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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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それぞれの考え

 ノルバとの会話を済ませ、さらに少しばかり町に滞在してから俺はマーシャの屋敷へと戻ってくる。時間としては三日。転移を使ったために相当早く戻ってくることができた。


「お帰り、フィス。どうだった?」


 屋敷に入るとメリスが出迎えてくれた。俺は小さく肩をすくめ、


「なんというか、堅苦しい話ばっかりだったよ」

「結局、どういう話をしたの?」

「こちらからは目的を……といっても魔王との戦いとかに関係があるようなものではないから、伏せておく」


 個人的なことであるという認識のためか、メリスは頷いただけで詮索しようとはしなかった。


「で、あちら側からは新たに出現した魔王についての情報をもらい、手を貸してくれと依頼された。というわけで今回は、神族の依頼という形で魔王討伐に入ることになる」


 そこで俺はメリスと視線を合わせ、


「そっちは何か情報はあるのか?」

「ううん、けど不穏な動きをしているみたいな話は耳にしている」


 マーシャは上手くやってくれたみたいだな……さて、ならば俺の口から話すことにしよう。

 俺が屋敷にいたのなら、一緒に討伐へ向かうことになるわけだし、制御もできるだろう。


 よって、俺はマーシャと話し合い、今日夕食の時に語る……それを決定し、待つことになった。






 正直、内容的に食事が進むのかは疑問だったけれど、ともかく集まって話をできる場所が食事の席だったので必然的にそうなった。で、伝えた結果、


「そう」

「そうきたかー」


 メリスもチェルシーも鈍い反応。そこで意を決したかのようにマーシャが、


「ごめん、実は数日前に情報はつかんでいたけど、フィスが戻ってきてから喋るつもりだったの」

「どうするかはこうした場で協議するべき、と考えたんだね」


 水を飲みながらメリスは述べる。存外冷静な雰囲気ではあるけれど……。


「で、問題はここからだ。俺は三人が魔王ヴィルデアルの配下であったことは知っている」


 そう改めて俺は告げる。


「そして魔王ヴィルデアルを打ち破った勇者の息子……ただ、俺自身と魔王ヴィルデアルとはそう関係性があるわけじゃない。でも神族からの依頼を受けている以上、討伐に向かう」

「そういうことになるねえ」

「……主君が復活した以上、三人はどうするか思うところはあるはずだ」

「もし陛下の所へ行くと答えたらどうするんだい?」


 チェルシーが尋ねる。それに俺は肩をすくめ、


「共に戦った仲間だ。この場で即座に斬るなんてことはしないけど……戦場で出会ったのなら、容赦はしない」

「ま、そういうことだね……さあて、問題は復活したという陛下が本物なのかどうかだ。マーシャ、その辺りの情報はあるのかい?」

「同じように配下だった者からの証言だけど、あれは紛れもなく本物だと証言しているわ」


 そこは偽ることなく語る。後で嘘を言ったことが露見するとまずいことになるからな。


「でも、魔王ヴィルデアルの遺骸を利用した……なんて魔王もいた以上、仮に本物だとしてもそれはあくまでガワだけの話で、実際はまったく違う存在である可能性も否定できない」

「遺骸、か……ここで一番の問題は、魂まで同じかどうかだね」


 そうチェルシーは言う。そこで俺は彼女を見返し、


「魂?」

「外見の気配だけなら、真似することは不可能じゃないだろう。けど、内側……それこそ、陛下の記憶を保有していなければ、それは本物じゃない」


 つまりこの場合、勇者の息子として生まれた俺自身が本物ってことだ。記憶を引き継いでいるからな。


「でも、それを確認する術はあるのか……そこが一番問題だねえ」

「マーシャ、何か手はあるか?」

「うーん、正直厳しいと思う。陛下の力を使って誰かが何かをしようとしているにしても、調べようとすれば当然戦闘になるでしょう? 調査するような暇はないと思うんだよね」

「メリスはどう思う?」


 こちらが尋ねると彼女は一度ビクリとなった。


「あ、うん、そうだね……」

「今の話、聞いていたか?」

「上の空って感じだね」


 ケラケラと笑いながらチェルシーが口を開く。


「心ここにあらず、か……まあ本物かもしれない陛下が復活した以上、あんたは戻ってもおかしくない」

「私は……」

「けど、それはこの場にいるフィスと敵対関係になることを意味するわけだ……それにあんたは人間に転生している。果たして戻って迎えてもらえるかどうかは微妙だねえ」


 そこは正直、やりようはあると思うんだけどな……メリスは沈黙。ここで俺は仲間達へ尋ねた。


「それじゃあそれぞれのスタンスを表明してもらおうか……まずは俺から。さっきも言った通り依頼という形で討伐を行う。これは魔王ヴィルデアルが本物だろうと偽物だろうと構わない」

「私は、正直確証が持てないからどちらとも言えない」


 そう告げるのはマーシャ。


「現在調べられる情報によると、魔王ヴィルデアルは居城を構え、その周辺で暴れているみたい。これは以前の陛下とはやり方が異なる……正直、偽物なんじゃないかなって思うくらい」

「ま、真相究明は必要だねえ」


 次に口を開いたのはチェルシー。


「もっとも、仮に本物だったら選択する必要がある……戻るか、人間のままでいるか。個人的にはどちらでも良いけど」

「どうするかは決めていないってことか?」

「面白そうな方につくって感じかな」


 またずいぶん自由だな……でもまあ、ある意味チェルシーらしい。


「私はできる限り調べてみる。分身も駆使して本物か偽物なのか……その上で、決めるよ」


 続いてマーシャの言葉。


「チェルシーは向かうの? もし配下の魔物とかと戦うことになったら――」

「ひとまず静観って選択もあるねえ。ま、例え魔王ヴィルデアルの魔物を倒しても人間を信用させるための方便とかいくらでも言い訳は立つし、向こう側に行って考えようか」

「それじゃあメリスはどうするんだ?」


 最後に俺が問い掛ける。対するメリスはまだ沈黙を守る。

 どうするのか、必死に考えている……マーシャとしても気掛かりの部分だろう。正直、脇目も振らず魔王ヴィルデアルの所へ行くと言い出してもおかしくないのが彼女だ。


 果たしてどうなるのか……なおも黙ったままでいると、長い時間をおいて、メリスは俺達へ向け口を開いた。


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