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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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襲来

 戦場に突如現れた魔力を知覚した瞬間、周囲の兵士や騎士達に動揺が走った。王はそれを号令を掛けて抑えつつ、防戦するような布陣へと兵を動かしていく。


「あれは……どうやら……」

「本命だね」


 クレアが小さく呟くと同時、俺達の視界に魔力の根源が映った。

 その姿は、全身を鎧に包んだ存在……なのだが、兜の造形などにはっきりと見覚えがあった。間違いなく、俺が魔王ヴィルデアルとして活動していた時と同じ物。


 いや、より正確に言えば俺が前世で着ていた格好そのままと言うべきか。完全武装かつその迫力によって周囲の兵士達にどよめきが起こる。その中でメリスは、


「陛下の装備……だけれど、気配は……違う」

「気配?」

「鎧から発せられる気配が……少しばかり、違う」

「仮にあれが本物の魔王であるとしても……メリスが配下であった時とは違うんじゃないか?」

「そうかもしれない……けれど……」


 何かしら、彼女なりに根拠があるのか。俺でもわからないどこかで判別できているのか。


 ともあれ、いよいよおでましか。もちろんあの鎧を着る存在が魔王ではなく、単に魔王を偽装した配下である可能性は否定できないが……いや、ここでさらに負けてしまえばいかに偽物だとしてもこちらの士気はさらに上がる。勇者フィスがいるとはいえ、この状況下でわざわざ偽物を仕立てる意味もあまりない――と思うのだが、何かまだ作戦があるのか。


 ともあれ、戦う他ない……魔王軍側も魔王らしき存在に対し迎え入れるためかゆっくりと後退を始めた。

 王はこの反応を見ていよいよ決戦の時が来たと判断したか、さらに命令を出して警戒を始める。そして俺達もまた……、


「メリス、チェルシー」


 そこで俺は二人へ問い掛ける。


「二人はどうする? もしここまでの戦いぶりを見ていたら、メリス達が配下であったことを認識しても応じてくれるかどうかは――」

「大丈夫」


 そうメリスは応じた。


「私達も戦う」

「確信、しているのか?」

「クーバルの話を聞いて、加えてこうして目の当たりにして……確信した。あれは違う」

「そうだね。偽物……なんだろうね」


 どこか残念そうにチェルシーが語った。


「ま、私は最初から期待はしていなかったけどね」

「……なら聞くけど、本物の魔王ヴィルデアルは何をしていると思うんだ?」

「既に滅んだか……あるいは、どこかで英気を養っているんじゃないかね?」

「そうか……ともあれ、二人は進む気なんだな……なら、ついてきてくれ」


 問題は、あの魔王がヴァルトなのかどうかだな……とはいえ俺のやることは変わらない。

 神族達が策を完成させるまで時間を稼ぐ。そのために、俺は――


 俺を含め三人が魔王と思しき存在へ接近していく。その間に魔王軍と味方側は一定の距離を置いて布陣し、動かなくなった。

 どうやら前線に現われた存在が来るのを待っている……俺達もまた前線へ近づく。そして王も前へと親衛隊を伴って移動し、距離をあけて対峙する。


『――勇者、そして王か』


 口を開く魔王。メリスやチェルシーを一瞥したはずだが、反応はなしか……もし俺が魔王だった際に接触していたのなら言及してもおかしくないし、容姿などを見て少しくらい反応してもいいが……いや、この場合は実際に潜入していたとかではなく、情報を得ていたという解釈でいいか? 俺に勘づかれたらまずい以上、露見しないよう慎重に……とか、そんな風に立ち回っていたか?


『どうやらこの私に対抗すべく、策を用いたようだが……それも無駄な話だ。今日、貴様達は終わる』

「名前を、一応聞いておこうか」


 剣を構えながら俺は、相手へ発言した。


「そちらが剣を振るう気でいる……なら、自ら名乗るくらいのことはするんだろ?」

『いいだろう。我が名をしかと頭の中に刻んでおけ……ヴィルデアル。貴様達を滅するべくこの大地に立つ、滅びを撒く魔王である』


 その言葉と共に魔力による圧が俺達へ向かってきた。殺傷能力などは皆無のはずだが、周囲にいた兵士達が呻き声のようなものを上げる。


『全て……この場にいる者達に等しく滅びを与えよう。そして、我らが……我が名こそ、未来永劫この地に刻まれるにふさわしい存在であると、教えてやろう』

「残念だが、そうはならない」


 王はそう高らかに宣言すると、剣を抜き放った。


「滅ぶのは貴様だ……魔王ヴィルデアル」

『ふん、威勢だけはいいようだな』


 一歩、魔王が近づいた。それだけでプレッシャーが数倍になる。兵士達は及び腰になりつつあったが、騎士や王が活を入れることでその動きも止まった。


『だが果たして……どこまでもつ?』


 ここで俺は無言で前に出た。魔王と真正面に向かい合う形であり、


「王、まずは俺が」

「勇者フィス?」

「その剣の力を信じていますが……相手の手の内がわからないのでは、効果も半減でしょう」

「だが、それでは――」

「援護を頼む」


 後ろにいるメリスとチェルシーに告げると、俺はもう一歩前に出た。魔王の圧倒的な気配を一身に受ける形だが……こちらは涼しい顔。


『ふん、勇者フィス……名は聞いていたが、まさかここまで無謀とはな。我が存在を一度滅ぼした勇者の息子、だったか……この場に立ち会えたことは、私にとって幸運だったかもしれんが』

「俺を倒せることに、か?」

『そうだ。我が力を示す良い機会だ……まあ、正直それほど期待してはいない。だが少しくらい……我が不名誉を取り消せるくらいには、その体が保ってくれるとありがたい』


 ……問題は、目の前の存在がヴァルト自身であるかどうかだ。剣を打ち合うことでその確認はできる……か?

 俺は静かに力を高める。さすがに魔王ヴィルデアルとしての力を使えば一発でバレるだろうから、勇者フィスとしての力だけで対応しなければならない。


 ま、それについては一応算段は立てている。こうして対峙する間に、偽の魔王について多少なりとも把握することができた。

 作戦が成功するまでもつかどうかは未知数だが……まずは出方を窺うような立ち回りで応じるのが良いだろう。


『ならばまずは勇者フィス、貴様だ。戦場を荒らし回った貴様を殺せば、勢いを取り戻せるというものだ』

「俺は、そうさせないよう頑張るさ……ここで消えるのは貴様だ、魔王。父からの因縁……ここで、決着をつけさせてもらう!」


 声と共に魔王の魔力が膨らんだ。決戦――最大級の決戦が、今まさに始まろうとしていた。


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