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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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前哨戦

 山脈前に到着しておよそ一時間ほど経過した時だろうか。神族側も準備が整い、いよいよ戦闘開始という段階まで来た。

 だがそれでも相手は一切動かない。なおかつ伏兵などを仕込んだ様子もない。ここまで来るとなんだか奇妙ではあるが、奇襲などはせず迎え撃ってその力を誇示するとか……そういう理由でもあるのだろうか。


「フィス殿、メリスさん」


 そしてアレシアが声を掛けてくる。


「準備はできた。敵はどうやら動く気がまったくないようだから、こちらから仕掛けよう」

「そうだな。策はあるか?」

「正面から叩きつぶす」


 真面目に答える……そういえば、神族側はアスセードとの戦いでも直進一辺倒だったな。あの時は圧倒的な武力があったからこその手だと思ったけど、アレシアのセリフから考えると「神族は正々堂々とあらねばならない」という考えに染まっているのかもしれない。


 まあ罠の気配もないから正面突破がまずい策というわけではないけど……この調子だと北部の神族軍本隊も真正面から仕掛けるってことだろうか。麓に布陣するレドゥーラはともかく、ザガオンはどう動くかわからない以上、俺達の立ち回り次第で戦況が変わるかもしれないな。


「では、行こうか」


 アレシアは剣を抜き、メリスもまた武器を握る。俺も神族から受け取った剣を抜き放った……切れ味も耐久性も増してはいるが、まだ足りないだろう。本当なら魔帝ロウハルドとの戦い前に剣を見つけてくるべきだったのかもしれないが、ここは仕方がない。

 徐々に神族がゴーレムへと近づく。その時、どの個体かはわからないがオオオオ――という雄叫びが聞こえた。


 それはおそらく鬨の声。直後、ゴーレム達は神族目掛けて突撃を開始する!


 圧倒的な迫力かつ、岩が津波のように襲い掛かってくるような光景。人間の騎士団であったならば何もできず防衛網を突破され、破壊の限りを尽くすだろう。

 しかし今回こちらにいるのは神族のみ。


「散開!」


 素早くアレシアは指示を出す。即座に神族達は動き始め、数人一組となって行動を開始する。

 そしてまず、魔法が炸裂した。最前線にいるゴーレムに目掛けて放たれたのは火球。爆発により岩を粉砕し動きを止める狙いのようだ。


 その魔法は――ゴーレムの足へと当たる。爆発音と共に粉塵が舞い、直撃を受けたゴーレムは倒れ伏した。

 足を撃たれたことにより滅びはしないが動きは止まる。後方にいるゴーレムが倒れる個体に足を取られ倒れてくれれば少しは楽になったのだが、どうやらそういうわけにもいかないらしく、ゴーレムは平然と味方である個体を踏み抜いて突撃してくる。


「足止めは無理そうだな」


 アレシアは冷静に語りながら、足を前に出した。


「私は部下と共に戦う。フィス殿とメリスさんは自由にやってもらって構わない。武運を祈る」


 ゴーレムが間近に迫る。そうした中でアレシアは肉薄してきた個体に目掛け駆けた。

 数名の部下と共にゴーレムを相手する……とはいえ彼女の剣閃はアスセードとの戦いを思い返せば凄まじいもの。どうなるかは明白だった。


 彼女は魔法と同様、足を狙い剣を振り抜いた。斬撃が岩に入った瞬間、ケーキでも切るようにあっさりとその体を両断。ゴーレムの体が傾き、横倒しになる。

 とはいえまだゴーレムの意思は残っており、倒れながらでも拳を振り下ろすことはできる……そこでカバーに入ったのが部下達。彼らはまず頭部に狙いを定め、一斉に剣を突き立て――ゴーレムは、動かなくなった。


 ゴーレムは制作者によって特性を変えられる。どういう命令を与えるのか、あるいはどの部位が弱点なのかなど、人口生命体であるが故にその特性も変えることができる。

 視線を転じると、頭部に魔法を当てたことにより動かなくなる個体を発見。どうやら今回のゴーレムは頭部に弱点を持っている様子。攻撃により停止したことに加え、間近で観察するそこに魔力が集中していることがわかる。頭の中に脳に相当する魔力が備わっており、そこを潰せば動かなくなるようだ。


「――頭部に集中攻撃を!」


 そしてアレシアが叫んだ。彼女もまた察した様子。


 すると後方にいた神族達が反応し、さらなる魔法が放たれた。火球や大きな氷柱など様々なものが降り注ぐ。神族であればより強力な魔法を使えてもおかしくないが、味方もいるためあまり派手な魔法は使わない、といったところか。

 神族達は一斉に魔法により、ゴーレムの頭部を的確に撃ち抜いていく。さすがと言いたいところだがそれでも後続からゴーレムが迫ってくる。神族と言えどこの波に飲まれたら押し潰される他ないだろう。ここが踏ん張りどころか。


 俺もまた動き出そうとして――先に、メリスが前に出た。その身のこなしは軽く、魔王アスセードにしてみせた時のように一瞬でゴーレムに肉薄する。

 次いで彼女の剣がまずゴーレムの足を捉えた。その刃もまたアレシアと同様、あっさりと岩を斬る。


 片足を失い片膝で立つような形となるゴーレム。するとここでメリスが予想外の行動に出た。ゴーレムに自らの足を引っかけたかと思うと、一気にその体を駆け上がり始めた。

 その狙いは頭部。ゴーレムの頭部へと迫り、剣で首をはねる。


 それにより、ゴーレムは動かなくなった……頭に剣を当てるには近づかなければならないとはいえ、思い切ったことをする。


 また、俺の間近にもゴーレムが迫る。どう対応するかは決めていた。


 俺は剣を持たない左手をかざす。迫るゴーレムの頭部に狙いを定め、光を放った。

 それは弾、というよりは光の剣とでも言えばいいだろうか。とにかく光は正確にゴーレムの頭部へ突き刺さると、爆ぜた。


 結構威力があり、俺の魔法は頭部だけでなく胸部の一部まで破壊し、ゴーレムを停止させる。次いで俺はさらに魔法を放つ。狙いは正確で今まさに神族やメリスへ迫ろうとしていたゴーレムへ目掛け、光の剣を当てる。一瞬で剣がゴーレムに突き刺さる様は神族達がどんな風に思ったか……ともかく、俺の攻撃によって一気に数体のゴーレムが倒れ伏した。


 この調子でいけば、時間も掛からず前線部隊は崩壊する……そうなればゴーレムを統率する魔王レドゥーラが出てくるかもしれない。

 もし出現したらこの手で叩きつぶす……殺気が出ないようちょっとばかり注意をしながら俺はなおも魔法を放っていく。そのペースは神族やメリスがゴーレムを倒す速度を凌駕しており、


「……凄まじいな」


 誰かの声が聞こえた。そして俺の行動に対しメリスは燃えたのか、動く速度が明らかに増した。無理するなと言いたかったが彼女は構わずゴーレムへと斬りかかる。接近してきた彼女に対し、ゴーレムは拳を振り上げた。

 それは巨体に似合わぬほど速く、メリスの眼前へと迫る。だが彼女は横に足を動かしてかわすと、跳躍し肩に飛び乗った。


 こうなるとゴーレムは対処できない。即座に首を斬り飛ばした彼女は、ゴーレムが倒れる前に跳躍し、他のゴーレムへと飛び移る。効率もいいが空中で狙われたら終わりだぞ……しかし彼女は一向に構わぬといった様子でゴーレムを斬っていく。

 ここは援護するか。俺は彼女に狙いを定めようとするゴーレムを優先的に撃ち抜く。気付けば相当数が減っていた。


 うん、これならあっという間に……そう考えた直後、山側から強い気配を感じ取った。


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