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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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弱肉強食

 新たに出現した魔物の姿……それは人間を優に超える巨体を持つ敵だった。


 人間のような手足を持ち、鎧と具足を身につけている。そして頭部は狼のもの……それが一気に十数体出現した。

 同時に俺達へ向け吠える。戦場に響き渡るその声は、大気を切り裂いていく。


『蹂躙せよ、我が配下』


 号令を下す魔王。同時、巨獣達は一斉に突撃を開始した。

 それは、地面を砕くような足音と共に……騎士や兵士達がどう動くべきか対応に迫られる。魔王は俺が食い止めている。だが、巨獣達は自分達でなんとかしなければならない――


 そこで前に出たのがメリスとチェルシーだった。両者は戦場を駆け抜け巨獣へ挑んでいく……女勇者として俺と共にこの戦場を戦ってきたわけだが、兵士達もその実力は理解できていたはずだ。しかし、あれだけの質量を持つ相手には危ないのでは……そう思ったはずだ。

 けれどそれは杞憂だった。先行して巨獣と斬り結んだのはチェルシー。巨獣は彼女を見定めると腕を掲げ振り下ろした。


 武器は所持していない。小手は身につけているが防御のために使用するものだろう。主武装は間違いなく鋭い爪。いや、単に拳を振り下ろすだけでも人間を押し潰すことは容易いだろう。

 食らえば八つ裂きか、それともぺしゃんこか……しかしチェルシーは振り下ろされた腕の軌道を見極めて最小限の動きでかわす。次いで懐に入り込み……その胸元へ、刺突を繰り出した。


 鎧を着込んでいる巨獣ではあったが、彼女の突きは魔力を伴ったもので威力もある。結果は――俺がいるところからでもわかるくらい盛大な音が響き渡り、巨獣の胸を、貫通した。

 そればかりではなく、大穴を開けることに成功。巨獣はビクンと一度体を大きく震わせると、ゆっくりと倒れ伏した。


 さらにメリスが別の個体へ向け仕掛ける。巨獣が前方から迫るメリスへ向け薙ぎ払うように腕を振るう。地面スレスレを一閃するその腕は、騎士でさえも逃れることができない凶悪な一撃であるはずだ。

 けれど巨獣が腕を放った時、既にメリスの姿はなかった。敵は手応えもなく空振りに終わったことに動きが一瞬止まる。どうやら敵を見定め倒すだけでなく、思考もしているらしい。


 当のメリスは――跳躍し、巨獣の上をとっていた。空中では身動きも取れないため危険な戦法ではあるのだが、ここでは問題ないと彼女が判断したのだろう。


 刹那、彼女の刃が巨獣の頭部へ突き刺さった。途端に咆哮を上げる巨獣。ただ剣が刺さったままだと首を振るだけで彼女は吹き飛ばされかねない――しかし彼女もそれは理解できている。

 巨獣が次の行動へ移るより先にメリスは剣を振り抜いた。斬撃は頭部を両断する形で走り、巨獣は……動きを完全に止めた。


 ――今ので二つわかったことがある。まず巨獣自身考えて行動している点。たぶんだけどヴァルトから簡単な命令を受けており、目の前の敵をただ蹂躙するだけでなく、敵の行動に合わせて戦うようになっているのだろう。


 そしてもう一つは、チェルシーが胸部、メリスが頭部を破壊したことにより巨獣は動かなくなった。二人が次の個体へ突撃を開始した時点で塵のように変じつつある。質量が大きいため滅ぶにも時間は掛かっているようだが、動かないので完全に消えるまで放置でいいだろう。

 ともあれ、人体における急所と呼べる部分へ攻撃したことにより滅んだ……つまり人間と同じような構造を持っているということだ。


「――ずいぶんとまあ、面白い形にしたな」


 俺は眼前の魔王へ向け、告げる。


「ただ強い魔物を作るだけだったら、あんな武装したものを作成する必要はなかったんじゃないのか?」

『あの姿にこそ、意味がある。貴様にはわからんだろうが』


 意味がある? と疑問を抱いたと同時に答えは出た。おそらくこれまで配下にしてきた魔族達の能力を参考にしている、か。

 であれば、そうした者達から技術を得て、人間を上回るものを手にした……ただ、


「どういう目論見があるのかは知らないが、見事に粉砕されているぞ」


 メリスとチェルシーが巨獣をさらに倒す。無論彼女達だけでは巨獣の進撃を止めることはできないのだが……二人の奮戦を見たためか、味方側も立て直し、王の号令の下に攻撃を開始した。


『あれで完成というわけではないからな』


 そして魔王は変わらず余裕の返答を行う。つまり技術蓄積などは途中というわけか。


『だがまあ、あの女どもは面倒だな。貴様を叩きつぶし、それに続き始末するか』


 ……やはりメリスやチェルシーについての言及はなし。知っているのであれば俺に対し『あの二人は私の配下だった』とでも語ればこちらの動揺を誘えるかもしれないのに。そして演技をして油断させられたかもしれないが、それはないようだ。


 ということは、俺の身辺について情報を得ていたが、核心的なものではないようだ。例えば配下はどういう存在なのかなど、詳しい部分はあまり調べていない。ならば俺の居城に潜入していた、というわけでもないだろう。


 魔王が一歩前に出る。いよいよ決着を、というところか。なら、


「……一つ、聞いていいか? なぜわざわざ、魔物達に武装させる?」


 その疑問に魔王は、


『ほう? どういう意味だ?』

「俺はお前が滅ぶ前、どういう魔王だったかよく知らない……知らないが、ただ国を蹂躙させるためであれば、魔族を率い、そいつらに任せればいいだろう。しかしお前はあんなデカい魔物をわざわざ作っている……俺が挑んでいた魔王とは、なんだかやり方も違うな」

『面白い、そこに疑問を抱いたか。確かに並の勇者ではないようだ』


 魔王は感心するように述べると、


『答えは極めてシンプルだ。あらゆる意味で人間を超えなければならない……そしてそれは、配下にも同じことが言える』

「魔族にも、力を付けよというのはそういう意味か?」

『そうだ。もしそれについてこられない配下がいても……それは弱肉強食の世界で負けただけだ』


 ――たぶん、魔族から技術提供を受け、それを果たすことができれば用済みとして喰って自分の糧としているのかもしれない。

 なるほど、理解できた。単純な強さだけを得ても先がない。しかし技術を得たならば、成長の余地がある。この世界を征服する……そのためには、成長性なども得る必要があったというわけか。


「わかった……なら、始めようか」


 俺の言葉と同時、魔王が剣を構え――こちらは、魔力を高め迎え撃つ。果たしてあとどれほど時間を稼げるか……とにかくやるしかないと思いながら、魔王と剣を合わせた。


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