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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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精霊の名

 朝日を眺めていた時、小さく息をつく――それと同時だった。


「……キレイ」


 言葉。それが精霊から放たれたものだとわかった瞬間、視線をそちらへ注いでいた。

 彼女はじっと朝日を眺めていた。どういう感情で発した言葉なのかは……問うまでもないか。


 俺はそんな横顔を見ながら朝日を眺める。どのくらいそうしていただろうか……沈黙していると精霊がこちらへ視線を投げてくる。

 朝日から俺に興味の対象が移ったのだろうか……喋ることができたので、まずは尋ねてみることにする。


「俺の言葉は……わかるか?」


 精霊は小さく頷いた。唐突な変化ではあるが……いや、もしかすると俺と歩いていた時点で変容し始めていたのかもしれない。

 あるいは俺に魔力を注いだことで、俺の記憶から言葉などを知ることができたとか……一夜明けるまでにその処理をしていたという解釈ならば、この変化も納得がいく。


「なら、自分がどういう存在なのかは?」

「……セイ、レイ?」


 やはり俺の記憶に基づく情報か。これなら、


「なら、下手にこの森……いや、砦の周辺を離れたら危ないことは理解できるな?」


 もう一度コクリと頷く精霊。


「そちらはウロウロすれば、俺自身も危なくなるかもしれない……安全に活動できるようにはするつもりだけど、今は砦の中にいてもらえると助かる。あ、ここへ来るのは問題ない。誰かに見られる恐れもないからな」

「ワカッタ」


 片言で話す精霊。しかし日が経てばここからさらに円滑に喋ることはできるようになるだろう。

 意思疎通ができるようになったのなら、ひとまず安心だな……ではここから先どうするか。時間だけはたっぷりあるし、ゆっくり考えればいいか。


 まずは何より、安全圏を確保することだな。その辺りについてどうやるかは一応頭の中にある。魔法を使う必要性はあるけど、研究員だった俺にとって不可能なわけじゃない。

 自分の姿が見られないようにするための処置について、算段を立て始める。時間は限りないほどあるし、食料調達などをする必要性もないため余裕だってある。だからまあ、一つずつじっくりやろう……そう思いながら、作業を進めることになった。






 以降、俺は精霊の力を手に入れてしまった体について調査を行いながら砦の中を過ごしやすいよう改装していく。とはいってもガレキを片付けることから始めるため、一日どころか十日経っても終わらない。まあ一人でやるには広すぎるし……精霊も手伝い始めたのだが、それでも足らない。少しずつ進めていくしかないだろう。

 本当に食料について問題ないのは良かった……それに追われては精神的な余裕もなかっただろうし、無茶苦茶になっていただろう。


 一方、精霊についてだが……彼女は本当に無垢な存在であり、例えば創造者が誰であったりとか、そういう知識すら保有していなかった。ヴァルトが聞いたらどう思うのか……色々と考えてしまうことはあるけれど、俺はもはや俗世から離れた人間。忘れてしまった方が良いだろうな。

 そんな彼女に俺は色々なことを教えていく……最初はそれこそ赤ん坊のように知識のない存在だったわけだが、決して記憶力などが悪いわけではなく、俺が語る内容についてはしっかりと理解し、憶えていった。


 そうしたことをする間に俺は少しずつヴァルトが生み出した精霊がどのようなものなのかを把握していく。精霊という呼称が的確かどうかは正直微妙なところではあるのだが……彼女は言わば魔力の塊とでも言うべき存在であり、また同時に高次の生命体といったところだろうか。魔力を基にして構成されている生物はこの世界に存在しているわけだが、その中でもとりわけ高密度……密度があるからこそ、脅威的な力を保有し、また同時に人間と同じように思考できるというわけだ。


 ヴァルトはこの精霊を生成するためにどれほどのことをやったのだろうか……精霊について理解すればするほど彼の執念がどれほどのものか思い知らされる。

 それと同時にヴァルトが彼女の探し出すのにあらゆることをしてくるだろうと想像するには難くなかった。よって、


「砦の周辺に怪しい存在を見つけたら感知できるような処置はした……基本的に砦の周辺では自由にしていいけど、その範囲から出ないようにだけはしてくれ」

「わかった」


 ――時間が経過し、俺が知識を与えた時点で彼女の会話も淀みなく行えるようになった。意思疎通がしっかりできるならやりようはあるし、現時点でトラブルも発生していない。


「でも、この砦にずっといるの?」


 精霊からもっともな質問。俺は少し考え、


「正直、ここは都からそう遠くない場所だ……いずれこの場所に調査にやってくる人間がいてもおかしくないから、できることなら遠くに移動した方がいいんだろうけど……」


 今頃都では俺の扱いがどうなっているのか……森は危険だからしばらく入るなとか言われたら一番ありがたいのだけど、そう上手くはいかないか。

 都側の状況を把握するための処置も行う必要があるな……やらなければならないことが増えていくけれど、優先順位を付けて少しずつ進めていくしかないな。


「とりあえず、他にやることは――」


 そういえば一つ、重要なことを忘れていた。


「……君は名前とかあるのか?」

「名前?」


 聞き返した精霊は自分の姿を見返す。


「ない……けど……」

「そっか。二人だし呼び掛ける場合でも特に不便は感じないけど、名前はあった方がいいだろう。もし誰かに遭遇しても、誤魔化せるようになるし」


 腕を組み考える。とはいえ、名前か……ペットに名前を付けるような感じではさすがに駄目だろうし、何か良い名前があればいいんだけど、


「あなたがつけてくれるの?」

「俺でも良いけど、君自身が名乗りたいものがあれば、それに従うぞ。何か候補はあるのか?」


 問われ精霊は黙考する。心当たりがありそうだけど。

 何かあるのであれば、俺は無言で言葉を待つしかないな……そうしておよそ一分ほどだろうか。俺に対し幾度か視線を向けた後、


「……イルフ」

「イルフ?」


 その名は確か……俺の記憶にあるもの。どうやらこちらの知識を参考にしたらしい。

 俺としては特段否定する理由もない。よって決定。精霊――イルフは同意の言葉に、小さく微笑むのだった。


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