、それはわかってる」


 イルフは俺の目を真っ直ぐ見ながらコクリと頷いた。


「でも、私がこの世に現われた直後から……しばらくの間の記憶はないよ?」

「それはまだ赤ん坊のような状態だったから……だな。俺と出会って言葉を憶えたりしたけど、そこから上手く思考などもできるようになった……で、ここからが本題なんだが、イルフ。自分自身を作成した存在について興味はあるのか?」


 問い掛けにイルフは押し黙る。そこで俺はなおも続ける。


「創造者……ヴァルトという名前だが、俺は彼の知り合いだ。まあ親友というほどでもないし、心の内を完全に理解していると言われれば首を横に振る程度だけど……精霊という新たな命を創造するということに執念を燃やしていたのだけは、わかる」

「いずれ私達の所に来るかもしれない、と?」

「そうだ。ヴァルトはおそらく研究所にはいない……考えられる可能性は二つだ。地方へ左遷されてそこで再び精霊の研究をしている。あるいは生み出した精霊を躍起になって探しているか、だ」

「……うーん」


 彼女は小首を傾げる。何か意見があるのかと言葉を待っていると、


「その人のことは……私もよくわからないけど、私を放置することはないんじゃないかな」

「つまり、見つけるために動いていると?」

「私のことを作り上げたということなら、見つけ出す手法だっていくらでも編み出せるんじゃないかな?」

「本来ならそう思うところだよな……でも、そういう技法があるのなら、俺と出会う前に確保していてもおかしくはないはずだ」


 実際、ヴァルトに捜索はできるのかと尋ねたらできると返ってきたくらいなのだ。


「俺としてはヴァルトの捜索手段は何かしら欠陥があったため、成功しなかったと解釈しているんだけど」

「ふーん……あ、それならもしかすると……」

「え、心当たりがあるのか?」

「たぶんだけど……私は精霊だからなのか、それとも作った人が技能を用意したのか、大気から魔力を吸収できる」

「生命維持のためにだな。実際俺も同じ能力を持っているから食事を摂る必要性がなくなった」

「うん、私は生まれた当初研究所から逃げ出して、外に出た。そこで色々な魔力を吸収したはず」

「……ああ、なるほど」


 俺は言いたいことを理解し、告げる。


「その過程で本来の魔力が変質してしまった……ということか」

「今まで見つかっていない以上、それが答えじゃないかな」

「確かに、精霊にそうした能力を持たせたにしろ、それをすぐに使うとは思いも寄らなかったってことかもしれないな……うん、これであれば俺達の魔力を捜索して、という手段は使えないな」


 魔力は少しでも変質すれば辿ることができなくなる。肉体を持っている場合は魔力を維持することができるが、イルフは生まれた当初肉体が存在していなかったため、魔力が変質して見つけられなかった。

 ヴァルトとしてもこればかりは予定外だったのかもしれない……この推測に根拠はないのだが、実際にイルフを見つけられていない状況なので、それに近い状況なのだろうとは思う。


「……関心はあるのか?」


 もう一度尋ねるとイルフは小さく肩をすくめた。


「正直、製作者が誰なのか……そこについて私から言えることは何もないよ。そもそも記憶がまったくないし……私にとってはアスタが初めて見た顔って言ってもいいし」

「そうか……とはいえヴァルトについては調べようと思っている。さすがにイルフのことを会わせるような真似はしないけど、今後動向については報告するぞ」

「わかった」


 頷いた彼女は、取り立てて興味を持っているようには見えなかった。まあ彼女にとって俺と生活している今こそが全てってことか。


「……今後、ヴァルト捜索に注力するからあんまり構えなくなるかもしれないからな」

「なら、砦の周辺で適当に遊ぶから」


 互いに笑い合う。まあそれなりに信頼関係を築けているし、俺の言うことはきちんと守るから、大事にはならない……と思う。

 ただ、ここで疑問に思った。もしヴァルトとこの場所で遭遇したら……イルフをどうすべきだと思うのだろうか?


 さすがに黙って引き渡すようなことはしないと思う。少なからず情は移っているし、イルフが望むような形で、とは思っている。

 ヴァルトとしてはどうしたいのか……彼女を捕まえて、新たに精霊を生み出すべく動こうとするのか。それとも――


 調査の途中で遭遇したら、尋ねてみるか……ただ俺のことがバレれば矛先が俺へ向く可能性はある。

 なら、絶対にバレないように……あるいは、見つからないようにしなければならない。とはいえヴァルトのことが最大の懸念であるのは間違いないため、調べようとは強く思う。


「アスタ」


 ふいにイルフは俺へ向け、


「私は……アスタがどんな風に思っているか訊くつもりはないけれど、少なくともアスタが言うことを否定したりはしないから」

「……イルフ」

「アスタは私に命を助けられたって思っているけど、私だってこうして人と話せるようになったのはアスタのおかげだからね。私にだって恩義がある」


 そうか……俺は小さく頷いた。


「けど、イルフが拒否するような選択はしない……それだけは、約束するよ」

「ありがとう、アスタ」


 ヴァルトのことを通して、少しばかり内面に踏み込んだのかもしれない……ただ俺は将来のことも考える。不老だからといって、いつまでもこのままでいいのだろうか?

 長い時が経った後、いずれどこかで決断には迫られる……俺は、彼女はどうすべきなのか。その答えが見えているわけではないけれど……それを見つけ出すことが、俺の使命かもしれない。


 ともかく、イルフを悲しませないようにすることだけは……胸の中で小さく呟いた後、俺はヴァルト捜索に力を入れることとなった。


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