偽魔王の配下
元の場所へ戻ってくると、討伐隊の面々の姿がなくメリス達が待っていた。
「魔族の気配を感じたって言っていたけど」
「実際にいたよ。しかも俺のことまでリサーチ済み……というか、ギルドで依頼を受けた時点で相手にも伝わったようだ」
魔族から得られた情報を伝える。それに対しマーシャが懸念を示した。
「つまり敵は人間側の組織にずいぶんと根を張っている……?」
「想像以上にこの問題は根深いのかもしれないな。そもそもギルドの情報で俺達を把握したというのなら、末端組織からも情報が素早く届くようになっている……このことから、敵はこの国を落とすために色々と準備をしていることがわかる」
単純に蹂躙するだけなら戦力を集めた段階でできるけれど、これが情報網などを確保した上で、ということなら話がだいぶ違ってくる。
「俺達を含め人間は、唐突に魔王ヴィルデアルが出現したように感じているかもしれないが、実際はもっと手の込んだ……それこそ、入念な準備を行った上での行動だったのかもしれない」
「それは陛下自身がやっていたことなのかねえ?」
チェルシーが疑問を呈す。彼女の言いたいこととしては、事前準備を自らやったのか、それとも配下がやったのか、ということだな。
「仮に配下にというなら、チェルシーやメリスといったバラバラになっていた魔族を呼び寄せて実行するんじゃないか? マーシャ、その辺りはどうだ? 情報網をしっかりするくらいだ。年単位で準備していてもおかしくないけど」
「少なくとも私の耳には届いていないわ。そもそも陛下と共にいた面々は隠れて過ごしているのが主だったし。私は陛下の下にいた魔族の八割以上は把握できているけど……そういう話があるのなら、私にだって伝えてくるはず」
「とすると、ヴィルデアル自身が準備をしたか、あるいは従えていた部下に見切りを付けて、新たな配下を集めたか」
「後者だとしても、あんまり良い配下とは言えないねえ」
と、チェルシーがコメント。
「戦った魔族は偵察役なのに好戦的だったわけだろ? 血の気が多いのは侵略行為をする上では少しくらい有効なのかもしれないけど、さすがに命令に背いて勇者を狙うなんて愚かなことをするような存在だしねえ」
「ちなみに、メリス達の時は部下達はきちんと命令を聞いていたのか?」
質問をぶつけてみる。俺としてはちゃんと聞いていたと答えてくれると思うんだけど……いや、実は密かに色々やっていたなんて可能性も――
「マーシャを含めて」
と、次に口を開いたのはメリスだ。
「後の戦いのために……準備をしたりはしていたけれど、基本的に陛下の厳命に従っていた」
「不満とかはあったのかな?」
「チェルシーとか血の気が多い面々は不平不満を呟く者もいたようだけれど、陛下に背くつもりはなかったみたい」
「まあ、そりゃあね」
チェルシーは肩をすくめながら話す。
「命令をしたときの威圧感は半端じゃなかった。もし命令違反をしたらそれこそ地獄へ落ちるよりも辛い苦痛を味合わせる、というくらいにね」
……いやまあ確かに、俺は部下に命令をするときはきちんと魔王らしく振る舞っていた。舐められたらまずいし、何より下手に人間側へ手を出してしまったらどうしようもなくなるからな。
とりあえず俺の命令を聞かず行動していた者はいなかったみたいだな……と、ここでメリスが一言。
「たまーにマーシャは人里に行って実験をしていたみたいだけど」
「ほう」
俺はマーシャに目を向ける。当然彼女はビクリとなり、
「いやいや、それは別に人間に危害を加えるのではなくて、場所を変えての魔法実験……陛下の魔力がある場所だと実験に支障が出るケースがあったから、やむなくそうしただけで、人的な被害はゼロだよ」
なんだか必死に弁明するようにマーシャは述べる。俺に対し取り繕っているのはわかるが……。
「それは、本当か?」
なんとなく確認。マーシャはブンブンと首を縦に振る。必死さが伝わってくる。さすがに嘘は言っていないようだ。
これ以上追及するとボロを出しそうだったので、ここまでにしておこう……ひとまず話を進めることにする。
「魔族と思わぬ遭遇をしたけど、色々と情報も得た……間違いなく国側から干渉してくるだろう。さっきの魔族は先走って俺に情報を漏らしてしまったわけだが、敵はそれを把握しているとは思えないので、もし国から依頼が舞い込んできた場合、確実に罠だとみるべきだな」
「大量の魔族とかと戦闘、ってことになりそうだね」
チェルシーが述べる。なんだか楽しそうだけど、あえて何も聞かないことにしよう。
「その可能性は十二分にあるな……ともあれ、仕事は終わった。討伐隊に問題は?」
「ないよ。魔物から陛下の力はなかったし、今暴れている魔物達は魔王出現により魔力を受け、活性化していると考えた方がいいね」
メリスの言及に俺は「そうだな」と答え、
「それじゃあ町へ……戻るよりは先へ進んだ方がいいかな」
「そうだね。次の町で報酬も受け取れるし」
「よし、では出発だ」
移動開始。しかし、この調子だといつ罠に掛けられるかわかったものではないな。
ギルドの情報網をつかんでいるとすれば、最悪国の上層部に魔王ヴィルデアルの配下か、あるいは息の掛かった者がいる可能性もある。そうなったら彼らの権限で俺達をどうにかこうにかできるかもしれないし……冤罪的な何か、という手法だって十分あり得る。
その辺りについては神族が来てくれるはずなので、彼らに頼って上手くやるしかないか。さすがに神族の干渉があったなら、俺達を無下にはできないだろうし。
ということは、このまま北へ進むにしても近い内に神族と出会っておくべきか……などと考えていた時、ふいにメリスが呟いた。
「そういえば、討伐隊の中に魔王の姿を見た人がいた」
「へえ、何か話をしたのかい?」
「うん。特に印象に残っていたのは持っていた剣だって。凄まじい力を発していた剣」
剣、か……そういえば俺は魔王時代に使っていた剣、あれは千年以上前に作られた物で、特殊な機能がある。
その詳細は誰にも語っていないのだが……もしヴァルトがヴィルデアルを名乗っているのなら、その機能を用いているかもしれない。それでもしかしたらヴァルトかどうか判別できるかも……そんなことを考える間に、俺達は森を出ることとなった。




