指揮官討伐
俺とメリス、そしてチェルシーは王の指示に従い指揮官で魔族を倒すべく戦場を駆ける。そうした中で気付いたこととしては、俺達の動きを捕捉するような魔物の存在はいない、ということだった。
「先日結界の中で俺達は大暴れしたはずなんだけど……」
「暴れていたにしろ、捨て置いていいというくらいの感覚だったのかもしれないね」
これはチェルシーの言。
「私達の偵察行為は確かに魔王軍をかき回したけれど、魔王からすれば小事……指揮官級の魔族がやられたのも勝手に挑んで勝手に死んだ……そういう解釈じゃないかい?」
「確かにありそうだが……」
ヴァルトならばやりかねないな。あるいは俺達の戦闘を観察しているかその辺りについて情報を取得し、放っておいても問題ないと考えたか。
どちらにせよ、マークが薄いのは好都合。俺達は存分に王からの仕事を果たすことができる。
そこで俺達は味方と敵がいる最前線へと突入した。そこはまさしく混沌であり、人間と魔物が入り乱れての乱戦となっている。
とはいえ士気が高く熟練した隊形により人間側が少しずつ押し返しているのが実状。もっとも疲労という最大の問題がいずれ発生するため、この有利が崩れるのは時間の問題だろう。
そうした中で俺達は魔族へ近づく――すると相手もまたこちらに気付き、戦闘を仕掛けてきた。
「勇者か……! 相手にとって不足なしだな!」
魔族からの声が聞こえてくる。やる気満々のようでありがたいのだが……俺はここで剣に魔力を収束させる。
「メリス、チェルシー、援護を頼む」
指示に二人は頷き、俺が先行する形で魔族と相対する。
「死ね!」
その力の大きさは、周囲の魔物と比べものにならないもの。一応長剣を握って技をもってして戦うスタイルなのは間違いないが……刀身に宿る魔力はずいぶんと荒々しい。以前俺が戦った魔族と比べれば、かなり直情的なものだった。
どうやら魔族間で技術にも格差がある様子。これはできの良い人間と苦手な人間がいるようなもので、目の前の魔族は技を得ても力による蹂躙で対応してきたのだろうと思った。
相手の剣に対し、俺は目で動きを捉え――まずは剣を合わせる。刹那、バリバリバリと雷撃でもあったかのように魔力が拡散した。魔族としてはせめぎ合いになったがこのまま押し切る――そういう考えがあったはずだ。
けれど、それは叶わない。なぜなら俺が倒すからだ。
一度剣を引き離し、魔族と距離を取る。相手からしたら、後退したと解釈できるような行動のはず。すると魔族は、俺へ向け牙を向けた。
対処に手間取っているという姿を見て、一気に倒す算段だろう。無論、困惑しているのは演技であり、その状況下で剣が近づいてくる――
俺は再び魔族と剣を合わせた。宿る相手の魔力はかなり大きいものではあるが……正直に言うと、俺やメリスであれば油断しなければ問題はないレベル。騎士達であっても、犠牲は出るかもしれないが勝てるくらいの能力だろう。
噛み合った剣へ静かに魔力を収束させると、突っ込んでくる魔族に対し反撃に移った。刀身に魔力を加え、切れ味を鋭くし……魔族が持っていた剣を、綺麗に両断した。
「……何?」
これはさすがに予想していなかったらしい。驚愕し目を丸くしてから、事態の重さに気付いてすぐさま後退する。
だが全て遅い。次の瞬間、俺の剣がまともに魔族へと入った。そしてそれが決定打となり、魔族は悲鳴を上げながら消滅する。
「よし、これで指揮官は倒したけど……」
「どのくらい敵軍に変化があるのは確かめようがないから、ここでは捨て置きましょう」
メリスからの提言。そうだなと俺は同意し、さらに別の場所へ向かうべく足を動かし始める。
この調子で前線指揮官を撃破し続ければ、いかに魔王軍と言えど重い腰を上げるだろう。それで仮に魔王ヴィルデアルが出現したら……。
さすがに戦いは初日だ。魔王とて今日一日の戦況がまずいことなっても、姿を現すかどうかは……疑問に残るところだな。
とはいえ王様という明確な餌があるので、確実にこの戦いのどこかで魔王は出現する。もし前線に現われたら魔物などの士気も上がるだろう。ならば今の内にできる限り削っておく必要もある。
それは騎士達の仕事でもあるため、彼らに任せるとしても……犠牲者が少なくなることを祈るしかないな。
「いたぞ!」
そこで新たな魔族指揮官を発見。と、俺達を見た魔族はすぐさま長剣を腰から抜き放ち、戦おうとする。
好戦的なのは間違いないな……向こうから来てくれるので非常にありがたいけど。
刹那、俺は再び魔族と交戦を開始する……のだが、先ほど以上に力が弱い。魔王軍という体を成してはいるが、戦力的観点からみると魔族の能力はバラバラみたいだな。
ま、これは大陸中から魔族を集めているから仕方のない話ではある。魔王ヴィルデアルが出現してまだそれほど日も経っていないため、鍛錬して技量を均一化するような手段をとることはできなかったと見るべきか。
で、目前の魔族についてだが……ただ剣を合わせただけで大したことがないのはわかる。ここはさっさと終わらせ、次に向かうとしよう。
先ほどの魔族と同じように、一気に長剣をぶった切る。魔族はそれに驚き後退しようとしたが……それに対し機先を制す形で俺は刺突を決めた。
頭部を射抜いたその剣戟は魔族へ吸い込まれるように直撃し――倒れ伏した。声一つあげなかったが、塵となって消え失せる寸前、苦悶の表情を浮かべていることだけはわかった。
この調子で……と、次の前線指揮官は近いところだった。
「うん、このペースならかなりの魔族を倒すことができるな……とはいえ魔王軍は兵力もまだまだある。王様の判断次第だけど、明日以降も同じように立ち回ることになるかもしれないな」
「重労働だけど、仕方がないね」
チェルシーは語りながら魔物を屠っていく。コメントはずいぶんとネガティブなものではあるが、その顔にはほのかな笑みが。
一方でメリスはただひたすら、淡々と魔物を倒し続けている。俺はそんな彼女の様子を見て前日の会話を思い出す。いざとなったら――さすがにそうならないように、上手くやる。
ともあれ、まずは目の前の敵だ……そう思い、俺達は最前線で戦いに没頭していった――




