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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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完璧な魔王

 俺が魔王へ踏み込むと同時、魔物達も一斉に襲い掛かってくる。そこへ、


「勇者を守れ!」


 王の号令により、兵士達は声を張り上げ突撃を開始した。もし偽の魔王が周囲の兵士や騎士を狙ってきたなら面倒だったが……相手は俺に狙いを定めたらしく、剣を差し向けてきた。

 周囲に気をつけるよりも、相応の力でさっさと勇者の俺を倒した方が士気も削れるし良いという判断なのだろう。刹那、魔王が握る剣と俺の剣が激突する。凄まじい衝撃が腕から伝わってくるが……耐えきった。


『面白い、そうでなくては』


 魔王はどこか感心するような言葉を投げると、こちらの剣を強引に押し込もうとする……その中で俺は一つ悟る。魔王の魔力……その外殻を持っているのは間違いない。俺が魔王ヴィルデアルとして活動していた際に、情報を得たのだろう。

 そして、その奥……体の奥底に眠っている魔力は、間違いなくヴァルトのものだ。幾度となく追い詰めて、逃げられた存在……それが確実に目の前にいる。


 本物……なのだろうな。こいつの目的がまだ判然としていないわけだが、千年魔王のことを考えるとロクでもないことは確実。なおさら今回の策で、仕留めるための舞台を用意しなければならない。

 とはいえ俺もあまり派手なことはできない。下手に力を見せて警戒されたら……魔王ヴィルデアルに繋がる情報を一つでも渡してしまったら、確実に察するだろう。よって、勇者フィスとして……魔王で培った能力を活用できないわけだ。


 まあロウハルドとかゼルドマに使用した技法については、使えなくもないが……やたら複雑な技術を保有しているとなれば、警戒される可能性がある。そこから魔王ヴィルデアルの転生体であることを勘づく可能性は低いにしても、できる限り確率はゼロにしておきたい。


 ――魔王ヴィルデアルという存在が消え去ったことにより、ヴァルトは動き出した。俺という障害が完全に消えたことで、こいつは隠れるのを止めたのだ。もしこれを逃したら……今度こそ、尻尾をつかむことができなくなるかもしれない。

 だからこそ、ここで――そんな風に思いながら剣を振るう。魔王からの剣戟は確かに脅威だが、魔力を相殺しつつ衝撃を魔法で和らげ、どうにか応じる。


『はははは! さすが、と言っておこうか!』


 声が聞こえた。それは骨のある人間に出会えて嬉しい、という雰囲気。


『我が体もずいぶんと力を戻した……それに対抗できるだけの力を持っているか、勇者の息子よ』

「ずいぶんとまあ、悠長だな!」


 俺は魔王の剣を弾き飛ばした後、一歩距離をとった。


「お前を打ち破った勇者の息子……それが互角に戦えている。以前の悲劇を思い出したりはしないのか?」

『思い出すさ。忌々しいあの出来事は、しかと頭にこびりついている』


 魔王は淡々と応じる……ヴァルトは、俺がなぜ滅び去ったのか、わかっているのだろうか?

 自分の身を犠牲にして同胞を守った……そういう策だと、気付いていたのだろうか?


『だが今はむしろ清々しいと言ってもいい……なぜか? それはようやくこの記憶をぬぐい去ることができるからだ』

「息子を倒すことで……か?」

『そうだ。もし勇者の息子が取るに足らない存在であったのなら、記憶は残ったままだろう。しかし、数度剣を打ち合えばわかる……その実力は本物だと。本物だからこそ、目の前の貴様を倒すことで、過去を完璧に払拭できる』

「ずいぶんと神経質な魔王だな。そんなに悔しかったのか?」

『魔王であり、この大陸……世界を治める以上、シミ一つ存在してはならない。貴様は我が服のシミだ。それを取り払うことで、ようやく完璧になることができる』

「完璧、ね」


 呼吸を整える……もしかするとヴァルトは、意趣返ししようとしているのかもしれない。

 こうやって語ること自体、全てが嘘であってもおかしくはないが……長年、気が遠くなるほどヴァルトを追ってきた俺はわかる。目の前の、魔王ヴィルデアルのフリをしたヴァルトは、本気で言っている。そして衣服のシミという表現だが……それもまた事実だろう。


 しかし内容だけは違う。本物の魔王ヴィルデアルを倒した勇者の息子。その人物を殺すことで、自分はヴィルデアルよりも上の存在であると証明しようとしているのだ。それは滅した俺への当てつけといったところか。


 ヴァルトとしても俺に対する恨みは相当なものだった、ってことかな……本当ならヴィルデアルを滅した勇者本人と戦いたかったのかも知れないけど、さすがに全盛期は過ぎている。ならば、勇者に近しく、さらにその力も魔王を討つに足る力を持つ息子に目をつけてもおかしくはない。


 剣を構え直す。幾度も剣をぶつけてヴァルトの技量についてはおおよそ理解できた。もっとも、こちらの魔力を潜り込ませて解析するような魔法はリスクを伴うので、あくまで表層面だけだが……その情報は十二分に価値があるはず。


 このまま戦い続けてもある程度は問題ないレベルではあるのだが、こちらとしても決定打はなさそうな雰囲気。時間稼ぎを目的とする俺にとってはありがたい状況ではあるのだが……さすがにヴァルトは長時間戦う気などないだろう。今はまだ単純な剣の応酬だが、それがどのタイミングで変化するのかわからない。


 ともあれ、今は粛々と時間を引き延ばすしかないか……いや、対峙している状況ではあるし、少しでも時間を稼ぐために話し掛けてみるか? 通用するとは思えないけど。


「……世界を手中に収めてどうするつもりだ?」


 その疑問に魔王ヴィルデアルは笑みを浮かべる……どこか、無機質なもの。


『それを聞いてどうする?』

「理由が正しければそちらに従う、なんて気はサラサラないが、こうして魔王とぶつかったんだ。その目的くらい、気になるのは当然じゃないか? ま、戦闘を再開するのなら、別に構わないが」


 さて、どうなる……周囲の戦況はまさしく互角。このまま魔王を跳ね返せば人間側に勢いがつくし、俺が負けたら前線が壊滅だってあり得るだろう。まさしく俺達の戦いによって、運命が決まる。

 そして質問についてだが……何も答えない。これはどうしようもないか、と足に力を入れ踏み込もうとした時――ヴァルトは、口を開いた。


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