配下として
結局、王は「夜、話をしよう」と提示してこの場を去った。それを見送り俺はメリス達の帰りを待つことにする。
その間に戦場では軍が本陣へと退き始めた。二日目の戦いも勝利し、なおかつ魔王さえはね除けた。これにより士気が大いに上がることだろう。なおかつここからは神族の援護もある。盤石の態勢といっても過言ではない。
ただ、問題としては内通者について……いや、この段階に至っては考慮に入れる必要性もないか。国のことについてはあまり関わらないようにしてきたし、政治的な意味合いで何かあっても俺達に影響が及ぶことはあまりなさそう。
で、王についてだが……あの調子だと全てを話す必要性があるな。神族と共同戦線を張り、なおかつこの国が戦場になるのだ。聞く資格もある。
俺としては……これを利用して少しばかり突っ込んだ話をしたいな。具体的に言えば同胞達について――
考えている間にメリス達が戻ってくる。マーシャなんかは相変わらず横にいて、彼女達の動向を窺う構え。
で、肝心のメリスとチェルシーについてだが……気付いているようなのだが半信半疑といった様子。そりゃそうか。勇者だと思っていた存在が突然魔王だったなんて、無茶もいいところである。
「……あ、あの」
「メリスの思っている通りだ」
と、次の瞬間メリス達はまったく同じタイミングでひざまずいた。
「も、もももも申し訳ありませんでした! 数々のご無礼を――」
「待て待て。先に言っておくが俺は魔王ヴィルデアルじゃない」
「しかし、陛下という存在がここにいる以上、陛下は陛下です!」
マーシャと同じパターンである。これどうするかなあ。
「……ちなみにですが」
と、見事に敬語となったチェルシーが口を開く。
「マーシャについては……」
「ああ、俺の戦いぶりに疑いを持った結果、いち早く怪しんだからな。事情を話す必要性があったので、出会った当初から知ってた」
「マーシャ!」
思わず声を荒げるメリス。で、こちらが視線をやったら申し訳なさからなのか、顔を伏せた。
「に、偽物を見破ることもできず……申し訳ありませんでした!」
「そこについては仕方がないさ。そもそも俺は既に魔王という存在じゃない。だからまあ、マーシャにバレなければ事情を話すようなこともしなかったさ……それで、だな。個人的にはひざまずくの止めて欲しいんだが……」
「陛下と同じ目線が話すなど、恐れ多い!」
マーシャと同じことを言い出す。俺はこれ見よがしにため息を吐いた。もっとも、メリス達には効いていないようだが。
「……マーシャ、何か言ってくれよ」
「状況的に隣に立っていますが、私としても今すぐメリス達と同じように臣下の礼を取りたいのですが……その、前を横切るのは恐れ多くて……」
「何なんだよお前らは……」
頭を抱える。現状、俺達を見咎める人がいないのでどうにかなっているけど……ひとまずそれで場を収めるしかないか。
「……まだ戦いは続いている。人間側から不審をもたれたくない。だからひざまずくのは止めてくれ」
「しかし――」
「言いたくはなかったんだけどな……これは命令だ」
シュパ、と効果音すら伴いながらメリスとチェルシーは同時に立ち上がった。うん、大変よろしいのだが、俺としてはこういうの望んでない。
「はあ……まったく……」
敬語もやめて欲しいのだが、そんな要求をしても絶対に通らない様子なので、控えることにしよう。
「ともあれ、話については王とも顔を突き合わせて、だ。詳細はそこで一度に語るから、それまで待ってくれ」
「わかりました。ただその前に一つだけ」
メリスが俺へ述べる。何だと思いながら言葉を待っていると、
「偽物を倒した後、どうするおつもりなのでしょうか?」
「それは俺が偽物と入れ替わる形で魔族達を支配するか、ということか?」
「……はい」
「メリスとしては、この大陸の支配を望んでいるのか?」
疑問に対し彼女は沈黙する。どうとも答えられないか。
「……そこについては明言しておくが、そんなつもりはない。そもそも魔王であった時だって、そのようなつもりはなかった。俺のやり方がまずかったため、勘違いされていたみたいだが」
そこでチェルシーへ視線を送る。
「チェルシーとしては、面白くない内容かもしれないな」
「陛下がそういう方針なら、従いますよ」
笑みを浮かべる。どういう考えなのか腹の内を探りたい気分になったが……やめておこう。
「ともかく、事情についてはしっかり話す。作戦は成功したからな。後は偽物……ヴァルトを始末するだけだ」
「神族と手を組んでいても、ですか?」
メリスが問う。彼女については結界に気付いたか。
「ああ、そうだ」
「陛下のことを知れば、神族側としてもどう対応するのか……」
「心配はいらない。その辺りの事情も主神は把握済みだ」
目を丸くするメリス。さすがにこの返答は予想外だったか。
「主神と、話をつけたと……!?」
「これについては、もっと込み入った話になる。それについても話をしなければいけないかな……ま、ここまで来たんだ。ヴァルトのことを語る上でも必要だし、喋るか」
なんとなくマーシャへ目を向ける。色々と聞けるためかなんだかそわそわしている彼女がいた。
「嬉しそうだな」
「はい」
「マーシャとしては聞きたかった部分だろうからな……葬るべき真実のはずだったが、掘り起こさなければいけなくなったのはなんたる皮肉か」
「ヴァルトが現われたから、ですよね?」
「そうだな。こんな大掛かりな作戦でなければ……俺だけでヴァルトを追い詰めることができていたなら、こんなことをする必要はなかった」
天を仰ぐ。結局あいつを追い詰めることができたのは、色んな者達と手を組んだからだ。
「……ひとまず、王とは夜話すことになったから、それまでは体を休めていてくれ。加え、明日から激しい戦いが待っている。これまで以上の激戦になるだろう。ヴァルトも俺がいることを知ってしまったわけだからな。少しでも休んで体調を戻しておいてくれ」
その指示にメリス達は頭を下げて応じる。態度を変えてしまった彼女達を見て、俺は内心で小さくため息をついたのだった。




