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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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対価の要求

 事後処理は滞りなく終了し、その間に魔物の襲撃などもなく、その日ようやく戦いを終えてテントへと戻った。

 時刻はもうすぐ夜になろうとしている。今頃メリス達はそわそわしているだろうと思いながら、俺は戦況を整理する。


 戦争を開始して二日目だが、ヴァルトを押し返すことに成功した。ここからヤツは少なくとも俺を討てるだけの力を得るまでは地底の奥にでも引っ込むだろう。つまり、しばらくの間は軍事侵攻などはない。

 そして入れ替わるように神族がやってくる……情勢としてはこちらに傾いている。味方側も士気を維持してまだまだ戦える状況を作った。もし魔族達が押し寄せてもこれなら問題はないし、耐えられるだろう。


 よって、ヴァルトを仕留めさえすれば……と思ったところで食事を行い、その後王に呼ばれた。

 指定された場所は王がいる天幕。訪れると既にメリスやチェルシー、マーシャに加え、


「まさかこの方まで来て頂けるとは……」


 ノルバだった。俺に向け小さく会釈すると、こちらは一つ尋ねた。


「ヴァルトについては?」

「監視はしている。問題ない」


 それだけとはいえ必要な情報は得たので、俺は話を始めることにする。


「……正直、事細かに話していると相当長い。よって、重要な部分だけ喋らせてもらう。まずは俺とヴァルトとの出会い……ヤツは因縁のある相手であり、それはおよそ千五百年ほど前に遡る」

「……それほどまでに、生きることができるのか?」


 そう問い掛けたのは王。俺はノルバへ視線を送ると、彼は小さく頷いた。


「王、主神から概要については?」

「少しだけだが……勇者フィス、あなたは様々な時代を駆け抜けてきた生き証人であると」

「それは半分正解だ」


 もう正体を明かすし敬語を使うことをやめて、俺は王へ告げる。


「実際のところは……ヴァルトの野望を止め、倒す行為の繰り返しだった」

「それだけしぶとかった、と」


 チェルシーの横槍。メリスがたしなめるような視線を送るが、俺は気にせず、


「ああ、そうだ……そうした過程で、俺は様々な称号を得た。その中の一つが、魔王ヴィルデアル……そういう名前だった」

「陛下……」


 メリスが何かを言おうとした。けれど言葉にはならず……俺は続ける。


「千五百年前。この世界にはまだ魔王や神族といった存在はなかった。あるのは卓越した魔法技術……人間は研究ひたすら押し進め、開発し続けていた。魔法は個人が操るというよりは、国が管理するものであり、人々の役に立つために利用されていたものだった」

「古代の時代、か」


 ノルバが呟く。彼にとっても……感慨深いもののはずだ。


「その中で俺は、研究者として活動していた。魔法に関する研究……とはいえ特別なものはなく、俺は他の研究者の中に埋もれていた……そうした中で、同世代で頭角を現していたのが、ヴァルトだった」

「優秀だったというわけか」


 王は口元に手を当てて呟くと、


「その彼が、なぜあのような存在となってしまった?」

「……きっかけは、きっと些細なものだった。研究者であり、また同時に魔法というものを極めたい……そういう願いから、最終的にああなってしまったのかもしれない。まあ今は最初の目的なんて忘れているだろうけど」


 俺はそう告げると、ため息を吐いた。


「先ほど、俺は単なる研究者……凡庸な研究者だったわけだが、それであれば当然千五百年もの間、生きながらえたわけじゃない。無論そこには理由がある……それについても、ヴァルトが関係している」

「勇者フィスは、ヴァルトによってそうなってしまったと?」


 王の問い掛けに俺は小さく頷いた。


「そう……偶然なのか、それとも運命だったのか。最終的に俺とヴァルトは、この世界に居座ることとなった」

「だからこそ、決着を……と」

「ああ」


 俺はここで、王と目を合わせる。


「……こうなってしまった以上、仕方がない。本当ならばこの戦いが終わって功績を手にした後に言うべきことだったかもしれないが」

「どうした?」

「ヴァルトについては、因縁の相手である以上は絶対に決着をつける。そしてこれは結果的にこの国を救うことになる」

「対価が欲しいと」

「といっても金銀財宝に興味はない。俺が欲しいのは……魔王ヴィルデアルの配下として活動していた者の、安住の地だ」


 メリスやチェルシーは俺のことを見る。しかしこちらは構わず続ける。


「魔王を倒し、神族と顔を合わせるのは、そのためだ」

「なるほど、勇者として功績を上げ、それを利用して魔族に安らげる場所を……というわけか」

「主神が俺の知り合いであったため、予想以上に話が円滑に進むことになったわけだが」

「しかしなぜ私に?」

「これについては神族を頼ることはできないから。相手は魔族であるため、協力にも限界がある。どこかの国に頼る他ないわけだが……ならば大きな恩を売ったあなたに話を付けるのが確実だと思っただけだ」

「ならば、そうだな……なぜ彼らを?」


 その疑問に俺は一時沈黙した。


「……事情は今から説明を。俺やヴァルトが辿ってきた道筋が、原因なのは間違いない」

「勇者フィスの過去にあるというわけか……魔族にとって安住の地、か。厳しい用件であることは確かだが、この国を救うべく活動している勇者フィスの要求だ。受けないわけにはいかないな」

「では――」

「土地を用意できる確約はできない。そこは申し訳ないが……少なくとも、そうした土地があるのかどうか探し、場合によっては他国についても調査して候補地を探しだそう。そのくらいのことは、協力させてくれ」

「ありがとう」


 これで、ひとまず目標は達成できるかもしれない。もっとも達成してからも大変だが……ともかく、


「では、改めて話を。全ての始まり……ヴァルトと俺がなぜこうなってしまったかについて。俺達の過去を……正直、本当に真実なのか疑わしい内容だとは思う。しかし、これは歴然とした事実……それは間違いなく、この場にいる誰の知識に対しても想像がつかないもの。心して、聞いてくれ――」


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