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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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二日目

 クーバルについては身を潜めてもらうことにして、俺達は本陣へ戻る。それから解散して休むことに……夜襲などはなく、翌日問題なく起床できた。


「さて、と」


 天幕を出て情報を集める。まず敵の陣容については昨日とほぼ変わっていない。ただ、気配が違っていた。本陣から見えない場所に、大きな気配を感じ取ることができる。

 これは俺くらいの技量じゃないと勘づくことができないくらいの変化ではあるのだが……これを王へ報告するか。


 近づいてみると既に臨戦態勢に入っていることがわかった。この様子だと気付いているのか?


「おはようございます」

「おはよう、勇者フィス。よく眠れたか?」

「はい、おかげさまで……気付いていますか?」

「敵についてか? 見た目は昨日とそう変わっていないし、斥候を動かしても何一つつかめなかった。しかし」


 その視線は鋭く戦場を向けている。


「おそらく何かがある……そんな予感がする」


 勘ではあるけれど、何かを察している……それは正解であり、


「今日、確実に強大な敵が登場するでしょう……それが魔王なのか、それとも側近なのかはわかりませんが」

「初日の動向でこちらがそう易々と崩れないことは向こうも確認できたはずだ。これを打開する手段としてはさらなる凶悪な部隊を導入するか、それとも内側から崩すか」

「……本陣に、問題はないんですか?」


 ちょっと気になって尋ねてみると王は、


「ああ、どうにかなっている……確実に裏切り者がいるはずだが、何かしでかさないよう見張っているのが幸いしている。後方については、前線が壊滅しなければ問題はないだろう」

「壊滅しなければ、ですか」


 俺の言及に王は小さく笑う。


「前線が無茶苦茶になってしまえば、後方だって心穏やかではなくなる。初日の戦いでこちらが堅牢なことをしっかりと示すことができたわけだが、それがあっけなく崩されれば、敵も動きやすくなるだろう」

「そこにつけ込まれれば……」

「まああっさりと終わるだろうな。ただそれは予測できている話なので、まあ別に問題ない」


 と、何でもないことのように語る王。


「懸念はあるが、そもそも前線が崩壊した時点で負けなのだ。考えるだけ無駄だ」

「それはそうかもしれませんが……」


 なんというか、論理がずいぶんと単純明快だな。今日の戦いだって相当厳しいものだと理解はしているはずだが、見た目はリラックスしているし。


「できる限りのことは……勇者フィス達を引き入れたことを含め、やれることは全てやった。これで駄目だったら……まあ、あきらめるしかないな」

「あの、簡単に言いますけど……」

「ははは、最後まで抵抗はしてみせるつもりだが……さて、勇者フィス。昨日と比べ敵の姿をどう見る?」

「少なくとも前線で明確な変化があるわけではないようですね」

「うむ、昨日と同じように仕掛け、士気の高さを維持しているのかどうか……そこを確認する意味合いがあるのだろう」


 王の言葉に俺は同意だ。よって頷くと王は敵を一瞥し、


「指揮官らしき魔族の姿も見受けられるが……能力的に強いかどうかはわかるか?」

「現時点で強い気配はないですね」

「ならばこちらの布陣も昨日と同じようにするか。勇者フィス、そちらも同じような行動を」

「わかりました」


 指示を受け天幕へ戻ろうとすると、途中でメリス達と合流。指示内容を伝えると二人とも了承した。

 結果、昨日と変わらぬ形で布陣する……魔王軍も同じような構え。不気味ではあるが、確実に何かが来る……よって、昨日以上に気合いを入れることにする。


「さあて、後方からは何がやってくるんだろうねえ」


 チェルシーが警戒を込め呟く。周囲の騎士や兵士も何かを感じ取っているのか厳しい表情。

 昨日以上の激戦になることは火を見るより明らかなので、人間側が油断するようなことは絶対に無さそうだな……そんなことを考える間に、敵が突撃を開始した。


「それじゃあ、俺達も動くぞ」


 昨日と同様、指揮官に狙いを定め戦いを有利に進める……俺とメリス、チェルシーとメンバーも同じであり、戦場を疾駆して攻撃を仕掛ける。敵の指揮官については……俺達をマークしていたのか、明確にこちらを見て魔物達で進路を阻んだ。

 もっとも、俺達からするとほとんど意味の無い行動ではあるのだが……交戦を開始する。一太刀で全て終わらせることができるので、魔物の防壁は秒単位で消滅していく。


 当然指揮官級の魔族はさらなる対策を講じる必要があるのだが……厳しい表情のまま後退しようとした。ただ、その時点で距離が相当に縮まっており、一歩遅かった。

 昨日以上の俊敏さで、駆けるのではなく飛ぶように……俺は魔族へ接近する。相手は顔を引きつらせた状態で固まり――その間に俺は首をはねた。それによってあっさりと魔族は消滅。うん、昨日と同様に力はそれほどない。


 なおかつ人間側が昨日の戦いで慣れ始めたのか、俺達の活躍がなくとも魔物を押し込んでいるくらいだった。

 この調子なら、少なくとも後方に存在する気配が動き出さない限りは、問題無さそうだ……と考えた時、気配が動いた。どうやらお出ましらしい。


 それは王もどうやら直感したらしく、味方側の動きがやや鈍くなった。というより突撃をせず守勢に戦えということなのだろう。魔物達はそれにより反撃に転じたのだが、攻撃しても人間側はビクともしない。この耐久力があれば、昨日あった危うい展開にはならないだろう……本命が来るまでは。

 それまでに俺達としてはできる限り指揮官を倒して味方の負担を減らしたいのだが、魔王軍も少しばかり後退。本命が到着するまで待とうという考えみたいだった。


「いよいよみたいだな。メリス、チェルシー。もし魔王そのものであったなら――」

「覚悟はできてる」

「クーバルの言っていたこともあるし、解明したいところだねえ」


 相次いで意見を告げるメリス達に俺は小さく頷き、


「それじゃあ、俺達も一度戻ろうか」


 敵の軍勢から離れる。途中で幾度か進路を阻まれたが問題なく脱出することができた。

 では、とうとう本命がやってくる……と思った矢先、ズシンと肩にのしかかるような気配が生まれた。明らかにこちらの動揺を誘う魔力。とはいえ人間側は動じない。


 そうした中で当該の存在が姿を現す。それと共に、さらに濃密な魔力が、この大地を駆け抜けた。


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