彼女からの報告
神族から内容を聞いてから、俺は酒場へと戻る。時間にして十五分ほどだったので、メリスは拍子抜けた。
「神族相手というのに、ずいぶんとあっさりとしているね」
「今回は単純な内容だったからな……まあ簡単に言うと、俺と神族の長……主神が話をしたいそうだ」
思わぬ展開――そういう風に至った経緯は、まず俺が神族と手を組んだことにより興味を示し、その後複数の魔王を倒したことから、らしい。
魔王ディリオンについては国が動いているし、神族側も情報を集めていただろうから納得できるが、魔王ゼルドマについては……と問い掛けたら、神族側は彼の動きもキャッチしていたらしい。よって監視をしている時に俺達がやって来て、ゼルドマを倒してしまった……さらに魔王ディリオンとの戦いにも加わった。そうした事柄が主神に興味を抱かせたようだ。
「場所は、神族の住まう土地……というか、主神のいる場所だな。距離はあるけど神族が魔法とかで連れてってくれるそうだ」
「至れり尽くせりじゃないか」
チェルシーのコメントに俺は肩をすくめ、
「何か意図がありそうだけど……ま、俺としても話をしたかったから、快く受けたよ」
「意図? 何か感じたのかい?」
「なんだか切羽詰まった感じがあった」
神族の使者に俺を呼ぶ事情まで説明はしないと思うのだが……たぶん、上司から「絶対に連れてこい」みたいな指示を受けたのだろう。若干ではあるが、ピリピリとした感情が存在していた。
それが何を意味しているのか……ただ、主神がヴァルトのことを知っているとは思えない。神族の初代はヴァルトのことを知っている、というか因縁の相手とも言える存在なのだが、代替わりしてからその情報が伝わっているとは考えにくい。
ま、内容そのものは行けばわかることなので、特に気にしていない……で、その日時なのだが、
「ひとまずマーシャの屋敷に戻ってから行くことにする。ちなみに俺だけらしいから、メリス達は留守番を頼むよ」
「その間に魔王の情報を集めておく」
「頑張るねえ……」
ケラケラと笑うチェルシー。そんなやり取りをしながら、俺達は食事を終えた。
数日後、俺達は予定通り、トラブルもなく屋敷へと辿り着く。既にメリスは俺が主神に会うことについては連絡済み(俺の方からも既に話をしている)ので、事情は把握している。
「やあ、久しぶりねチェルシー」
「そっちも元気そうで何よりだ……で、助手を雇ったとか聞いたんだけど」
「ボノンのこと? 助手というくらいの知識は持っていないけどね……現在は別所で仕事をしている」
魔王ゼルドマがいなくなって、彼としては内心複雑な心境だろうが、最近では色々と仕事を請け負っているらしい。何やら目標ができたとのことだが……ま、仕事によって人間の役に立っているわけだし、害はないので今は放っておこう。
「で、メリスから事前に報告を受けたけど……主神に呼ばれたと」
「ああ。俺達がここに戻ることは神族の使者にも通達はしているから、迎えは来ているはずだ。明日にでも向かうつもりだよ」
「そう。なら今日一日でもゆっくり休んで。あ、メリス。あなたの部屋には色々と資料を置いておいたから」
「助かる」
魔王に関する情報か……部屋にこもって精査するって感じかな。
「チェルシーはどうする?」
「何か仕事をしなきゃいけないのかい?」
「ううん、ここにいるならご飯は食べさせてあげる。けど長期滞在するなら、何か仕事はして欲しいなあ」
「そうだねえ、屋敷にこもって腕が鈍るといけないし、魔物討伐でもやるとしますか」
気合いの入った声。とりあえず方針は決まったので俺達は部屋に……で、すぐさまマーシャのいる部屋を訪ねる。
入って俺が扉を閉めると、彼女は突如立ち上がったかと思うと、ひざまずいた。
「陛下、魔王討伐……ではなく、作戦お見事でした」
「立案そのものはほとんど魔王ディリオンがやったんだけどな……それと――」
「陛下は陛下ですから」
うん、ひざまずくのはやめないと。俺はこれ見よがしにため息を吐いた後、
「まあいいや……えっと、魔王ディリオンとは顔を合わせたか?」
「はい、五日ほど前に。住む場所を含め、こちらで色々と提供を致しました。あの方々にとっても満足のいくものだったようです」
「連絡をとれるようにはしているか?」
「はい。陛下から連絡できるようにはしていませんか?」
「作戦の際、情報をやり取りしていた魔法は生きているけど、所在がわからないから魔法が現在有効というわけじゃない……ともあれ、無事に住まいを得たのならいい」
そう告げた俺は一度間を置いて、
「では、神族に関する件だ……まさか主神側から連絡があるとは思わなかった、これはこれで朗報だ。話が早くて助かる」
「主神との対面……それが陛下の目標であることは聞き及んでいましたが、大丈夫でしょうか?」
「俺の心配をしているのか? こちらから素性を明かさない限り、バレるようなことはない……というか、俺は転生した身だからな。真実を伝えても信じてもらえるかどうか」
「陛下のお力について興味を抱いているのであれば、その力の源泉が前世のものであるというのは割と納得できそうな気がしますが……」
「こっちから喋りはしないから大丈夫」
……魔族ということもあって、マーシャとしては色々と神族に対して思うところがあるか。まあ(個人的には不本意だが)忠誠を誓う前世魔王が主神のところに踏み込むわけで、心配するのはある意味当然かもしれないが。
「ともかく、色々あったけれど目標を達成することはできそうだ……で、マーシャの方はどうだ? 何か新しい情報は?」
「――そうですね。お話し致します」
声のトーンが変わる。ん、何か情報を得たのか?
「実は、メリスの部屋に置いた資料にも記載していないことが」
「問題が大きそうだな、その口調だと」
「はい。いずれメリスの耳にも入ってくるでしょう……どうやらその事象が起きた場所周辺では既に情報が広まっているようですし、隠し立てするのもおそらく難しい」
「新たな魔王の復活ってことか?」
「はい。しかし陛下が監視しろと仰った場所ではありません」
となると、相手は新たな――そう思う間に、マーシャはさらに続ける。
「私としても、陛下とこうして顔を合わせて話をしたかった……そのくらい、異常な事態となっております――」




