最終局面
クリューグ達が準備を進める間に、俺やメリス、さらに冒険者達が前線に出て時間を稼ぐ。俺がディリオンに渡した情報により、魔王は一切ダメージを食らわない。
『全ては騎士の切り札に委ねられたか』
ディリオンはそう告げながら大剣を振るう。冒険者達は善戦しているが、時折大剣を受けてのけぞったところに魔王が魔法を行使する。
それは転移魔法――罠に掛かった者達と同様、強制転移させご退場願う。そうして無理に攻撃せずに数を減らしていく。
『不利になってきたぞ? どうする?』
俺やチェルシー、メリスについてはどうにか回避できてはいるが、攻撃を食らってしまうのも時間の問題か……実はディリオンに「もし可能であればメリスやチェルシーも転移魔法を使って」と助言したのだが、二人は簡単に食らってくれない様子。実際幾度か魔法を行使しているみたいだが、二人ともすんでの所で回避に成功している。
やはり二人をいなしながら決着に持って行くしかないようだ……と、冒険者達の数が減り、俺やメリス、チェルシーを含め残り五人。ここで兵士や騎士達が突撃を開始する。
「終わりだ! 魔王!」
まだ切り札は完成していない。しかし時間を稼がなければまずいと判断したか。
だが冒険者達でどうにもならない相手に兵士達がどうにかできるはずもなく、大剣であっさりと弾き飛ばされ、転移魔法の餌食となっていく。
「ずいぶんと律儀だな、魔王」
そうした中で俺は一つ言及。
「ここまで徹底して俺達を殺さないとは」
『お前達は貴重な存在だからな。いずれ大陸を制圧するまでは、一人として消したくはない……この島の肥料になってもらわなければ』
「肥料、ねえ。お前が畑を耕すような真似をしているとは思えないし、よくそんな言葉が出たな」
たぶん実際は農業やってそうな感じだけど……と、魔王は大剣で一閃し、騎士を弾き飛ばしながら応じる。
『不必要な知識ではあるが、全能な存在として記憶はしている。もしよければ教えてやろうか?』
「いらないな。お前に教授されるなんて嫌だね!」
疾駆する。突撃により刃が激突し、軋んだ音を上げる。
一瞬せめぎ合いになったが、魔王ディリオンが俺を押し返す。さて、ダメージを与えることはできていないが、確実に時間は稼げている。これなら――
「できました!」
声を張り上げる魔術師。即座にクリューグは指示を送り、彼が握る剣に、魔法を付与した。
それにより、彼の剣に魔力が注がれていく……光の色は青。魔法の収束に剣は耐え、やがて発光したままとなった。
『それが切り札か。面白い技法だ』
魔王は呟きながら、一度距離を置いた。
『ふむ、確かに強力な力を宿しているようだが……果たしてこの魔王を倒せるのか?』
「倒してみせる」
明言。それと共にクリューグは指示を出す。
「決着の時だ……全員、もう一踏ん張り頼む」
「ここまで来たら一蓮托生だ」
俺の言葉にクリューグはほのかに笑い――檄を飛ばした。
「突撃――これで最後だ!」
クリューグは真っ直ぐ魔王へ突き進む。最短距離で最大の脅威へ肉薄するようで、周囲の騎士や兵士達は彼が一太刀浴びせるために捨て石になる覚悟で突撃を開始した。
そして俺やメリスを含む残る冒険者もまた、クリューグを援護すべく動き出す。最終局面……現時点で怪しまれてはいないが、ここが正念場だ。
もし魔王を撃破しても、そこに違和感などを抱いてしまえば「まだ魔王は生き残っているかも」と考える可能性がある。そうなったら面倒なことになるので、この戦いで全てが終わったと認識してもらわなければならない。
だからこそ、魔王ディリオンも全力で――刹那、俺の胸中の呟きに呼応するように魔王は魔力を噴出した。
『来い! 愚かな者達よ!』
そして大剣を一閃。重厚な一撃は捨て石になろうとしていた兵士達を薙ぎ払い、吹き飛ばしてしまう。生半可な力では前に立っていることすらできない――
「フィス!」
メリスの声。俺は即座に理解し、魔法を構築。そして発動させた。
直後、魔王の足下に光が生まれる。そして床から出てきたのは、金色の鎖。拘束魔法なのだが、果たして、
『無駄だ!』
しかし魔王は床に剣を突き立てたかと思うと光が一気に消失。さらに鎖も魔王を拘束する前に煌めきを消し、魔法は失敗に終わる。
次いでもう一度薙ぎ払い。後続からの兵士や騎士を吹き飛ばし、正面にクリューグを捉える。
もしここで彼を吹き飛ばせば作戦は失敗。下手すると切り札すら失うことになる。そうなったら残された選択肢は徹底抗戦しかないのだが……それでもなおクリューグは突き進む。
そこにはきっと、兵士や騎士達。さらには俺のような冒険者達を信頼があってこそだろう。ここまで幾度となく戦ったことでクリューグは信頼感を抱いている。すなわち、俺達ならば絶対に作戦を成功させるべく、応じることができると。
そしてクリューグは叫ぶ――自らを鼓舞するべく。
「うおおおおおおっ!」
速度を上げ、猛然と突っ走るクリューグがそれに魔王は対抗しようと大剣に魔力を注ぎ、動こうとした。
だがそこへ、俺やメリス、チェルシーが躍り出る。もし魔王の動きを縫い止めることができたのなら、それは間違いなく俺達だ。
それはメリス達もわかっているようで、率先して前に出る。最後の戦い。この激突で、全てが決まる!
先んじて仕掛けたのはメリス。ありったけの魔力を込め、斬撃を見舞うが、魔王は的確にその力の大きさを読み、メリスの剣を弾いた。それにより込めた魔力を大きく削ぐ。
続いてチェルシー。彼女の剛胆な一撃はこれまで幾度となく魔物を倒してきたが、魔王には通用せず。そうした中で、残るのは俺。
先ほど魔王は俺に対し警戒をしていると語っていたわけだが……それを凌駕すべく、こちらも全力で魔力を高める。
「おおおおっ!」
クリューグに合わせるように声を張り上げ突っ込む。そして魔王と衝突し、今まで一番剣を軋ませ、魔王と鍔迫り合いに入る。
ギリギリ、と音を上げ双方の剣がガッチリと噛み合う。魔王としてはクリューグへと仕掛けたいはず。だがそれを俺がガッチリと抑える。
『だが、無駄だ!』
しかし魔王ディリオンは俺を弾き飛ばそうとして――その時、後方にいた魔術師達に加え、騎士や兵士が一斉に魔王へと走る。
その中でクリューグは魔王へと接近する。いよいよだと思いながら、俺はさらに刀身へと力を込めた。




