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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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宿敵の仕込み

 迫るバガンに対し俺は打ち合うべく魔力を剣に込める。刹那、戦斧と剣がガッチリとかみ合い……動きが止まった。


 バガンはそんな状況でも笑みを浮かべる。勇者と戦えることを楽しんでいるのか……なんというか、殺意はあるにしろそれはどこか爽快感を感じさせるもの。俺の部下はそうじゃなかったけど、破壊行為が好きな魔族というのは基本ずいぶんと残虐に人を殺め、それに快感を覚えるケースだってあるのだが……目の前のバガンは、そんな感じじゃないな。


 まあ力を得たことにより増長しているのは間違いないのだけれど……と、その時俺は一つ察した。バガンの戦斧に込められた魔力。それはたぶん偽物の魔王ヴィルデアルから授かった力なのだが……その魔力がどうも、大気中に存在する魔力を少しずつ吸っている。


 バガンの能力を底上げしている要因はこれだろう。ただ魔王ヴィルデアルが単純に戦力を強化するためにこんな手の込んだことをするのかどうかを言われると……微妙だな。


 ただ、思い浮かんだことはあった。こうした技術により多数の配下が魔力を吸い上げる。で、強化されたそうした魔族の魔力を奪い、千年魔王復活のために魔力を使うとかならわからなくもない。人間の技術を教えるという行為については疑問の余地はあるが、普通に力を授けただけでは魔力を吸えないとか、そういう理由付けがあるのならば手の込んだ策を使った根拠にはなるか。


 引っ掛かる部分はあるにしろ、おおよその狙いはなんとなく察しがついた……残る欲しい情報としては俺の元配下がここにいるのかどうかだが……、


「どうした?」


 鍔迫り合いを行う状況下でバガンが問い掛けてくる。


「どうやら上の空みたいだが、その間にこちらはそちらを打ち砕くだけの力を注ぎ込んだぞ」


 次の瞬間、バガンの戦斧から爆発的な魔力が発せられた。どうやら次の一撃で……いや、押し合いをやっているこの状況を力で突破するらしい。

 最後の最後はやはりゴリ押しか……と思いながら俺は一度剣で戦斧をいなして後退を選択。そこでバガンは好機と悟ったか、俺へ追撃のために接近する。


 戦斧に注ぎ込まれた魔力量を見れば、並の戦士ならあっさり粉砕されてしまうほどのもの。北部戦線にいる騎士とかなら、十人単位を一薙ぎできそうなほどの力が込められている。戦う人間側としては、恐ろしい存在に違いない。

 だが、俺にとっては――魔力を刀身に込める。バガンが火山が噴火するような勢いがあるとしたら、俺の方はひどく静かで、風が止まった森のようだった。対極に位置するような力の発し具合であり、傍から見ればバガンの圧倒的勝利に終わってもおかしくない――のだが、


 再度俺とバガンが激突する。その結果――戦斧にヒビが入った。


「な……?」


 思わぬ事態に目を見開くバガン。ただそこには恐れも訝しげな視線もなく、ただ変化に驚いている様子だった。

 そこで俺は畳み掛ける。一度戦斧を弾いた後、すかさずバガン自身へ一太刀入れた。一瞬の出来事であり、当のバガンはこちらの動きを捉えることすらできなかった様子。


「……な」


 そして声を漏らす魔族。気付けば戦斧から発せられる魔力は消滅し、その体からも魔力が霧散し始めていた。


「馬鹿、な」


 次いで絶望的な表情を浮かべる……俺の実力を、しかと理解したようだ。まあ遅すぎるわけだが。


「悪いな、今の戦いで色々と情報は得た」


 と、俺はここでバガンへ口を開く。


「参考にさせてもらうよ……ま、俺と遭遇したことは運が悪かったと思ってくれ」


 そうやって語る間にバガンは消え失せた。さて、ひとまず迎撃完了だが……まだ周囲に敵はいる。


「メリス、チェルシー、どうする?」


 俺の問い掛けに二人は一度互いに顔を見合わせ、


「……とりあえず他に指揮官らしき人物はいないみたいだね」


 と、メリスが話し始めた。


「これだけ騒動になっている以上は気付いていてもおかしくないけど、こちらに来る気はなし、か」

「もう少し暴れていれば別の指揮官が現われてもおかしくないが――」


 俺は軍勢が動くのを見て取る。ただ進路は明らかにこちらではない。


「大勢には影響がないってことで、こちらのことは無視する気なのかもしれないな」

「勇者フィスだとしても、積極的に狙っては来ないと」

「そもそも三人では軍勢全てを滅することはできないし、犠牲者は出たが作戦は変えない、といったところか」


 その気になれば前線を崩壊させることだって可能かもしれないが、そこまでやると魔王ヴィルデアルも対応をせざるを得なくなる……場合によっては敵側の動きが活発になるかもしれないし、微妙なところだな。

 俺の目的は時間稼ぎだし、ひとまず成果としてはこのくらいにしておくか。それに一度マーシャとかと話をしておくべきか。今回手に入れた情報を考慮すれば、ヴァルトは何かしら策があるようだし、頭の中だって整理しておきたい。


「よし、それじゃあ戻るとしようか」


 俺の言葉に従い、二人も動き始める……その途中で幾度となくバガン軍の残党と交戦することになったが、問題なく対処。

 敵側としてはこれ以上面倒を避けるためなのか残党以外が襲ってくることはない……そもそも軍勢に関する重要な情報を得られたというわけでもない。敵としては「被害は出たけどこのくらいは別にいいだろう」くらいの認識なのかもしれない。ま、俺としてもそう思ってもらった方がありがたい。


 ただ、勇者フィスという存在がこの戦場に来たことは知れ渡ったはず……なら今度は直接ではなく、国側から何かしら干渉して戦場から引き離す、というやり方をしてくる可能性もある。そうなった場合に備えて体のいい言い訳くらいは考えておくべきか。

 戦闘面ではなくそういう部分に気を回す必要があるのは大変面倒なのだが、仕方がないか……現状で干渉があったわけではないけど、いざそういう状況に立たされて考えるのは遅いからなあ。


 そんなことを考えながら俺達は魔物を迎撃し続け、結界をすり抜け脱出する。ひとまず偵察任務は成功。成果も上々なので、勇者フィスとしての面目は保つことができるに違いなかった。


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