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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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見てはならないもの

 その夜、俺は翌日以降の作戦内容を再確認した後、眠ることにしたのだが……深夜、ふいに目が覚めた。


「……ん?」


 のそりと毛布をはいで起き上がる。なぜ目を開けてしまったのか。その理由についてだが、


「気配……?」


 首を傾げながら呟くと、俺は剣を握り締めながらテントの外へ。少し風があるのだが、魔物の雄叫びなどは聞こえず、穏やかな夜だった。

 見張りは間違いなくしているだろうけど、この調子なら敵襲はなさそうだな……と思っている間に、俺は歩いているメリスやチェルシーの姿を見つけた。


「……おーい」


 周囲に響かないように小さく声を上げた。すると二人もこちらに気付く……あれ、よく見たらマーシャもいるな。


「フィス? どうしたの?」

「いや、どうしたのって言われると……なんだか目が冴えて散歩でもしようかと思っただけだが」


 そこでメリスとチェルシーが目を合わせる。二人はよくよく見たら完全武装である。戦場を逃げ出すようなつもりはないだろうけど、何か気付いたことでもあって、出掛けるつもりだったのだろうか?

 一方でマーシャはなんだか納得の表情。目線を合わせるとすぐに彼女は返答した。


「私達は、気配を察知してそこへ向かおうとしているの」

「気配を察知?」

「ええ、同胞の気配を」


 ――ああ、なるほど。だから俺も気付いて起きたのか。


 メリスやチェルシーもうんうんと頷いている。俺を含めた全員が起きている以上、間違いなく同胞が近くにいる……何の理由かはわからないが。


「えっと、同胞か……魔王軍の方から来たのか?」

「それを確かめるために、移動しようかと」

「どの辺りにいるんだ?」

「私達が偵察を行うために入り込んだ森の中」


 そちらの気配を探ると……確かに、いるな。しかもこの気配はどうやら――会おうとして留守だったクーバルのものだ。

 なぜ、森の中にいるのか。それを確かめるためか。


「俺も連れていってもらっても構わないか?」


 こちらが要求をするとメリスとチェルシーは再び視線を合わせた。


「どうしよう?」

「起きてしまったし、いいんじゃないかい?」

「ええ、私も良いと思う」


 マーシャも賛同。メリスも二人の意見により「なら」と告げ、


「話については私達がするから。あまり警戒されないようにしないと」

「ああ、そうだな。俺は気配を殺して目立たないようにしておくよ。場合によっては魔族扱いしてもいい」


 メリスは「わかった」と了承し、本陣を離れる。そこからしばらく歩き、森へ到着。

 この時点でクーバルの気配があるのを明瞭に感じ取っている。あからさまなので罠かと最初思ったが、こんなことをする理由がヴァルトにはないし、もっと上手くやるはずだと思う。


 メリス達は明かりを作成してから無言で森へと入り、俺はその後方で追随する形。やがて……木々の密集加減が薄い場所に、クーバルは座り込んでいた。


「……クーバル」


 声を掛ける。明かりの下に彼を捉えると、ビクンと一つ震え座りながらこちらに目を向けた。


「だ、誰だ?」

「私だよ。憶えてる?」


 メリスの優しげな声。それでクーバルは気付いたらしく、


「メ、メリスさんか……?」

「ええ、そう」

「あたしもいるよ」

「私もね」


 チェルシーとマーシャが相次いで述べると、クーバルは深いため息を吐いた。


「そっか……人間として活動していると聞いていたけど、本当だったのか……」

「そうだけど、クーバルはどうしてここに?」

「お、俺は……」


 そこで彼の目が俺へ。


「か、彼は……」

「あ、えっと――」

「メリスさんの協力者だよ。わからないと思うが、一応魔族だ」


 適当な口上を述べると、メリスは合わせるようにコクコクと頷いた。


「そ、人間として活動する時に手を貸してもらって」

「そうなのか……魔王ヴィルデアルの、配下とかではないんだよな?」

「……ん?」


 小首を傾げたのはチェルシー。クーバルであれば魔王ヴィルデアルのことは陛下と呼ぶはずだ。なぜその言い回しなのかと疑問に思ったのだろう。

 クーバル側もそれに気付いたか、すぐに補足を行う。


「ああ、ごめん。俺が言いたいのは、今人間の国に攻撃を仕掛けている魔王の配下じゃないのか、って言いたかったんだ」

「……陛下とは違うの?」


 メリスが純然たる問い掛けを行う。


「陛下の名を騙った魔族、ということ?」

「それは……その……」


 言葉を濁すような返答。ここに来たというのは、クーバルとしてもなんとなくメリスの目的については理解しているらしい。

 どう説明するべきか。それを迷っているのだが、


「いいから、話して」

「わ、わかった……その、俺から見た印象としては、わからない」

「わからない?」

「陛下の名を聞いて、俺ははせ参じた。ひざまずき、陛下へ忠誠を誓い協力を約束した。だが、わからないんだ……あれが本当に、俺達が付き従っていた陛下なのか」


 本物はここにいるからな。


「強大な力を持っていることは間違いない。過去、陛下は勇者に敗れた。だから復讐のために人間の国へ攻撃を仕掛けることも、理解はできる。だが……空気が、全く違う。恐ろしい気配であることは一緒だ。でも、以前の陛下は俺達のことを、しっかりと見定めて評価し仕事を与えるような感じだった。でも、今の陛下は……それこそ力で威圧するだけの存在だった。そして俺がそれほど役に立たないと悟ったのか、無下に扱った」


 ――まあ、俺の配下だった魔族を引き入れたいとは思わないだろうな。ヴァルトからしたら偽物であるのを悟られる可能性もあるし。

 その辺りは上手くやっているのかもしれないが、そもそも俺の配下を味方に付けてどうこうなんて、ヴァルトとしては嫌なのだろう。だから扱いも雑になった。


「ただ、方針を変えたのであれば……それだけなら、納得ができた。でも、俺は見てしまったんだ」

「見た? 何を?」


 ん、これはもしかして……頭の中で推測をしながら言葉を待っている、


「役に立たなくなった魔族を、この手で握りつぶし、食らう姿を」


 力を得ている、というわけか。たぶん今日の戦いで満足に結果を出せず退却した魔族を粛正とかして、その光景をクーバルは目撃してしまったのか。

 そして俺の方針とは違いすぎる行動であったため、クーバルは混乱して逃げ出してしまったと。納得する間に、クーバルはさらに話を続けた。


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