国の状況
俺の前世、魔王ヴィルデアルが出現したということで仲間である元部下、メリス達の心境も複雑な状況の中、俺はフィス=レフジェルとして――つまりヴィルデアル打倒した勇者の息子として、偽物を倒すべく動き出す。そして協議の末、今回はマーシャの分身も密かにではなく帯同しサポートすることになったため、俺としては部下に囲まれ戦う形になる。
肝心の偽物の情報については、旅の道中で色々と取得していく。現時点では国へ宣戦布告し魔物達を集結させている段階らしく、魔王自身は行動を起こしていない。だが多少なりとも配下が暴れているらしいのだが……幸いながら民間人の犠牲者はゼロらしい。
というのも魔王ヴィルデアルが出現した時点で国側も早々に動き始めたらしく、暴れる前に人々の避難を済ませたらしい。小競り合いもあったようだが、魔王側も部下に諫めているのか、消極的な動きらしい。
ただこれは決してヴィルデアルが臆病だからという理由ではない。簡単に言えばいずれ来るであろう大規模な戦争まで戦力を温存しておくということなのだろう。
それは国側もわかっているのか準備を進めているらしい……現段階ではまだ被害が出ていない様子。これならまだ、俺としても間に合うな。
「さて、いよいよ国へ入るわけだが」
街道を歩みながら俺は仲間達へ告げる。空は晴天で街道を歩む人々の姿も多い。なおかつ気温も丁度良く、絶好の旅日和である。
とはいえ、旅をする人達については俺達と同じ進路を向ける人々の表情は不安に満ちている。魔王ヴィルデアルが出現しているという話は既に周知されているようだ。
「えっと、マーシャ。今から進む国家について、情報はあるか?」
「なら説明するわ」
と、彼女はにこやかに俺達へと語り始めた。
「大陸北部に位置する大国、ベージェ王国。建国者自身が魔王を打ち破った勇者であり、また王位を継承する者は彼が使っていた剣を授かることになっている」
――それについては俺も知っているが、魔王といっても俺やメリスが今まで戦ってきた凶悪な魔王と比べれば強さはそれなりといったところ。もっともこれはあくまで俺達の基準による話なので、当然ながら普通の人々からすれば恐ろしい存在である。
勇者という存在である以上、国の統治なんて無茶だと思うのだが……彼はかなり頑張った。その結果が大陸北部における最大領土……今の繁栄があるわけだ。
「領土規模なんかはたぶん把握していると思うから割愛するとして……現在の王様は初代の再来か、と言われるほど武芸に秀でた存在らしいわ。ただ、政治的な面はちょっと弱いみたいで、色々と問題を抱えているようだけれど」
「さすがに初代のような傑物がそう簡単に現われるわけじゃないってことか」
俺のコメントにマーシャは「そうね」と同意する。
「で、今回の魔王顕現によって王様の価値がずいぶんと上がった……というのも、初代国王が用いた剣を使い、討伐しようなんて動きもあるの」
「問題は、その剣がどれほどの力を持っているか、だねえ」
これはチェルシーの発言。
「そもそも年月経っているだろうし、劣化とかしていないのかねえ?」
「その辺りは問題ないみたいよ。国宝なわけだからちゃんと管理だってしているだろうし。ただ」
「ただ?」
「私はその剣の力に疑問を持ってる」
「……どうして?」
マーシャの言葉に反応したのは、メリス。
「何かしら根拠が?」
「魔王ヴィルデアルが出現した時点で、国のことや剣について調べたけど……確かに魔王を討った剣であるのは間違いない。でも、その効果は使用者の能力を大幅に底上げするといった効果みたいで、要は剣を握る者の能力に強化度合いが依存する」
「つまり、弱い人が継承しても使いこなせないと」
「そういうことになるわ」
ここでの問題は果たして現在の王様にそれほどの力があるのか……初代国王の再来なんていうのも、当然ながら初代のことを誰かが見て評価しているわけじゃないだろうし、それが本当なのかも疑問に残る。
「またそういう風に戦おうと提案しているのは主に貴族達……まあ魔王がずっといるなんて状況は誰だって避けたいし、切り札があるのだからそれを使って……という話みたいだけど、そう単純じゃないみたい」
「謀略の気配がある……ってことか」
俺の意見にマーシャは神妙な顔つきで頷いた。
「元々、王様と距離を置いていた……政治的な派閥としては王様ではなく、彼の弟に与する人達も賛同していたりするの。彼らとしては王様が魔王を打倒すると共に、何らかの形で消えて欲しいと考えているのではないかしら」
「魔王との戦いに乗じて、か。さすがに魔王によって国王が討たれるなんて想定はしていないだろうな。それだったら国が崩壊してもおかしくないから、賛同するのは考えにくい」
「私が思い浮かぶのは、魔王を討った後に国王が謎の病とか亡くなる、って手法かしら。魔王の呪いとか適当な理由もつけられるし」
「……ずいぶんと血なまぐさい話だな」
俺の言葉にマーシャは同意見なのかため息を漏らした。
「つまり、兵士や騎士はともかく、国の上層部はかなり面倒なことになっているということ。下手に関わるとこっちに火の粉が飛んでくるかもしれないし、国とは距離を置いて活動する方が無難かしら」
「でも勇者として活動する俺達が来たなら、協力するよう依頼してきてもおかしくないよな」
「三人とも、名が結構売れているしねえ」
チェルシーは語りながら面倒そうに天を仰ぐ。
「政争に巻き込まれるのは厄介だね……そういうことがあると心構えはしておくべきってことか」
「そうね。三人とも国に取り入って何かをするなんて考えは持っていないし、必要最小限の接触に留めたいわね」
「……マーシャの述べた謀略、王様は気付いてないんだろうか?」
俺のふとした疑問に対し、マーシャは首を傾げ、
「どうなんだろう。ただ策を巡らせる人達がそうしたことを考えないようにさせている、なんて可能性も否定できないわね」
「なるほど……もし戦場に王様がいたなら、陰謀の中にいるって可能性があるな」
そうなったらどうしよう……偽物との戦いであることに加え、国とも上手くやらなければならないか。ここはシンドイが、頑張るしかない。
「……どう動くかは、現地に赴いて判断するしかない」
そう俺は口を開く。
「対策としては、余計な動きをしないこと……変に目をつけられたら面倒だからな」
俺の意見に仲間達は頷く……部下だったこともあるし、絶対に厄介事から守らなければ、と胸中で呟いた。




