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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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異形の顕現

 異変が起きたのは出会ってから半年後。第二研究所で、爆発事故が起きた。


 研究中のトラブルというのは往々にしてあるため、その時も誰かがヘマをやったのだ、として関係のない研究員はさして気にすることはなかったのだが、俺は違った。その事故を起こしたのが、他ならぬヴァルトだった。よって、俺は彼の研究室を訪れた。


「これは……ずいぶんと酷い有様だな」


 彼の研究室は、爆発により崩壊していた。資料や一つ残らず焼け落ち、研究に使用していた資材はその全てが完全に破壊されている。

 ヴァルトについては唯一無事だったようだが、彼が研究することはおそらく不可能になる……そのくらい、ひどい状況だった。


「大丈夫か、ヴァルト」

「……ああ」


 返答しながらも彼の表情は上の空。無理もない。この惨状を前にしたら誰だって同じ状況になる。

 どうやって慰めるべきか……励ます言葉を告げようとした矢先、彼は予想外の文言を口にした。


「……できたんだ、ついに」

「え?」


 彼の顔がゆっくりと俺へ向けられる――その時、俺は背筋がゾクリとなった。

 目の前の状況を見れば、そんな表情をするのはあり得なかった。いや、破壊された結果絶望の中から生み出された表情であったと解釈することもできた。けれど俺はそう感じなかった。


 ヴァルトは……うっすらとではあるが、笑っていた。まるで生涯求めていた物が、見つかったかのように。瞳の奥には喜悦の色すら浮かんでいた。


「どうした?」


 そんな中で俺は冷静になろうと努めながら問い掛ける。それにヴァルトはこちらの思惑などを考慮せず、うわごとのように、


「精霊が……この世に顕現したんだ」

「精霊……」


 具体的な成果が生じた。それと同時に俺は目の前の惨状がどういう意味を持つのか理解する。


「これは、精霊が誕生したことによる余波か?」

「その通りだ。自我を持った瞬間、この研究室を破壊し尽くした」


 笑いながら語る……その目は、この状況を楽しんでいるようだった。


「ん……ということはちょっと待て、もしかして精霊は外に出たのか?」

「そうだ。研究所をすり抜けて外に出た」

「さすがにそれはまずいんじゃないか?」


 研究内容を外へ出すには許可がいる。精霊という存在はあくまで研究内容であるなら、ヴァルトは罰せられる。

 なおかつそいつはこの研究室を破壊するような存在。さすがにこれは看過できないか――


「アスタ」


 研究所へ報告しようかと思った俺へ、ヴァルトは告げる。


「この件、黙っていてくれないか」


 さすがに彼もそう言うのは理解できるが、


「一般人に危害を加えたら、タダじゃ済まないぞ?」

「わかっている。だが俺としてはもうこの研究室からたたき出されてもいい」

「……精霊が生まれたから?」

「そうだ」


 ヴァルトの言葉に俺は少なからず狂気を感じる。


「無論、被害が出ないように動く……精霊はおそらく魔力を得るために外に出た。けれど一般の人間が保有する魔力量なんて高が知れている。向かう場所はおそらく森などの、魔力が潤沢に存在する場所だ」

「生まれて間もないんだろう? その辺りの分別はつくのか?」

「精霊を誕生させる前にどういう思考を形成するのかについてはおおよそ仕込んでいる。魔力を求めるという形にしているのは間違いなく、後は見つけ出して捕らえればいい」


 こういう状況になるのも想定して準備はしてあるというわけか。


「今なら研究による爆発事故で処理できる。頼むアスタ」


 ……もし、報告したらヴァルト自身が処罰される可能性もあるが、さすがに人的被害が生じる危険性のある精霊を放置する可能性は低い。まあ確実に処理はされるだろう。

 あるいは、ヴァルトの研究成果を横取りしようとする輩がいてもおかしくない。精霊を捕まえ、ヴァルトを追放し、改めて精霊という新たな生命の研究を誰かがやる。おそらくヴァルトとしてはそれこそ最も耐えがたい屈辱のはずだ。


 俺についてはそもそも精霊を研究対象とする気なんて皆無だし、口も固いため問題はないと判断したか……しかし黙っているだけでこちらに被害が及ばないというわけではないだろう。こうしたことを知っていたのに放置していたと知られてしまえば面倒なことになる。


「そちらが知っていることは黙っていればいい」


 心を読むようにヴァルトは俺へ続ける。


「今回については魔法実験の失敗で片付ければいい……それで露見することはない」

「……精霊に対し、何かしら捕まえることができる方法があるのか?」

「無論だ」


 頷くヴァルト。正直、目の前の彼が外に出て精霊を捕まえるのに奔走する……という構図はあまり考えられないのだが。

 例えば俺については動植物の解析や研究をしているのでフィールドワークについては多い。けれどヴァルトの研究内容は内にこもるもの……突然外に出て活動すれば怪しまれることにならないか?


 とはいえ、ここは黙っているのが賢明か……少なくとも彼は研究について自信を持っていたし、嘘を言うことはなかった。それは研究に自信を持ち、なおかつ研究において嘘を言うのが嫌いだった……誤魔化すことはプライドが許さなかったというのもある。

 正直、このまま任せてしまって大丈夫なのかという不安はあった。精霊という未知の存在を創造してしまったことに対する気味の悪さはこの時確かにあった。しかし、俺は同時に理解している。ヴァルトは俺が横槍をすれば必ず反発してくるだろう。彼自身大丈夫だと言っている状況で下手に干渉すれば、彼自身から恨まれるかもしれない。


 そういう面倒事も俺にとっては勘弁願いたかった。そして同時にこの時、薄情な気持ちもあった。即ち、多少犠牲が出たとしても俺には関係がない、ということだ。

 怪我人でも出ればもはやヴァルトがどうこう言うような状況ではなくなる。友人である俺に聞き取りでもされたら知らず存ぜぬを通せばいい。


 そういう風に頭の中で算段をつけ……俺は告げた。


「わかった。なら俺は何も知らない。これでいいな?」

「ああ、助かる。待っていろ、必ず……」


 そこから先は何も言わなかった。研究室の片付けを始め、外に出る準備などはこれから行うのだろう。

 嫌な予感は拭えなかったが、まあ俺には関係の無いことだし……そんな風に思い、その時は立ち去った。そう、関係がない……そう俺は思っていたのだ――


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