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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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ある推測

「俺は……最初、陛下を見た時から違和感を覚えていた」


 そう切り出すクーバルに対し、メリスやチェルシーは険しい顔で聞き続ける。


「なんというか、以前の陛下の匂いを消している、とでも言うべきか……」


 そりゃあ俺じゃないのだから匂いがないのは当然だ。


「雰囲気とか、所作は似ている……と思うんだが、なんとなく陛下を演じているように見えたんだ……そんなことを感じている間に、魔族を食らう姿を見た……俺もいつか殺されると思い、こうして逃げてきた」

「とはいえ、戻ることもできなければ人間のいる場所へ行くわけにもいかないだろ」


 俺の指摘にメリスやチェルシーは小さく頷いた。


「クーバルをかくまっていると知られれば、面倒なことになる」

「そ、そうだよな。ならどうすれば……」

「明日、大きな戦いになる。その間はこの森にでも隠れていてもらうしかない」


 俺はそう言及。途端、クーバルの顔が強ばった。


「戦いに……激戦ってことか?」

「その辺り、何か情報は知らないのか?」

「いや、俺は戦線に加わっていないから……すまない……」

「謝らなくていい。今日の戦いで人間側は魔王軍に勝利した。そして魔王軍は短期決戦に軸足を向けたい様子。戦いが長引くとわかれば魔王が出てもおかしくない」

「私達も活躍したからね」


 メリスが口添えする。それにクーバルは「そうか」と返事をして、


「そういうことなら情報は渡したいけど……でも、本当に何も知らないんだ」


 ……ふむ、そういうことなら少し水を向けてみるか。


「――その情報を持っていない、ということ自体に価値があるかもしれないぞ」


 こちらの指摘にマーシャ以外の面々は眉をひそめた。


「どういうこと?」


 俺に尋ねたのはメリス。そこで、


「戦力にはならないため、捨て置いた……クーバルさんの説明は納得できそうなものだ。ただ、あなたは魔王ヴィルデアルに忠誠を誓い、魔王自身もそれは認識していたんだよな?」

「ああ、そうだな……陛下は……以前の陛下は、私に声を掛けてくださった」

「例えば勇者に倒される前の魔王が優しかった……ただそれは演じていただけ、という解釈もできる。でも演じているとするならきっと今だって同じことをやるはずだ。力で強引に服従させるというのが手っ取り早くてわかりやすい手法ではあるが、それでなびかない魔族だっているだろ?」

「確かに……反発心を持っている者もいるにはいた。そのほとんどは強大な力の前に何も言えずにいたが」

「きっと勇者に倒される前の魔王ヴィルデアルは、その辺りをケアしていたんだろう。内側に敵を作ってもロクなことにならない、とね」


 実際俺はそんな風に立ち回っていたので、メリスやチェルシーもこの言説には一定の理解を示すはず。


「では今はどうか? これだけの軍勢を従えている以上、相当な時間を掛けて準備をしていたはずだ。にも関わらず、同胞と呼べる魔族を食らってまで力を求めるようになった……やり方が真逆だ。勇者に倒されたことにより変化したと考えてもいいが、クーバルさんの言葉によると、違和感があったと。だとするなら、もう一つの可能性が浮かび上がってくる」

「――陛下では、ないと?」


 メリスが尋ねる。そこで俺は「あくまで推測」と言及した上で、


「クーバルさんを邪険に扱うというのは、近寄らせないということ。確認だけど、クーバルさん以外にも以前の魔王に仕えていた者はいるのか?」

「ああ、いるよ」


 そう告げていくらか名を口にした。俺にも聞き覚えのある魔族の名が複数あった。


「でも、彼ら全員あまり良い扱いをされていない……じゃないか?」

「確かに、そうだ……ということは」

「推測できたな。勇者に倒される前の魔王に仕えていた存在が近寄るとまずい……偽物であるとバレる危険性がある、なんて筋書きも考えられる」

「一応理由としては成り立つが……魔王ヴィルデアルを真似するというのは、非常に困難ではないか?」


 そんな質問がクーバルから飛んでくるのだが……ここで俺は、とある考えが浮かんだ。

 というより、今までそこに気付かなかった……が、クーバルの話を聞いて、改めて悟ったのだ。それはヴァルトについて。


「……クーバルさんとしては、見た目が以前と変わりないという風に思ったのか?」

「少なくとも私は陛下だと思った」

「なら、答えは一つしかない……勇者に滅ぼされる前の段階で、容姿などを確認していた」

「つまり同胞の中に裏切り者がいて、その魔族が陛下に成り代わっている?」

「そういう可能性も考えられる。あるいは単に情報を得ただけかもしれないが……ともかく、どこかで魔王ヴィルデアルに接近していたのは間違いないと思う」


 そこに気付くことができなかったのは間違いなく俺の落ち度だ……つまり、戦いは前回勇者に攻め込まれる前に始まっていた。

 ヴァルトは俺が勇者に負けて滅ぼされるということについても予測していた。厳密に言うと噂が広がり暴虐の魔王だと認識されれば戦う他なくなる。それを狙い、俺が自滅するのを待ってから、魔王ヴィルデアルとして活動を開始したのではないか。


 そう考えるとかなり遠大な計画だ。問題はなぜ魔王ヴィルデアルに成り代わったのか、についてなのだが……これは知名度補正だろうか。俺の名前を騙った方が兵を集めやすかった……そうした目論見を含めて、俺を始末したのだとしたら本当にタチが悪い。


「魔王ヴィルデアルの肩書きを奪い取った、という可能性があると」


 メリスが怒気を隠すことなく語る。まあ魔王ヴィルデアル――それが計略によって滅ぼされたと言うのなら、彼女にとって今のヴィルデアルは敵だろうな。


「落ち着いてくれ、メリス……その、言いたいことはよくわかるから」


 クーバルがメリスの態度をたしなめる。次いで俺へ視線を向け、


「もしあなたの仮説が本当であるなら、私達はむしろ今の魔王ヴィルデアルを敵だとして戦う必要がある」

「俺のはあくまで推測だから注意してくれよ……ただ、それほど間違っているとも思えない」


 マーシャが合わせるように頷く。彼女は答えを知っているが故の所作だ。


「そして、魔王が以前と同様の存在なのか、それとも名を騙っているのか……もしかしたら明日の決戦でわかるかもしれない。よって、全員。気合いを入れ直してくれよ」


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