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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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戦力の投入

 俺達は王の所から離れて待機。じっと戦いを丘の上で眺めることとなる。

 戦争序盤は終始人間側の優勢で事が進む。正直不気味なくらいなのだが……こちらが有利だと思わせ進軍させ、一気に形勢を覆すというやり方なのかもしれない。


 ともあれ、王としてはこの形勢はそれなりに良いものと判断したようで、さらに後詰めの部隊を投入する。

 息切れをするかもしれないので危険であるように思うのだが……さすがに短期決戦は無理だろうし。


 とはいえ俺は戦いの行く末を見守ることしかできないので、王の采配が成功することを祈るしかない。


「……フィス、この状況はどう?」


 ふとメリスが俺へと尋ねてくる。彼女なりに内心で考察はしているはずだけど、意見を聞きたいということか。


「決して、不利な状況ではない。でもそれは一時のものであると感じる」

「あたしも同意だね」


 チェルシーが俺の言葉に同調した。


「別に王様が勝ちに急いでいるとまでは思わないさ。でも、戦線を維持しようとずいぶんと張り切りすぎているね」

「問題は、これだけ部隊を投入して息切れしないのか、だけど」

「そこはあの王様なら百も承知だと思うけど」


 確かに……色々と分析などを行っていたあの王は戦況把握も正確にやってのけるだろう。

 となれば、この攻勢が十中八九どこかで行き詰まることは理解しているはず……この問題をフォローする何かがなければまずい。それは――


「フィス殿」


 と、ふいに騎士が俺達へ近寄ってきた。


「陛下がお呼びです」

「俺だけですか?」

「お仲間も……どうぞ」


 先導する騎士。そちらへ移動すると、戦場を見回している王の姿が映った。


「来たか。率直に現状をどう分析する?」


 ……正直に話して良いのだろうか。


「思ったことを口にしてもらえればいい」

「そうですか……その、戦況の維持に戦力を多く投入している気がします」

「うむ」

「この調子で攻勢を続ければどこかで息切れをしてもおかしくない」

「ああ、そうだな」


 あっさりと同意。そこでメリスは、


「狙ってやっている、と?」

「さすがにそこまで意図しているわけではない。早い段階で兵力を傾けているのは、ひとえに他に方法がないからだ」


 苦笑しながら語る王。正直、喋る内容からは悲壮感すら出ているのだが、そんなことを微塵も思わせない妙な説得力もある。


「私はただ天秤に掛けただけだ。戦力を逐次投入して押し込まれるか、初動の段階である程度有利な戦況を保つことを優先するか」

「……現状、このまま戦い続ければ負けます。何か方法があるんですか?」

「そこだ。いよいよ三人に出番が回ってきた」


 ここで俺達か。とはいえ、何をするのか。


「この戦況において、わかったことがある……敵としては真正面から応じ、完膚なきまでに叩きつぶすことを目的としているようだ。その中で、兵の厚みを増した部分には相応の魔物を振り分けている」

「……あくまで、正攻法ってことですか」


 ずいぶんとまあ、まっとうなやり方だな。


「魔王がなぜこのような真似を、と思うところだな。無論、人間達とフェアな戦いがしたい、などという理由ではないだろう。おそらくだが、魔王ヴィルデアルは私達人間をただ蹂躙するだけでは飽き足りぬのだ」

「国を壊すだけではない、と?」

「そうだ。この戦いに敗れたとして……それが例えば奇襲戦法によるものならば、私達はあんな卑怯なやり方で負けたが、次は……と、逆に燃え上がることになるだろう。策を利用し倒したとしても、それではこちらがあきらめない」

「心を挫くことが真の目的だと?」

「おそらく、だが。真正面から、力で叩きつぶす……話によれば、魔物を率いる魔族は人間と同じような技量を持っているそうじゃないか。ただ力だけで蹂躙するのではなく、人間と同じ戦い方で上をいく……その方が、こちらとしては衝撃が大きいだろう」


 ふむ、そう言われると確かにあり得るな……ヴァルトは人間の技術を与えることで何かを成そうとしているが、それだけでなく王が語ったことも技術習得という道を選んだ理由なのかもしれない。


「この北部の戦いで、正面衝突からの完全勝利。その上でこの私を殺す。となれば、人々は絶望するだろう。そして、戦意を喪失する……これならばこの戦い以降、下手に軍事衝突など起きないまま首都まで到達できるかもしれない」


 なるほど……王の語る方針は理に適っている。


 偽魔王ヴィルデアルには確実に国を滅ぼす以外の理由はあるが、それを目指しているのもまた事実。ただし相手はこの国だけではなく、周辺諸国や神族も相手取る必要がある。神族に至ってはこの戦場へ向かっている最中。できる限り戦力の維持はしておきたい。


 よって、ここで国の戦う意志を砕くことによって、後々の戦いを有利に進める、というわけだ……王の語った内容はあくまで推測ではあるが、ヴァルトはこういう人の心を利用するとか……陰湿なやり方を好んでいたのも事実だし、遠謀は得意とするところ。ならば、真実に近いのではないか。


「それで、私達の役目とは?」


 メリスが尋ねる。そこで王はこちらへ視線を移した。


「この場所からでも魔族の動向がわかる。兵の厚みを増したところに対し、向こうも結構な戦力を傾け、打ち崩そうと思っているわけだ」


 ……その言葉で理解できた。つまり、


「そうした前線指揮官の魔族を、俺達が倒していく」

「正解だ。遊撃的な立ち回りを要求されてしまうが、三人の実績から考えても適任だろう。どうだ?」


 うん、これは俺達にとってもやりやすいな。おそらく王はこういう状況を見越して俺達を待機させていた。

 で、彼は兵を投入しながら魔族の動きを逐一注意していた……その分析は見事なものであり、この作戦自体は非常に効果的だろう。


「……俺達が動くことで、戦局は動くでしょうか?」


 俺は何気なく疑問を寄せる。すると王は、


「それによって、魔王がどう思うかだな……指揮官を倒しさらに優位となったらいよいよ魔王や、あるいは幹部クラスが出てくる可能性もある。だがまあ、その時はその時だ」


 そういう場合、いよいよ自分の出番……と王は思っているのか。ただそういう展開となれば時間稼ぎはできなくなるか……? いや、魔王が出張ってきたからといって終わりというわけじゃない。例えば前線で食い止めて動きを鈍らせるやり方だってあるか。

 ま、そういうことなら断る理由もない……よって、


「わかりました」


 承諾する。王は「頼むぞ」と告げ――俺達は作戦実行のために動き始めた。


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