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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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森の中の遭遇

 ヴァルトの研究室で起こった事故からおよそ二ヶ月。俺は研究のために外に出ていた。報告書などを提出するとかそういうものではなく、森の中でフィールドワークをするためだ。


 研究内容が触媒や材料の調査や分析であるため、自然界に存在する物質を見つけては解析するというのが俺の本分だ。定期的に森へ出て、その季節に存在する動植物を採取して解析する。良い触媒に当たる可能性は皆無に近いのだが、こういう作業こそが明確な研究結果を得るための第一歩。それに俺自身、外を歩き回って何かをするのは嫌いではなかった。よって、その時も楽しげな雰囲気を見せていたと思う。


「ふむ、今日はこのくらいか?」


 森に入って数時間経過した時、俺はそんな風に呟いた。周囲に他の研究員はいない。同僚が別所で花などを採取しているのだが、俺は川沿いに進み素材がないかを探していた。

 この時点で背負っているかごにはそれなりの植物が入っていた。季節ごとに植物は変わるし、同じ植物であっても生育状況によって触媒になれるかは違ってくる。よって、前回の調査と同じ物を採取しても思わぬ結果になることがある。


 前回この森を訪れた時と俺は同じルートを辿っていた。川沿いに下流へ進めば都近くへ到達する。上流へ向かえば、より険しい森と山が待っている。今日はそこまで行く予定はないし、昼には切り上げる予定だったので、これで引き上げるつもりだった。


 ふと、俺は周囲に目を向ける。汚れのない山から流れる川のせせらぎ。森から聞こえる小鳥のさえずり。平和な世界であり、こんな光景がいつまでも続くと思っていた。


「……そういえば」


 俺は何気なくあることを思い出す。それはヴァルトのこと。二ヶ月の間、俺は顔を一度も合わせなかった。それは仕事が忙しいのもあるが……なんとなく、精霊という存在に妄執を見せる彼に俺は少し距離を置こうと思ったのだ。下手すると巻き込まれる……触らぬ神に、ということで意識的に彼と会わなかった。


 そんなヴァルトについてだが、動き回っている様子なので精霊は見つかっていないようだ。ま探す場合は彼が動き回る必要があるわけだが、魔力を探索できるにしても逃げてしまった存在を見つけ出すのは難しいはず。本当なら捜索隊くらいは編制すべきはずだが――この状況でも、彼は誰かに頼るような事はしないだろう。

 正直俺としては精霊そのものが外に出て死滅した可能性も浮かんでいる……もっとも、ヴァルトはそれで納得などしないだろう。あらゆる手を尽くして探し出す……問題は、


「見つけ出して、どうするつもりなんだろうな」


 個人的にそこが疑問だった。精霊を回収して、ヴァルトは何をする気なのだろうか?

 この時、俺はヴァルトが精霊を生み出して何を成そうとしているのかわからないことに気付いた。研究過程や内容を気にはするが、その目的や意図については正直どうでも良かった……と言うのは言いすぎかもしれないが、実際にそこはないがしろにしていた。


 手段が目的と化す、とでも言えばいいだろうか……研究者として成果を上げることが至上命題のはずだが、研究員は心の内にある目標などについては、あまり興味を持たれなかった。目の前にある研究をこなし、成果を上げることが至上命題……そこに私情を挟む余地はない。

 無論、したい研究をしている者は、明確な目的はあるだろう。ヴァルトはおそらくその類いだ。しかしその時の俺は……研究所に入って、ただひたすら目の前にある仕事を片付け続けていた俺にとって、目的というのがどういったものなのか、推測すらできなかった。


「ま、いいか……ともあれ、ヴァルトについては少し顔を出してみようか」


 多少様子を見るくらいならば問題はないだろう。そう決断して俺は戻ろうとした……その時、


「ん?」


 チカッ、と光のようなものを目に留めた。木々の間から発せられたもので、太陽光の反射などではなく……魔法の光のようにも見えた。


「魔物がいるのか? いや、でも光を発するような魔物っていたか?」


 俺はそう疑問を抱きながら、森へ足を向けた。正直、魔物と遭遇すれば下手すると命がない。しかし好奇心が勝った……ゆっくりと、慎重な足取りでそちらへと近づいていく。

 木々の隙間から先を覗き込むと、キラキラと光る……装飾品だろうか? しかし太陽の光もあまり当たっていないように見える木陰でああもキラキラと光るだろうか?


「人……のように見えるな」


 こんなところに迷い込むとは……俺は森の中へ入る。茂みをかき分けて進んでいくと、やがて視界に光るものの正体を見つけた。

 それはどうやら、女性。青いドレスに身を包んだ妙齢の女性。衣服に合わせ髪も青く……と、ここまでで俺は強烈な違和感を抱いた。


 どう見ても、こんな森の中まで来る格好ではない。従者の一人でもいれば……と思ったが、そもそもあんな姿の女性が森の中にいる理由が想像つかない。

 なおかつ、装飾品が輝いていることも疑問だった。俺の目からは、装飾品自体が自発的に輝いているように見受けられた。そういう機能を持った物……とくれば魔法でも封じ込められているのかと思うのだが……近づくとわかる。魔力が、異質だ。


 それは明らかに人間ではない。それを理解した直後に俺は足を止めようとした……のだが、吸い込まれるようにそちらへ歩んでいく。

 魅了の魔法でも掛かったのか……いや、その時の心情を言い表すのは難しい。ただ確実に言えることは、その時俺は異様な好奇心を抱いていた。疑問しか浮かばないような存在。それと邂逅して、相手がどのような行動を起こすのか気になったのだ。


 あるいは、俺へ攻撃してくるかもしれない。それともこちらに気付いて逃げるかもしれない。茂みをかき分ける音はしているのに相手はこちらへ向かない――と思った矢先、気配に気付いて俺へ視線を注いだ。

 美しい女性だった。一目見て思わず硬直してしまうほどに。ただ、それは人間離れしたものであり、異形の存在であることが改めて認識させられた。


 果たしてどうなる……冷静になるよう頭の中で必死に言い聞かせながら、俺はとうとう女性の前に辿り着いた。


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