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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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対面

 以降、魔王軍からの攻撃はまったくなく、小競り合いすら発生せぬままに日数が経過していく。長期戦になっても問題はないようだが、魔王軍としてはどうしたいのかまったく読めないため、不気味である。


 印象としては何かを待っているようにも思える……候補として浮かび上がるのはこの北部戦線に向かっている王様か。例えば他の王族が魔王と手を組み、自分が権力を手中に収めるために王を魔王に倒してもらう……と、二流の筋書きではあるのだが、案外こういう計略でもおかしくない。


 もっとも、魔王側としては人間と手を組むメリットがどこまであるのか……偽物の魔王ヴィルデアルの目的がまだ明確でない。ただひとまず人間を生かそうという気はありそうだ。

 それは無論、利用価値があるから……逆に言えばそれがなくなれば容赦なくこの国を蹂躙するかもしれない。


 ヴァルトの目的が不明瞭である以上、こちらも立ち回りを都度変えていきたいところだが……そんなことを考える間に、王様が到着したという話が。


「下手すると、王様が来たことによって敵が動くかもしれないな」


 俺の呟きにメリスやチェルシーは同意するのか小さく頷いた。


 もし動くのであれば、内通者がいることはほぼ確定だろうか。こちらの動きを察知して攻撃するにしても、さすがにあれだけの大規模な部隊編成をしているのだ。動かすにも多少なりとも準備が必要なはず。まして俺達が引っかき回した後なのでなおさらだ。その状況下でこちらに仕掛けてきたのなら――

 まあ現時点で内通者がいることはおおよそ推測できるので、それを改めて確認する意味合いになる感じだろうか……ま、陣中見舞いなのか王様が直々に魔王を成敗しに来たのかわからないが、俺達に干渉してくるのかどうか。


「フィス、どうする?」


 メリスの問い掛けに俺は肩をすくめ、


「もし会いたければ向こうから言ってくるだろ。だからこっちは何もせず――」

「フィス殿」


 と、ふいに騎士団長がやってくる。これはもしや、


「唐突で申し訳ないのだが、陛下がお会いしたいと」


 あー、さっそく来たか……無下に断るわけにもいかないので、


「構いませんが……今からですか?」

「うむ。偵察任務のことを含め、色々と聞きつけてきた。よって、是非とも顔を合わせたいと」


 興味を抱いたってことか。王様以外から余計な干渉をされるよりは、王様自身と会った方がわかりやすくていいと言えばいい。というのも例えば貴族が興味を持って俺達に会いたいというのなら敵か味方かわからないため、どうすればいいか対応に困る。けれど王様であったなら話は別だ。

 さすがに王様自身が内通者などというケースはないと思うし……うん、さすがに王様が出張ってきた以上は例えば貴族から話があるという展開にはならないだろう。これはこれで一度顔を合わせるだけで済みそうだし、いいか。


「わかりました。俺以外にメリスやチェルシーは?」

「無論二人も」


 彼女達へ視線を注ぐ。両者はついていくつもりか一つ頷いた。


「では、案内をお願いします」

「うむ」


 騎士団長が先導し、俺達は歩き出す。陣中にいるわけではなく――前線からやや離れた場所に大きな天幕が設置されていた。それを柵で囲うように防備を固めており、今後はここが本陣ということになりそうだ。

 天幕はいくつかあるのだが、その中で中央に存在する天幕が最も大きく警備も厚い。そこが目的地のようで、俺達は最終的にその天幕の前まで連れてこられた。


「少々お待ちを」


 騎士団長が先んじて中に入る。しかしすぐに俺達を中へと通した。


 天幕の奥には一人の男性が椅子に座り、その両脇を複数の騎士が固めていた。で、肝心の王様についてだが……若い。年齢は三十前後といったところだろうか。いや、もしかすると若作りなのかもしれないが。特徴的なのは黒い髪と精悍な顔つき。自信に満ちたその瞳からは、今回の絶望的な戦いに対してもどっしりと構えているのがありありとわかる。

 現在は騎士のように武装をしており、その腰には剣が。それこそが彼らの切り札である剣、ということになるだろう。


「よく来た」


 まずは俺達をそう労う。対するこちらは慇懃な態度で一礼し、


「フィス=レフジェルと申します」

「ああ、三人のプロフィールについては多少なりとも調べさせてもらった。全員が全員かなりの腕前を持つ者……そして、その旅の果てにここを訪れたわけだ」

「はい。こうして戦いに参加する以上は全力を尽くしますが、相手も相当な強敵です。偵察任務についてはどうにか対処しましたが……」

「前線指揮官の一人を倒したということも既に耳に入っている。素晴らしい戦果だ」


 俺達を褒め称える言及。ファーストコンタクトとしては悪くないな。


「こうして顔を合わせたかったのは、その辺りについて労いの言葉を投げたかった点と、一度顔を見ておきたかったのだ」

「こちらの顔を?」

「ああ、そうだ」


 ……何かしら作戦があるというよりは、純粋に興味を抱いて俺達と話をしてみたかった、といったところだろうか。


「ああ、言っておくが何か依頼をしようなどということをする気はない。偵察任務でかなり疲労しただろうからな。少しの間は休んでくれればいい」


 次に王はそう語る……と、そういえば名前を聞いていないな。

 言及しようとした矢先、王自身が気付いたか、


「おっと、そういえば名乗っていなかった。ただ、私の名前はずいぶんと長いからな……普段は陛下という呼称か、あるいは名前から切り取ってフューゼと名乗っている」


 フューゼ……そこまで述べると彼はニヤリと笑う。何かを秘めたような、意味深な笑みだ。


「本来、私のような存在がこんな最前線まで出張るようなことはない……が、今回ばかりは特別だ。魔王ヴィルデアルの存在……それに対抗するためには、私が持つ剣の力を活用しなければならないと考えたためだ。よって、この戦いは私と魔王を引き合わせるまでが重要だ。遭遇しなければ相手を斬ることはできないからな。その作戦についてはまだ考えていないのだが、今はとにかく情報が欲しい。そこで、改めて……勇者フィス達の見解を知りたい。魔王ヴィルデアルの配下。その力がどれほどなのかを――」


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