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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第四章

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剛気な魔族

「名前ぐらいは教えてもらえるのか?」


 俺はまずそう問い掛けた。対する魔族は笑みを見せたまま、


「ああ、いいぜ。俺の名はバガンだ。そっちは?」

「フィス=レフジェル」


 名を告げた瞬間、バガンは口笛を吹いた。


「そいつは知っているぜ。なるほど、こんな無茶できるのも納得がいく」

「俺のことを知っているのなら、尻尾を巻いて逃げてもおかしくないと思うんだが」


 ちょっとばかり挑発的な言動を投げかけると、バガンの笑みが凶暴になった。


「いやいや、そんな怖じ気づいた考え方ならこんな場所に立っていねえさ……またとない機会だな」

「……その力は、魔王からもらったのか?」


 さらなる問い掛け。単純馬鹿という感じだったので答えてくれるかと期待してのことだが、


「ああ、そうだ。我が陛下……魔王ヴィルデアルは力について公正な御方だ。才があるとしたのなら力を授け、こうして率いるだけの地位を与えてくれる……俺にとっては、救世主だな」

「その言い方だと、これまで不遇だったと言わんばかりだな」


 ――その言葉の直後、バガンは笑みを消した。


「ああそうだ。人間に隠れながら生き続けるのはもうたくさんでなあ。だからこそ、陛下の考えに賛同して俺はここにいるわけだ」

「人間である俺達にとっては、ろくでもない考え方だろうな」

「ああ、そこは間違いないぜ……ま、俺達が世界を支配したら、人間は単なる家畜に成り下がる」


 その光景を想像しているのか、バガンはもう一度笑った。今度は醜悪な、欲望にまみれたものだ。

 なんとなく、俺は魔王ヴィルデアル――ヴァルトの絵図が見えた。多数の魔族を受け入れているわけだが、そうした存在に力を与え増長させ、兵士とする。なおかつその目的としては「世界を魔族のものにする」とかそういう風なものだろう。


 つまり、人間に取って代わることを目指している……だとするならこの国へ戦争を仕掛けたことも納得はいく。表向きの理由としては復讐に絡めた魔王による大陸支配……とはいえ、その本当の目的は何なのか?

 さすがにヴァルトが俺の同胞を引き入れる可能性のあるやり方で兵を集めて支配する……というのは、正直いって考えにくい。アイツは俺の近しい存在を見たなら喜んで虐殺するようなタイプである。俺に対し積年の恨みもあるからな。俺自身が滅んだにせよ、その禍根が消えているわけではないはずだ。


 ということは、こうして力を与えていることに意味がある……と考えるのだが妥当だ。その可能性として考えられるのは、例えばこの国の首都を奪うこと――そういうことが、ヴァルトの本当の目的に至る道ということだろうか?

 あるいは、こうして兵士を生み出すことで何かをしているのか……それを探る意味でも、俺はバガンと対峙し剣を構える。


「メリス、チェルシー、周囲の敵を頼む」

「心配するな。俺が戦っている間は手出ししないようにしてある」

「誰も妨害を懸念しているわけじゃない。お前を瞬殺したら即座に襲い掛かってくるだろう? さすがにフォローの一つも必要だと思ってね」


 またも挑発的な言葉。それにバガンは豪快に笑った。


「ハッハッハ! なるほどな。そういう心配をするのか……ま、魔王を倒したことでずいぶんとまあ余裕見せているが、甘く見ない方がいいと思うぜ?」


 戦斧を構えるバガン。その直後、俺達の間にピンと張り詰めた空気が生まれる。

 決闘……まさかこれだけ敵軍のいる場所で一騎打ちをすることになるとは。ただこれは俺としても都合がいい。同胞がいるなどの情報を持ち帰ることは今回難しそうだが、こいつと戦うことでヴァルトに関する情報を得られるかもしれない。


 そう思った矢先、バガンの戦斧が振り上げられ――俺へ振り下ろされた。動作は俊敏で、戦斧の重さを感じさせないもの。そして当のバガンはその斬撃に自画自賛しているのか、自身の戦斧を見て笑みさえ浮かべていた。

 だが俺はそれを横に動いて避ける。戦斧が地面に直撃し、土砂が舞い上がる。魔力を含んだ一撃であったためか、魔力もずいぶん拡散した。


「これはさすがによけるか。だが、まだまだ!」


 追撃の横薙ぎ。今度はそれを頭を下げて避ける。戦斧は盛大な空振りに終わり、振り抜いたことにより隙を晒した……が、俺は仕掛けなかった。


 タイミング的に突っ込めば仕留められたかもしれないが……いや、たぶん俺が剣を決めるより戦斧が戻ってくる方が早いだろうか。そう思わせるくらいの動きだった。


「お、さすがに警戒するか。この辺りの判断はさすがと言っておくか」


 バガンはそう告げると戦斧を引き戻す。そこで俺は、一つ質問した。


「アンタを含めそうだが、今回の魔王軍はずいぶんと出で立ちが違うな」


 その指摘にバガンは片眉を上げ、


「へえ? どうしてそう思う?」

「これまで戦ってきた魔王や魔族は、それこそ力による圧倒的蹂躙で人間達を倒そうとした。実際それが一番効率が良く、わざわざ武器を構える必要はない……武器が魔法で作られたものだったとしても、そこにリソースを使う必要性が薄いためだ」


 そう言いながら俺は剣を構え直す。


「だが、今回の敵は違う……そもそもあんただって力押ししようとしているわけではなく、むしろ戦斧の技術で勝負しようとしている……それに何の意味がある?」

「ああ、その点か……陛下はとにかく技術で圧倒せよとの指示だった。何か目的があるのかは知らないな」


 肩をすくめるバガン。当事者もそう指示されただけで、明確な理由は知らないのか。


「最初は確かに煩わしいと感じたよ。だが、こうして武器を握り戦ってみると……恐ろしいほど気持ちよかったし、何より力で押すより強くなれた気がした。こういう快感を教えてくれた意味でも、陛下には感謝しなければ、な」


 ……技術で上回ることにヴァルトはこだわっているか。だとすれば、技術を利用して何かをすることが目的。それは果たしてなんなのか?

 その時、俺は戦斧に宿る魔力を見据える。武器の表面に淡い光が宿っているのだが……ふむ、単純にバガンが能力を強化しているだけではなさそうだ。


 となれば、ヴァルトは力を授け武器を持たせることで、何かしら効果を付与している……そんな推測をした矢先、バガンが襲い掛かってくる。ともあれ、まずはこの戦いに勝利を――そう思い、俺は魔族へと向かった。


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