初日の結果
敵側からすれば俺達の攻勢がどう映ったのか……少なくとも厄介だとみなし、こちらを倒すために兵力を差し向けた。
とはいえ有象無象の敵であり、俺達からすれば容易に倒せる程度のもの……ただ楽勝とはいえ、例えば戦い続けて疲労が蓄積してしまえば俺はともかくメリスやチェルシーはかなり大変なはず。そういう意味では重要な局面で動けるよう、俺達は体力を温存していく……その考えは正解だったわけだ。
指揮官の存在は既に捉えているので、そこまで突破するだけの余裕は十二分にある……俺達は問答無用で魔物を倒し続け、一気に指揮官の首下まで肉薄しようとした。
だが、さすがに指揮官側も俺達の行動は看過できない様子で、護衛の戦力をさらに厚くする。加え、
「勇者達か……!」
指揮官である魔族から声が聞こえた。
「貴様らがいなければ、戦いは終始我らの有利で進めたものを……!」
悪態をつく魔族。そうやって喋っているということは、よほど俺達の存在を気にくわないと思っている様子。
格好は魔法使いのそれだが、どうやらそれほど能力は高くない様子。おそらく指揮能力の高さを買われて主力部隊を率いているのか……つまり、迫って剣を入れればそれで終わる可能性がある。
ならば、相手の想定を上回る速度で……そう思いながら足に力を入れ、跳ぶように駆けた。間合いを詰めるのに使った時間は一瞬。それにより、相手は完全に虚を衝かれた様子で硬直する。
「――げ、迎撃しろ!」
そうして周囲の護衛に指示を送った時、俺はあと数歩で魔族を狙える場所にいた。途端、魔族の周囲にいた魔物が一斉に動き出す。悪魔を象ったものばかりで、魔力の質的にも前線の兵よりも明らかに強かった。
ただ、俺からすれば大した敵ではない――接近する悪魔に対し斬撃を叩き込む。悪魔はまず防御に移ったようだったが、俺はそれを平然と両断。悪魔は崩れ落ちる。
続けざまに悪魔が襲い掛かってくるが、全て一撃で倒す。これには魔族も恐れを成したか顔を引きつらせる様子が俺にもわかった。
ならば、ここで仕留める……逃げるという選択肢を与えぬまま肉薄。魔族としてはここに至り一度後退するような所作を見せたが――全てが遅かった。
驚愕するその顔へ、斬撃を叩き込む。これにより悲鳴すら上げないままあっさりと撃破に成功。主力部隊の指揮官を倒した以上、戦場にもかなり影響があるはずだ。
それは目に見える形ですぐに現われた。手綱を握っていた指揮官が倒れたことによって、魔物達の動きにばらつきが見え始める。命令そのものは生きているので人間達へ襲い掛かってはいるのだが、統制が効かず一斉に攻撃、という形ではなくなり始めた。これならいくら質で上回っていようとも魔物達は人間に押し返される。
そう思った直後に騎士達が魔物達を撃破し始めた。主力部隊はこれにより少しずつ後退を始める。うん、戦果としては上々だ。
「メリス、チェルシー」
後方に呼び掛けると、二人は退路を確保すべく魔物を倒している状態だった。
「ありがとう。ひとまず離脱するぞ」
二人は指示に従い全速力で敵軍の中を移動開始。逃さないと敵妨害があったりもしたが、それをくぐり抜け俺達は戦場を一度離脱した。
少し距離を開けて戦場を観察。指揮官を倒したことで人間側の有利が確固たるものとなりつつあった。
「戦線が崩れるようなことはなさそうだな」
「そうだね……ただ、なんというか……」
メリスは魔物を見据えながら言及する。
「敵も、ずいぶん性急な攻めだと思うんだけど」
「短期決戦に持ち込んで余計な戦力を消費したくないってことだろう? ただ、それを俺達が覆したわけだけど」
「もっとも、戦線の膠着は人間側としては痛いけどねえ」
と、チェルシーが会話に割って入った。
「短期決戦は厳しいけど、かといって長期戦をやるだけの体力があるかどうか」
「そうだよな。でも、今は目の前のことを一つ一つ片付けていくしかない。それはたぶん王も思っているさ」
戦場を見ながら言及。王は何を思うのか……頭の中で想像しながら、俺は次にどう動くかを検討し始めた。
以降、戦いは人間側が優勢で進んでいく。後詰めの部隊と入れ替えて戦線の維持にも成功。なおかつ敵軍が補充されれば都度俺達が動いて指揮官級の魔族を倒して行く。その繰り返しで確実に敵の戦力を減らし続けた……のだが、さすがにそれで敵軍壊滅などという展開には至らず、厳しい状況であることに変わりはない。
けれど魔王軍にとっても持久戦というのはあまり好ましくないと思っているのか、さらに戦力の厚みを増して突撃をしようとする。そこへ俺達の妨害が入り……結果としてこれ以上指揮官を倒されてはたまらないという判断なのか、魔王軍は一度撤退を選択した。
それにより騎士や兵士が沸き立つ。その間に日が暮れ始め……初日の戦いは終了した。
夜襲などを警戒する必要はあるのだが、それでも魔王軍に与えた傷は大きいだろうし、攻撃してくる可能性は低いだろうか……そんなことを思っていると王から呼ばれた。
「君達のおかげだ、本当に助かった」
礼を述べられる。俺達は十分に貢献できたようだ。
「明日以降も同じようにできるとは思えないが、指揮官級の敵を倒せばこちらも対応できることがわかったのは収穫だった。戦力的に余裕があるとは言いがたいが……今日の夜に襲撃があったとしても乗り切れるくらいの余力はある。まずは喜ぼう」
「はい。ただ、明日以降が気になりますね」
「魔王がどう動くか、だな。それによって大きく変わってしまうが……最悪の事態は魔王そのものが来ることか。今日の戦いにより、勇者フィス達や私を倒すことが望ましいとわかれば、そのような手を打ってきてもおかしくない」
そうなったら二日目でクライマックスということになるな……王はどうやらその可能性も考慮しているようだ。
「もし来たとしても大丈夫なよう、手はずは整えるつもりだが……相手が相手だ。限界もあるだろう」
「俺達も、できる限りのことを」
こちらの発言に王は小さく頷く。戦いはひとまず勝利したが、懸念は残った……明日どのようになるか、不安を覚えながらも俺達は緒戦を終えることとなった。




