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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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勇者への使者

 さすがに石版の内容を聞く、などという野暮なことはせず、俺はディリオンのことを見守ることにする。数分くらいだろうか、彼は石版を凝視し立ち尽くす。

 従者であるメルもまた主人のことを思ってか口を挟むことはなく……やがて、


「ありがとう」


 彼は俺に礼を述べながらこちらへ向き直った。


「キサラの言葉はしかと受け取ったよ……内容は取るに足らないものだけれど、彼女としても心残りがあったようだ」

「それを書き残したわけか……場合によっては石版とか持って帰ることもできそうだけど」

「さすがにそんなことはしないさ……それじゃあ、行くとしようか。えっと、フィスの配下である――」

「配下ではないぞ。俺は対等な関係だと思っているんだが……まあいい。とにかくマーシャには連絡してあるから、以前に指定した場所へ赴けば住む場所などを用意してくれるはずだ」

「ならば、少しの間はそこで過ごすことにしよう。もし助けがいるのなら、是非とも声を掛けてくれ」

「ああ」


 それから少しばかり俺達は話をして、この場所で別れることになった。マーシャには既に連絡を行っているし、大丈夫だろう。

 メリス達と俺は同じ場所へ帰ることになるけど、こっちの歩むペースを調整すれば露見することはない。なので問題は出ないはずだ。


 ――そうして、ディリオンと手を振りながら去って行く。もし助けが必要だとしたら、それはたぶんヴァルトとの戦いになるんだろうけど、あまりやりたくはないな。


「よし……俺も戻るとしよう」


 そう俺は呟き、戻ることにした。






 砦に戻り、俺は一夜を明かし翌日人目のつかない近くの森へ赴く。その目的はマーシャとの情報交換だ。

 所定の場所へ行くと彼女の分身が既に待っており、滞りなく情報のやり取りはできた。


「マーシャ、そちらに魔王ディリオンと従者が来るだろうから、対応をよろしく頼むよ」

「わかりました」


 姿勢を正し彼女は応じる。分身だけでなく家にいる彼女の自身も力が入っているのかも。


「さて、魔王ディリオンとの戦いが終わったわけだけど……俺達は一度戻るとして、魔王に関する情報は何かあるか?」

「現在は何も……ただ、魔王とは異なりますが一つ情報が」

「どうした?」


 聞き返すとマーシャは少し間を置いて、


「神族側が魔王ディリオンとの戦いに貢献した者達を調べているようです。騎士クリューグが筆頭にあげられるわけですが、勇者フィス……つまり陛下についても調べている様子で」

「……何をする気だろうな?」

「わかりませんが、神族が動いている以上は悪い話ではないでしょう」


 ……俺の当初の目標は神族の長である主神に会うことだったし、同胞を助けるにはそれが一番なので、それが早まることになるかもしれない。

 現段階なら魔王ディリオンを倒したのは騎士クリューグが中心ということになっているだろうし、ヴァルトに勇者フィスがマークされる可能性はまだ低いはず……この調子で上手く目をくらませながら魔王を倒し、ヴァルトの目的を解明したいところだ。


 魔王を色々な場所で復活させている以上、最終目標はやっぱりディリオンと話をした千年魔王だろうか……あいつだけは今の俺にとって面倒な相手なので、相応の準備をしなければならない。


「……神族についてはわかった。もしあちらから接触をしてくればどうするかは考えるよ。他に情報はあるか?」

「魔王についてはひとまず落ち着いています。魔王がいくつも出現しているのは事実ですが、現在そうした者達が次々と倒れているため、魔王を名乗る存在達は警戒しているようで、あまり積極的に動いていないですね」


 無闇に暴れれば、彼らを倒した者達が出てくる可能性を危惧しているというわけか……そういう反応になるのはまあ仕方のない話ではあるか。


「なら目新しい情報はないと?」

「大なり小なり魔王の動きはありますが、居所などを知られないよう慎重になっているようですね……ただ」


 と、マーシャは一拍置いた。


「一つだけ、動き出している魔王もいます。その詳細がわかり次第、ご連絡致します」

「わかった。もし厄介な存在が現われなかった場合は……どうするか」

「ひとまず私の屋敷で落ち着かれては? ここまで戦い詰めだったわけですし」


 まあそれもいいか……けど、


「マーシャの屋敷でいいのか?」

「もちろんです。チェルシーも来るでしょうし、私としては嬉しいですよ」

「そうか。なら何事もなければこのまま戻るってことで」


 打ち合わせ終了。一つの大きな戦いが終わり……どうやら少し骨休めとなりそうだった。






 翌日から俺とメリス、そしてチェルシーの三人はマーシャの屋敷へ向かうべく移動を開始した。その道中で魔王ディリオンを討ち取ったことについて情報を集めると、沸き立っていることがわかった。


「人間の騎士が討ち取ったことは非常に大きいようだね」


 メリスのコメント。ふむ、今まで魔王の島が出現したことで観光産業などがダメージを食らっていたわけだけど、これからは「魔王を倒した英雄がいる国」として人が入ってくるかもしれないな。


「ただ、騎士クリューグは大変そうだけど」

「そこは彼も覚悟はしていたみたいだけどねえ」


 と、チェルシーが言及する。


「砦を去る前に彼の様子を見ていたけど、これから自分の身に起こることがどのようなことか……それを推し量っているように見受けられた。彼は英雄扱いされて浮かれるような性分でもなさそうだし、大丈夫だと思うよ」

「そうか……ともあれ魔王を倒したことで国の問題が解決したのだから、良かった」


 もし魔王を倒したことで増長するとかあったら……それはその時考えよう。


 ――そんなわけで俺達は順調に旅を続けるわけだが……変化が起きたのは、チェルシーの屋敷まで数日という時。

 酒場で談笑しながら食事を取っていると、俺に会いたいという人物が。旅の最中に俺を訪ねるなんておかしな話だと思ったのだが、その相手を聞いて俺は納得した。


「ちょっと行ってくる」

「何かあれば相談を」


 メリスの言葉に俺は「わかった」と返事をして、酒場の外へ。

 外は月が綺麗な夜。酒場の近くに立っていたのは男性……ただその気配は明らかに人間とは異なる――神族だった。


「勇者フィス、お話があります」


 そう切り出す。俺は小さく頷くと、神族の使者に近づいた。


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