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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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作戦準備と新たな仕掛け

 その後、俺達は山を進み魔物と遭遇しながらも迎撃し、魔王の城へと向かう……敵の強さもそれほど変わらず、クリューグは「まだ準備が整っていなかったのだろう」と推測する。


「こちらが戦力を減らせば魔王を討てる可能性が低くなる。ならばできるだけ速攻で片付けたい」


 それがクリューグの言葉。とはいえ先遣隊のように城へ肉薄するまでには至らず、予定されていた野営地まで到達する頃には、昼を越え夕方に近い時刻だった。

 その場所は最初の山を越えた先にある平地。見晴らしもよく、魔物が来ても察知できることに加え、ここには斥候部隊が施した仕掛けがある。


「よし、あったぞ」


 騎士の一人が呟くと、何かを拾い上げる。茂みに隠されていた、魔石だった。

 さすがに魔王の本拠地のど真ん中で野営をする以上、それなりの備えがなければいけない……そこで斥候部隊が事前に魔石を仕込んでいた。一晩結界を構築し、それであまりあるだけの力を持つ一品だ。


「それでは準備を」


 クリューグの指示に騎士達が移動……事前に聞いた話によると、大地を含み球体状の結界を形成することで、安全圏を確保するという形らしい。まあドーム状だと地面から魔王が干渉してきてもおかしくないので、厳重に隔離するというわけだ。

 騎士達が宿営の準備を進める間、俺達を含めた冒険者は周囲の見張りを行う。遠巻きにこちらを見据える魔物もいるのだが、結界の準備をしているためか、警戒して近寄ってこない。


「夜、何もなければ明日魔王との戦いって流れだろうけど」


 ふいに近くにいたチェルシーが声を上げた。


「正直、このまま終わるとは思えないけどね」

「俺も同感だ……ただ、騎士達が構築する結界そのものはかなり強固だ。心配ないと思うが」


 クリューグ達へ視線を送りながら俺は告げる。


「魔王は俺達の行動に対しどうするのか……これで魔王自身が襲撃してきたらヤバそうだよな」

「そうかい? 決着が早くつくってことで良い案配だと思うけど」


 冗談なのか、それとも本気なのか……と、横にいるメリスが肩をすくめる。なんだか呆れているような雰囲気すら感じられる。

 ともあれ、ここまでは順調に来ているし、騎士達は明日の決戦でもこの勢いを……と行きたいところだろう。まあそれは上手くいかないのだけれど。


 かくして、準備が終わるまで俺達は警戒を続けることになったが……結局魔物が近づいてくることはなく、次第に空が暗くなり始めた。






 結界を構築し、俺達は休むことにする……のだが、さすがに全員で眠るわけにもいかず、交代で見張りをやることに。協議などをした結果、俺なんかは最初の段階で見張りをやることになった。

 一昼夜くらいは寝ずにいても問題はないのだが……そして魔王の本拠地ど真ん中なので、眠れる人は少ないのではと思ったりもしたのだが……寝静まっている。疲労感が上回っているようだ。


 よし、メリスやチェルシーも寝たので……ここで俺はディリオンと連絡をとる。


「……そっちはどうだ?」

『既に準備は完了した』


 明瞭な返答だった。


『そちらが眠っている間に実行に移す……しかしこれで騎士達はさらに苦労することになるけど』

「ある程度追い込まなければならないのは事実だからな……騎士達の援護については俺がどうにか立ち回るから心配するな。そちらは計略が悟られないよう腐心してくれればいい」

『わかった……いよいよ明日か』


 そう述べるとディリオンは沈黙する。


『こっちは既に準備を整えている……いつでも島を脱出できるが……』

「何かあるのか?」

『いや、少しばかり寂しいだけだよ。思えばこの島と自分は一心同体だから』


 ――詳しく調べようとはしなかったが、魔王ディリオンは大地に根ざし、その力を受けて出現した魔王なのかもしれないな。

 過去に出現した魔王というのは基本、俺が追っているヴァルトが生み出したものだ。しかし彼は多大な力を有しているわけでもないため、何かを媒介にして生み出していたのだが、ディリオンの場合は海上に存在していた孤島とか、そういうものを利用したのかもしれない。


 ただし他の魔王とは異なり、戦いを望まない、なおかつ野心を抱かない魔王が生まれたわけだが……ヴァルトとしては失敗だと思ったのだろうか?

 ともあれ、俺としては好都合であり、ヴァルトとの戦いを有利に進めたいところだが……そんな風に考える間に、夜は次第に更けていった。






 さて、翌日……決戦の日というわけだが、起床して早々に異変が起きている。

 目を開けると周囲がザワザワとしていた。よって俺は起き上がり状況を確認すると、


「フィス、無事だったか」


 チェルシーの声。視線を転じると彼女とメリスの姿が。


「無事……って、どうした?」

「人が少なくなっているんだよ。おそらくフィスも一度受けた転移の魔法だ」


 正解である――結界そのものは非常に強固で、ディリオンも密かに何かをするには邪魔だった。無論全力ならば壊せるくらいだが、今回はそんな風に攻撃することはなく、こういう手段を用いたのだ。

 ちなみに手引きしたのは俺。結界に小さな穴のようなものを作り、そこからディリオンの魔力を侵入させ、転移系の魔法を使って人を減らしたわけだ。


「現在人数確認しているけど、概算で一割ほど消えているね」

「……こっちの本拠地である砦まで強制転移したのか?」

「どうだろうね。場所まではどうかわからないけど、そんな悠長なやり方とは思えないね」


 チェルシーは俺の推測に否定的な言葉を述べる。


「だって今回はこちらに明確な殺意があるからね。転移した先は牢獄とかならまだマシで、魔物の大軍の前に放り出されているなんて事態でも驚かない」

「仮にそうだとしたら、転移した時点で手遅れだな」

「そうだねえ」


 穏当に答えてはいるが、チェルシーの声や視線はずいぶんと硬くなっている。


「いよいよ本気を出してきたか……まさかこんな攻撃だとは思わなかったけど」

「そうだな……で、騎士クリューグはどうするつもりだ?」

「進むことを選択した。というよりそれしかないけどね」

「後方には魔物もいるだろうし、さすがにここから退却も無理か……なら一気に前へ、と」

「魔王の首を取るか、それとも死ぬか……その二択になってしまったね」

「魔王との戦いである以上、それは必然だよ」


 メリスの言葉。確かに、人間にとって魔王との戦いはいかなる状況下でも、死地であるのは間違いないな。


「行くぞ!」


 そして発破を掛けるようにクリューグは叫ぶ。それに兵士達は呼応し……やがて進軍を再開した。


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