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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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得られた情報

 魔物と交戦して以降、俺は魔法に関する研究に没頭し始めた。予定通り周辺の村とか町とかと交流もしながら、魔力を制御し魔法を体得していく。

 それはまさしく、急速な変化だった。人間では達することができない領域……その高みに、俺は間違いなく到達してしまった。


 一つ学べばそこからは芋づる式に技術を体得していった。研究員として知識を詰め込んでいたのも功を奏した。人間であった頃の知識をフル活用して強くなっていくわけだが……正直、自分でも恐ろしく感じてしまうほどだった。

 あと、イルフにもこれは伝えた方がいいなと思い、彼女へ技法を伝達したのだが――成長ぶりは目を見張るものがあった。


 よってそこからは鍛錬を続け、人間では対抗できないほどの技量を身につけることに……ヴァルトがどれほど恐ろしい存在を創り出したのかが理解できる。

 そういえば彼はどうしているのだろうか……と、色々調べてはいるのだが、何の情報も手に入らない。下手すると研究所にいないのかもしれないが……この辺りについてはまあ引き続き調査を続行しよう。


 そうして強さを手に入れたので、俺達には選択肢が生まれた。いざという時にも逃げられるだけの能力を保有することができたので、心に余裕も生まれた。

 結果としてどういう状況に陥っても良いように準備をしたわけだが……実際に俺が懸念するようなことは起きなかった。加え、村や町の交流も上手くいき、俺が元研究員であることがバレるようなこともなかった。


 知り合いに会わなければ問題ないだろうな……ただそういう懸念についても、一年二年と経過していくと、徐々に問題ないだろうという気もしてくる。

 俺のことを憶えている人間なんてそれこそほんのわずかしかいないだろうし、記憶している人だって忘れるだろう……実際に俺が研究員だった時、よく話をしていた人間だって一年も会わなければ記憶の彼方へ追いやってしまっていた。何度も会ったはずなのに、初対面だと勘違いして互いに自己紹介をした、などという馬鹿みたいなエピソードだって存在する。研究所はそういう場所だ。あらゆるものを魔法技術の発展に捧げ、他のことは隅へと追いやる……そういう生き方をしなければ、あの場所で生き残ることはできなかったのだ。


 俺のことは死んだことになっているだろうし、いざとなれば他人のそら似で誤魔化せるはず……ただ唯一の懸念は、やはりヴァルトだった。

 彼がどうしているのかについて調査を続けたが結局研究所で彼の姿を発見することができなかった。こうなると異動になったか、あるいは精霊探しをしている時に事故で……そんな可能性が浮かび上がってくる。


 異動、というのは即ち左遷と同義なのだが、ヴァルトについてはそうとも言い切れない。精霊という概念を生み出した場合、下手すると研究所でマークされる可能性もある。彼の技術を盗もうとかいう輩だって現われるかもしれない。そんな事態となればヴァルトはおそらく耐えられない。よって、誰にも邪魔されない場所で研究するため、あえて地方へ行くという可能性もゼロではない。

 左遷というのなら、精霊探しに躍起となって研究成果を出せず追放されたという可能性もあるけれど……こればかりは研究所に潜入しないとわからない。たださすがにそれはリスクが高いか。


 正直、ヴァルトのことが唯一の懸念だと言っても良かった。だからこそ俺は気を揉んで、十二分に警戒していた。

 せめて居所がわかれば……時間もあることだし、地方に存在する研究所をしらみつぶしに探してみようか? そんな考えが浮かび上がった時、転機が訪れた。


 ある日、俺は薬草を近隣の町へと持ち込んだ。そこで店主と世間話を行ったのだが、


「そういやお前さんはどこぞの研究員かい? 珍しい薬草を持ち込んでくれるしな」

「ああ、いえ。研究機関には入ったこともないですよ。俺にそういう作業は向いていなかったようで。試験とかも落ちる次第で」

「ははあ、そうなのか……薬草を調べるだけでも、結構な成果になりそうなものだけどな」

「成果……誰かが言っていたんですか?」

「ん? ああ、たまに国の研究員さんが買い付けに来るんだよ。頻度は……十日に一度くらいかな?」

「へえ、そうなんですか……あの、研究所について何か知っていたりしますか? 俺も一応魔術師の端くれで、最新情報くらいは知りたいなと思って」

「お、興味があるのか?」

「森で狩人みたいなことをしている身ですけど、やっぱり魔法に強い興味があるので」

「あー、いいぜ。そちらはお得意さんだからな。俺が知っている範囲でなら」


 店主からの情報については、正直あまり期待していなかったのだが……都の研究所の人事などについて、彼は結構突っ込んだ部分を知っていた。どうやらその常連さんが世間話の呈で研究所の世情について教えてくれるらしかった。


「最近は、そうだな……第三研究所の所長が交代したな」

「交代ですか……都の研究所は入れ替わりが激しいと聞きますが」

「あそこは研究と同時に政争とかやっているからな。正直、俺としては恐ろしくて近づけんよ」


 笑いながら話す店主。新所長の名前を聞くと以前の副所長。順当な昇進だなと思いながら、情報をアップデートする。


「他の研究所で所長が交代とかはしていないんですか?」

「ないな……これより前と言えば、第二研究所の所長が数年前に替わったくらいだ」


 ヴァルトのいた研究所だな。俺がいた時にそんな話はなかったので、それ以降の話だろう。

 彼の所業と何か関係があったりするのだろうか? ただ一研究員の不祥事で所長が交代するなんて話は基本的にないのだが、


「その時は結構大変だっただぜ? 研究員の一人が何かヤバいことをしたらしく、放置していた所長が引責辞任したと」

「ヤバいこと……?」

「詳細は知らん。うちの常連も怖くて話せないって言われたよ」


 ずいぶんなスキャンダルだが……ヴァルトがもし、精霊探しを止めて再び作成したのなら、あり得なくもないか?

 生命倫理に関わるので、研究所側も野放しにできなかったとか……となればヴァルトは左遷されたか? 俺は彼についてどうすべきか考えつつ、店主から色々と情報を手に入れたのだった。


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