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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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宿敵を倒すために

 その夜は、魔物達が時折陣地から覗き見える状況ではあったのだが、襲い掛かってくるようなことはせず、比較的平穏だった。ただ、何かしらうごめいているような気配が存在しており、夜の内に明日の準備を行っていることが明瞭にわかった。


 王はそれについてもしっかりと理解しているようで、明日に備えて準備を進めている。といってもこちらは罠を用意するとか、そういう手の込んだものではない様子ではあるのだが……とにかく、今できる最善手を打とうとしている。


「明日、本格的に決戦となるかもしれない」


 俺はテントの中でメリスやチェルシーへ告げる。

 本陣に控えていたマーシャによると、本陣内は戦いの最中も穏やかなものだったらしい。王が来たことで士気も高く、逃亡するような人間も出なかった。おそらく裏切り者が本陣内にいると思うのだが、そうした者達が妨害などをしていない……いや、できないくらいの状況ということか。これは朗報と言えるな。


 後方については問題なさそう。であれば、


「今日一日戦った様子では、明日も同じような戦法で臨めば耐えきれるかもしれない。俺やメリス、チェルシーが奮戦し指揮官を倒し続ければ光は見える……と言いたいところだが、今日の戦いは結構魔王軍に対しても被害を与えた」

「加え、こちらの被害はそれほど多くない」


 メリスの指摘に俺は頷く。うん、人的被害が少ないという点についても特筆すべきところだ。

 王としてはこちらの被害をできる限り抑えるような戦い方をしたのだろう。結果として相手の被害を大きくしながら損耗を最小限に抑えることができた……まさしく理想的な戦い方だ。


「……もしこちらの被害が大きかったなら、明日の戦いも似たようなものになっていたかもしれない」


 と、俺は口を開く。


「しかし実際は戦力差はあれど戦果としてはこちらが大きかった……魔王軍としてはこちらの戦力を削ったとは考えないだろうし。この国を蹂躙したその先を見据えているのだとしたら、明日以降はさらに戦力に厚みを加えてくる」

「その最悪のケースが、魔王ってわけだね」


 チェルシーの指摘。俺はそれに小さく頷く。


「もっとも、王としてはそのつもりで戦っているわけだし、魔王が来ること自体は想定内の展開……だと思う。こちらとしても長期戦は厳しい。よって、総大将と戦い早期に決着をつけるというのも手ではある」

「フィスとしては、勝てると思う?」


 メリスからの問い掛け。俺は肩をすくめ、


「王が持つ武器の力を見ていないし、魔王ヴィルデアルがどれほどの力を蓄えているのかもわからないからな……勝敗についてはどうとも言えないが、明日その結果がわかるかもしれない。そこは覚悟しておこう」

「はい」

「ま、なるようにしかならないさ」


 メリスの端的な返事と、チェルシーのどこか楽観的な答え。そんな二人に俺は「頼む」と告げ、話し合いは終了した。

 二人はテントを離れる。残ったのはマーシャだが、


「……陛下」

「言わんとしていることはわかる。王が勝てるかどうかだな? 俺の宿敵がどれほどの力を有しているのかはわからないが……厳しいだろう」


 俺はマーシャへ苦々しく答えた。


「裏切り者がいる……で、だ。それが政治中枢まで伸びているのだとしたら、下手すると王が持つ武具の情報だって保有しているだろう。それが能力を解析した資料などだったりしたら、王に勝ち目はない」

「最悪の事態でしょうけれど……そこまで、陛下の宿敵は情報を得ていると?」

「用心に用心を重ね、石橋を信じられないほど叩いて渡るような存在だ。王を倒すとなれば、当然武具の情報を得ているはず……いや、もしかするとその情報を得るために人間を味方に付けているなんて可能性もある」


 そうであったなら、この戦いの結末は見えてしまっている……俺達が援護して王を殺されないようにするにしても、士気は下がるし戦局をひっくり返すのは難しいだろう。


「俺が立ち回って魔王を倒す……ってことは、本気を出さないと厳しいだろうな」

「宿敵が相手だから、ですか」

「そうだ……なおかつ俺が魔王ヴィルデアルであった事実について知られたらどのような行動を起こすかわからないため、その辺りのことを考慮すると……俺が先陣切って戦うのもかなりまずいだろうな」


 リスクが大きいからな。神族達が動いている以上は、それを待ちたいのだが――


「で、今日戻ってきたら手紙が来ていた」

「主神から、ですか?」

「そうだ。内容は、この戦いが始まったことにより偽魔王が動いていること。そして、注意が地上に集中し始めたため、準備作業が予定より早く終わるだろう、ってことだ」

「それは朗報ですね」

「ああ……もし完了したら即座に実行する予定だそうだ。ならば、俺が勇者としての力を用いて宿敵と戦う……それが望ましいが、明日に間に合うかどうか」


 人員を割いて動いているらしいし、場合によっては明日か明後日……と、書いてあるのだが、俺としてはまだまだ時間が掛かるという想定で行動した方が無難だろう。


「よって明日、俺達の動きについては今日とそれほど変わらない。マーシャは本陣で何か動きがないか引き続き見ていてくれ。何かあれば報告を。もし何か起こるとしたら……魔王が現われた時が一番危ない。明日そういう状況になったら一層警戒するように」

「わかりました」


 マーシャもまたテントを去る。そこで俺は一つ息をつき、


「……追い詰めることが、できるだろうか」


 ヴァルトとの戦いは、それこそ長きに渡っている。相手にとってもこの作戦は二度はできないものであり、下手をすると全てを失うくらいに注力したものであるだろう。

 一方で、俺達は相手の目をかいくぐって逆に王手をかけられる状況になりつつある。だがこの作戦が薄氷の上を歩くような相当厳しい状況であることもわかっている。絶対に、作戦が実行されるその時までバレてはいけない。


 明日、魔王が出陣するかもしれないが、それでも作戦が決まるまでは耐えなければならない。俺が全力を出せばヴァルトを後退させることは可能だ。しかし、ヴァルトを仕留めることができる機会は、下手すると二度と巡ってこないかもしれない。


「……我慢するしか、ないか」


 そう俺は口にする。まだヴァルトの目的というか戦争を引き起こした真意は不明だが、それでもロクでもないことが実行されようとしているのは間違いない。だからまずは相手を止める……それを優先しようと思い、俺は再度確認するように主神から届いた手紙を読み始めた――


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