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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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隠れ住む拠点

 拠点候補と頭に思い浮かべた場所へ辿り着いたのは、その日の夕方。今頃俺のことを探しているのだろうと想像しながら、帰ることができないため、その内行方不明という形で処理されることになるだろう。


「ふう」


 小さく息をつく。目の前には目的地……石造りの砦が存在していた。

 なぜこんな場所に砦があるのか――発見した際に調べた結果、これは魔物を討伐するために用意された砦だと判明した。山奥にこんな場所が――と思うところではあるのだが、どうやら過去この森林地帯には国が存在していたらしい。聖王国が建国するより前の話であるため、遠い過去の出来事なのだが……その砦は森に侵食されて外部からはほとんど見えないようになっている。だからこそ、隠れるにはうってつけというわけだ。


「よっと」


 入口も木々に侵食されているため、少し無茶をして中へと入る。冷たい空気が体を撫で、なおかつ魔力を感じた。

 以前の俺……人間の俺であればおそらく気付くことができなかった魔力。じっと建物の中を見回すと、どうやら砦の建材そのものに魔力が宿っている。木々に侵食されてはいるのだが、砦そのものの強度は失われていない。この魔力のおかげだろう。


「砦の素材についても調べたら……とか思っていたけど、それも果たされることはなかったな」


 研究テーマが見つからなくて結果を出すことができなかったらここを調べる、という保険的な意味合いがあったのだが……そういうことに関わらなくても済む、というのは少し気が楽な気もする。

 精霊は俺についてきて、中へと入ってきた。そこで明かりを灯す。周囲は無音であり、生物の気配さえない。


 森の中なので虫とか獣とかいてもおかしくないのだが、そういう気配さえ一切ない。おそらく砦の魔力が生物を除外する効果があるのだろう。唯一人間だけは……知性を持つ人間であれば、それをはね除けて中へ入れるというわけだ。


「ひとまず、休めるスペースを探すか」


 食料的な不安は一切ないので、寝床の確保だけすれば十分。とはいえさすがに飲まず食わずというのはあまりに味気ない。少しくらいはそういう楽しみがあってもいいだろう。

 俺が歩き出すと精霊もついてくる。どうするかなあと内心で思いながら砦を散策。程なくして比較的ガレキも少ない部屋を見つけたので、ここを寝床にする。


「入口の木々を払って、なおかつ太陽の光が入るように調整すれば、まあ住めるかな」


 とりあえず朝日が見れるようにしようかな……などと考えていると、精霊が小首を傾げていることに気がついた。


「……そっちも、適当な場所で寝て良いよ」


 というか、命令を聞くのか? 疑問ではあったのだが俺の言葉は多少なりとも理解できたのか、彼女が部屋を出た。

 外に出て戻ってこないという可能性もあるけど……彼女を無理矢理拘束することはできないし、そういう権利もない。


「俺は……どうするべきか」


 ここが見つかってしまったら、旅にでも出るしかないな。まあそれはそれで良いかもしれない。

 食うに困るような存在でもなくなったからな……というわけで、俺は明日のことを考えつつ、眠ることにした。






 その日、見た夢のことは明確に憶えている。研究者として忙しくする日々。周囲には同僚がいて、俺を呼び掛けて研究を手伝ってくれと頼まれる。

 そんな風に時間を過ごし、昼食をとり、また仕事に入る……そんな俺にとって当たり前の日常。しかし、気付いた時には周囲に誰もいなくなっていた。研究室は閑散として、俺が呼び掛けても誰も来ない。


 何故だ、と心の中で呟くと同時に俺は部屋を出た。そこは研究所ではなくなっていた。漆黒が広がり、俺は深い奈落へと落ちていく。

 どうしてこんなことに――そんな言葉と共に俺は叫ぼうとして……目が覚めた。


「……まったく」


 苦笑を浮かべながら起き上がる。こういう夢をもしかして明日からずっと見ることになるのだろうか……と、どこか憂鬱な心境を抱えつつ、外へ出ようと歩き出す。

 明かりは一睡しても消えていない。以前の俺ならば長時間の魔法は明かりであってもあっさりと消えていたはずなのだが、どうやら魔力が増えたことにより魔法の効果も上昇したらしい。


 魔法的な才能はカケラもなかったので、そういう意味では魔法を極めることができそうなこの体になったのは良いこと……なのか? 疑問ではあったが人助けとかできるかもしれないな、と思ってポジティブに考えることにする。

 そして、精霊はどこにいったのか……と思って廊下に出ると立っていた。どうやら砦の中を歩き回っていたらしい。


「おはよう」


 とはいえ、時刻はどのくらいだろうか。砦内に太陽の光などが存在していないので、正確な時間はわからない。

 俺は挨拶をして外に出ようと歩き進めると、精霊もついてくる。入口から出るとどうやらまだ日の出前だった。ただ太陽が見えるまでそれほど時間はないくらいで、周囲は少しばかり明るい。


「……そうだ、確か山を少し登れば」


 砦は山を背にしているのだが、そこには上れる場所があったはず。以前訪れた記憶を掘り起こして歩む。精霊もそれについてくる。俺は何も言うことなく、ただひたすら足を動かす。

 やがて坂を上がり、森の中を進む。そうして辿り着いた場所は岸壁の一角。どうやら偶然岩肌が道のようになったらしく、一番上に辿り着くと木々の上で、太陽が昇る様を眺めることができる。


「……新たな生、か」


 俺は呟く。日の出と共に――昨日までの俺と決別して、これから異形の存在として過ごしていかなくてはならない。

 ただ正直、希望も絶望もなかった。その時の俺は、ただ自分の人生というものが一度潰えて、新たな生を過ごすことに対し、どこか達観していた。


 不安がないというのは、ある意味で幸運かもしれない……まあずっと引きこもっていても死なない体になったのだから当然かもしれない。

 そうして眺めている内に、いよいよ朝日が昇ってきた。それと同時に俺は、否応なく何かが始まるのだ、と心のどこかで呟いた。


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