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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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魔王の部下

「メリスが戦う理由……もしかしてこう思っている? いずれ陛下は復活する……勇者に敗れた陛下が、おとなしく滅されたわけではない、と」


 メリスはなおも沈黙。そうした中でマーシャは続ける。


「復讐心だってあるだろうけど、今度こそ陛下が望む世界を作り上げるために……邪魔立てした存在を、自称魔王を排除するべく動いている」

「そう、だね」


 再会か。俺が転生している時点でそれは叶わぬ願いなのだが。


「でも、それ以外にメリスとしては魔王と再会した時、自らがどれだけ魔王に貢献したかアピールしたいってこともある」

「……そんな打算で動いてはいないよ」

「陛下の仇を討つため……でもまあ、下心がないわけじゃないでしょう?」

「何が言いたいの?」

「魔王と別れる際、望みを叶えると言われ、再会した時にそれを口にするつもりで行動していたり、しない?」


 メリスは押し黙った。図星なのか?


「で、私はメリスの望みが何なのかはわかるのよ」

「私、話してないよね?」

「でもわかるわよ……どうせあれでしょ? 陛下の妻になるとか言い出すつもりだったでしょ?」


 ……へ?

 思わぬ発言に俺は間の抜けた声を心の中で上げた。そして、


「ち、違うよ!」

「でもメリスの望みはそういうことでしょ? 言っておくけどね、陛下はたぶん気付いていなかったと思うけど、メリスの周りにいた面々はどういう気持ちだったのか知ってたからね」


 身じろぎするメリス。まさか――そんな感情が読み取れる。


「陛下のために尽くし、そしてここまで貢献した……新たな世界を陛下に渡し、自身は望みを告げる……私としては良い筋書だと思うけど」

「マーシャ、怒るよ?」

「でも認められたくて行動しているのは事実でしょう? それと、顔が赤くなってるわよ」


 ……暗がりでわかりにくいけど、たぶんメリスは顔に出ているんだろうな。


 しかし、メリスがなあ……俺に対しては常に緊張を持って接していたからそういう感情をひた隠していたってことなのかな。でも側近として共にいたのに、気付かなかったのはなんだかショックだなあ……。

 それとこれ、メリスに俺が元魔王ですと話したらどうなるんだろう……今の俺は勇者エルトの息子、フィスなわけだが……彼女としてはたぶん、以前のように俺が魔王として君臨することを望んでいるだろう。


 けれどそれをした場合、十中八九人間達と敵対関係になる。


「うーん、現状で言うのは難しいかな」


 やっぱり話すのは、策が成功し俺が転生したことが露見しても問題ないタイミングだよな。メリスには悪いけど……。

 と、そうした結論を出す間にメリス達の会話は続く。


「メリス、私としてはそこまで固執する必要はないと思うのだけれど」


 そう言及するマーシャに対しメリスは、


「どうしてそんなことを言うの?」

「復讐するために転生したのは事実だし、その目的のために今も強くなろうとしているのは理解できる。メリスが陛下を思う気持ちも良く理解しているけれど、メリスの全てをそこに費やすのは、陛下もたぶん納得しないと思うのよ。個を尊重していた方だから」


 ――魔王に従う魔族達は基本、魔王の手足であり自らが所有する存在という形が多いのだが、俺はそうじゃなかった。例えるなら家族のような感じで接していた。

 ただ魔王という立場だから基本部下からは口調も丁寧だったしまたそういう接し方だったから名を利用されたってところもあるんだろうけど……そして俺としてはマーシャの意見に内心同意だ。


 俺のことを慮って復讐しようとするのは理解できるけど、もっと穏やかに過ごしてほしい。まあ魔王を倒して爽快感を抱いているような俺が言っても説得力はないけど。


「もっと自分を大切にして……それと人間になったのだから、想い人でも作りなさいよ」

「私は陛下のために動くだけ」

「そう? でも案外わからないわよ。メリスは自覚していないと思うけど、あなたって結構惚れっぽいところがあるからね。偶然恋に落ちて新たな人生を切り開く――みたいな可能性だって考えられるわ」


 笑いながら語っているので半分冗談っぽい意味なんだろう。ただメリスは「そんなことはない」と返答し、真面目に受け取っている。

 あまり友人としての二人を見たことはないが、普段からマーシャが冗談を言ってそれを生真面目にメリスが応じるのが常なのだろう……ふむ、これ以上盗み聞きするのはやめよう。


 俺はネズミを消して宿の天井を見据える。なんだか最後の最後で聞いてはいけない情報を手に入れてしまった罪悪感があるけど……ひとまず目的はわかった。

 問題はメリスとどう接していくか、だな。この戦いが終わるまでは勇者として共に行動することになるとは思うが、その先はどうしようか。


 個人的にマーシャとは交流を持っておきたいところだな。裏方に徹しているようだし、もしかすると俺の部下に関する情報を所持している可能性もある。勇者の俺が彼女からどうやって情報を引き出すかについては置いておくにしても、そうした情報源を所持する存在とコネを持っておくのは良さそうだ。

 マーシャと顔を合わせるかについては、戦いが終わって状況だって変わっているかもしれないし、今回の戦いをくぐり抜けてから改めて考えるとしよう。


 頭の中で結論をまとめたので眠ることにする。明日から再び魔王討伐が始まるわけだが、腕が鳴る……ふふふ……ふふふ……。






 翌朝、俺はメリスと合流してアレシアの下へ向かう。昨夜会話を聞いてしまった手前、ちょっと複雑な気分ではあるが……とりあえず会話については特に問題はなかった。

 町の中央広場に辿り着くと、そこにはアレシアと数人の部下が待っていた。


「来たな。では出発しよう」


 彼女の声と共に歩き始める。その道中で、アレシアは今回の依頼に関する報酬について説明を行った。


「二人には相応の報酬を渡す……謁見の際、あまりものを要求しなかったのは人間同士のしがらみを避けるためだろう? 勇者とあらば大なり小なり面倒事がひっついてくる。魔王を討とうと旅をする両者はあまり関わり合いになりたくなかったわけだ」


 彼女も状況は理解していたらしい。


「で、だ。まず金銭面についてだが、こちらについてはギルドに追加で振り込むような形にするが、いいか?」


 そう前置きして提示した額は……危険手当込みというため、依頼料にしては法外な金額だった。

 神族からすれば、魔王を討つために必要な経費といったところだろうけど……そうした要素があっても十分過ぎる金額。神族って金も持っているんだなとわかる。


「それと、金銭以外でも何か要求があれば聞こう。こちらができる限り、だが」

「なら」


 と、メリスが言及する。


「魔王に関する情報を、あなた方から提供してもらうことは?」

「とことん魔王についてなんだな……私達としてはこの戦いが終わって以降も動くから、助かると言えば助かるが」


 苦笑するアレシア。あまりにストイックな言動に神族の彼女の方が驚いている。


 正直、俺もそこまで執着しなくても……と思うのだが。ただなんとなく思うのだが、もし俺の名を利用し暴れていた魔族を全て倒したら、彼女はどうするのだろうか?

 行く末なんかは気になるな……そんな風に考えていると、アレシアはさらに続ける。


「神族が保有する情報を渡していいかについては、申し訳ないが私の権限でどうにかできる範疇を超えてしまっている。よって、こちらとしてはできる限りのことをする、としか語ることはできないが」

「それでも構わない」


 メリスはあくまで要求する。アレシアは苦笑し続けながら「上層部に伝えよう」と答え、


「フィス殿についてはどうだ?」

「ああ、そうだな……」


 その言葉を聞き、俺は口を開いた。


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