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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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待ち構える者

 俺達が魔帝ロウハルド側の情勢をさらに知るようになったのは、ヤツの根城である山岳地帯に程近い宿場町だった。


「どうやら魔王二名がロウハルドの本拠を守るように、山の麓に布陣しているらしい」


 そうアレシアは解説を行う。場所は宿内にある酒場。夕食後であり、俺達の前には空になった皿と水の入ったコップだけが残っている。


「レドゥーラとザガオンについてだが、レドゥーラの方はゴーレムを操り、ザガオンは翼の生えた悪魔を率いているようだ」

「ゴーレムの種類は?」


 俺は問い掛ける――ゴーレムというのは魔力を用いた人工的な生命体。生成方法にも種類があるし、さらに言えばどんな素材なのかによって能力が変わる。


「岩などによって形作られた、普通の人々が想像できるゴーレムだ。人間は二回り以上大きくした体格で、魔力を込めた拳により敵を倒す」

「まさしくロウハルドの戦闘能力を繁栄したような魔物だな。ザガオンについては?」

「共通しているのは先も言ったとおり翼を生やしている。山岳地帯を上空から警備しているようだな」


 地上をレドゥーラのゴーレム部隊が守り、空をザガオンの悪魔部隊が監視しているようだ。防衛についてはずいぶんと強固だ。

 ただ前に出てきた魔王を倒せばその守りも薄くなるわけで……うん、麓で始末できれば良いことづくめだな。


「そして、私達の同胞から連絡も入った。現在神族の本軍は山岳地帯を挟んで反対側……北側にいる。ただしこちらは密かに動いて敵にバレないようにしている。そして魔王二名は私達がいる南側」

「敵側は戦力をこちらに集中させていると」


 俺の言及にアレシアは頷き、


「アスセードを倒した私達を警戒しているようだ。他にも南側には戦力が向かっていて、そちらにも警戒しているのだろう。しかし本軍は北側だ」

「つまり俺達は囮ってことか?」

「時間稼ぎ役、と言えばいいだろうか。魔王二名を南側に釘付けにして北側にいる本軍でロウハルドを叩きつぶす」


 ……神族側も本気ってことだろうな。


「なるほど、役割は理解した」

「北側にいる戦力がロウハルドを潰せば、魔王二名も窮地に立たされる。神族側としては最優先すべきはロウハルドという認識のようだ」


 つまり、大将さえ討ち取ればいいというわけか。


「魔王二名については? 釘付けというと単なる牽制では駄目だろ?」

「時間稼ぎとは言うが、撃破できるのなら――」

「倒してしまって、問題はないんだな?」


 確認の問いにアレシアは言葉に詰まった。


 本気でそれをやろうとしている――あくまで魔王を自称しているだけの存在ではあるが、アスセードの実力から考えればレドゥーラ達もまた強いと認識できる。

 加えて二体同時……いや、両者が並び立っているわけではないだろうから二体同時に相手する可能性は低いけど、それでも連戦になるのは間違いない。


 だから危険度も難易度もアスセード戦以上。けれどそれでも、俺は倒すつもりでいた。


「……魔王アスセードとの戦いぶりを見て、感じたことがある」


 そこでアレシアは俺へ口を開く。


「あの戦い。まだフィス殿には余裕があるように感じられた。魔王二体と戦っても対抗できる……と、考えているのか?」

「断言はできないけど、できる限りやってみるさ」


 俺の言葉にアレシアはどう思ったか……ともあれ「わかった」と応じ、彼女は引き下がった。


 一方でメリスもまた魔王と戦えるということでやる気に満ちている。ただアスセードとの戦いを思えば、彼女単独では厳しいかもしれないが……マーシャとの会話であった切り札を使う可能性もあるのか?

 なんだかメリスは無茶をしそうだし……何かあったら守るくらいの心構えはしておくべきかな。


 やがて会話は途切れ、自然に解散となる。明日出発して少し進めば山岳地帯へ到達する。そこでいよいよ決戦だ。

 果たして神族達の作戦は成功するのか……そこはロウハルドがどれほど力を持っているかによって変わってくるが、もし神族が負けた場合は――色々と想定しつつ、俺は体を休めることにした。






 翌日から俺達は進路を北へ向け、さらに進んでいく。その途中で複数の神族と合流し、俺達を取り巻く面々は増えていく。

 この調子でいったら陽動である南側も結構な戦力になるのでは……そう思うと神族側が魔帝ロウハルドに対しどれくらい警戒し、またこの戦いで決着をつけるという強い意志を垣間見ることができる。


 本音を言えば魔王二名を打倒した後、魔帝ロウハルドまで行って倒したいところ……そうすれば俺の目的の一つである「神族の長である主神に会う」が実現する可能性が高まる。神族が警戒するほどの相手だ。そこで功績を上げれば俺のことを無視することはできなくなるだろうし。

 とはいえさすがに神族側も面子があるだろう。独断専行で行動するのはよろしくなさそうなので、今は魔王二名を倒すことだけを考えよう……そんな心境の中で山の麓に到着したのだが、敵は既に準備を終えていた。


「ずいぶんと、俺達を評価してくれているみたいだな」


 そんな感想に対しアレシアは「だろうな」と答えた。


 俺の真正面には山へと続く道があるのだが、その真正面に多数のゴーレムが配置されている。歓迎はしてくれるらしい。

 アレシアの事前情報通り岩の体を持ったゴーレムであり、その大きさから相当な威圧感がある。今はまだ微動だにしていないが、もっと近づけば突撃してきてもおかしくない。


「現在、ゴーレムはまだ動いていません」


 と、アレシアに報告するのは彼女の部下であり斥候。


「どうやらこちらが仕掛けることに応じるような形のようで」

「専守防衛というわけか……ゴーレムがいる以上、レドゥーラは私達を見ているはずだがザガオンはどこだ?」


 悪魔を率いる魔王については……頭上を見てもいない。


「山岳地帯の南部にいるという報告はあったわけですが、そこからあまり姿を見せていない、と」

「……空を飛ぶ以上、山岳地帯を縦横無尽に動ける」


 そこで口を開いたのは、メリス。


「魔帝ロウハルドを守るか、南部を守るか……どちらにでも動けるような態勢にしているということでは?」

「なるほど、それなら姿を見せない説明はつくな」

「北側の本体の存在を認識し、警戒しているんじゃないのか?」


 俺の言及にアレシアは口元に手を当て、


「だとしても作戦を変えることはできない……こちらが相応の戦果を上げることができれば、ザガオンも動かざるを得ないだろう」

「それはつまり、レドゥーラを倒してザガオンを引っ張り出すってことか?」

「そういうことだ」


 とすると派手にやった方がいいかもしれないな……さて、どう戦おうか。


「まず我々は真正面から仕掛ける。レドゥーラがどういう手を用いてくるかわからないが、ゴーレムを潰せば前に出てくる可能性は高い。できることならこの麓で決着をつけよう。こちらが上か相手が上か……実力勝負になるな」

「神族側の戦力はどうなんだ?」

「ゴーレム相手に後れを取るようなことにはならないさ。とはいえロウハルドから力を得てレドゥーラがどのくらい力を得ているのかは未知数。相手の力量によって、適宜判断するしかないな」


 そう述べたアレシアは部下に指示を送り始めた。一方で俺やメリスはゴーレムを見据え、その能力を探ろうと試みる。

 遠方から感じられる気配としては、確かに一般的な戦士などでは厳しいだろう。でも俺なら突破は難しくないな……この場にいる者達なら十二分に戦える相手。


 ならば最大の問題はレドゥーラについて。なおかつどのタイミングで現れるのか……前方を注視する間に、アレシアは淡々と準備を進めた。


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