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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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退路を断つ

 平原にいる魔物達は幾度も俺達へと向かってくるが、どれも難なく対処することに成功。よって俺達は進軍するわけだが……ここで騎士クリューグに決断を迫られる。このまま勢いで突っ走るか、それとも一度立ち止まって少しずつ進むのか。


「……どうしますか?」


 クリューグへ騎士が問い掛ける。主語はないが、どういう意味合いなのか彼も理解できたようで、しばし黙考し、


「……進む」


 そう決断。多少なりともリスクをとって先に進む――というわけだ。


「ここからは起伏の激しい地形になる。なおかつ魔物に対抗できる……少しでも余裕がある段階で進むべきだ」


 魔王の首を取るためにはいくつもの困難をくぐり抜けなければならないからな……ある程度は勢い任せに突き進んで距離を稼いだ方がいいという判断か。

 さて、俺はここからの作戦を頭の中で整理する。さすがに平原から山へ入る段階で追い込むような一手がある……場合によっては俺がフォローするつもりだったが、クリューグ達はこちらが助言する必要もなく前へ進みそうだ。


 そうこうする内にいよいよ起伏のある山へと近づく。ここでいよいよ魔王側も動き出すのだが――

 直後、どこからか唸り声が聞こえた。途端に騎士達は警戒し、チェルシーやメリス達も周囲を見回し始める。


 いよいよだ――と、頭の中で思考をする間に山の物陰から魔物が姿を現した。すぐさま騎士達は迎撃態勢に入り、魔物も威嚇し始める。


「強さはどうだ……?」


 俺は呟きながら魔物達を見据える。平原の時と比べ強いのか弱いのか……騎士や兵士もそこが気掛かりだろう。

 刹那、魔物達が向かってくる。とはいっても群れを成してというわけではなく、どちらかというと波状攻撃に近い形。


 ただ魔物よりこちら側の数が多いので、波状的な作戦は効果が薄いが……両者が激突する。結果、兵士達はどうにか押し留めることに成功。


「まだ魔物の質は低いか」

「そのようだね」


 チェルシーは答えながら横から来る魔物に対し剣を構える。そして突撃する個体と激突して、彼女が勝つ。次いで首筋に斬撃を叩き込むと、魔物はあっさりと倒れ伏し、消滅した。


「調子はいいね」

「そうだな」


 チェルシーの声に応じなが俺も近づく魔物へ向け剣を振るう。魔物の質は平原の時とあまり変わっていない……こういう魔物ばかりなら魔王の城へ向かうのはそう難しくないのだが、誰も表情を緩めてはいない。

 彼らの脳裏には、城に現われた凶暴な魔物がこびりついているのだろう。それはメリスやチェルシーも同じ様子。


 程なくして周囲の敵は殲滅完了。クリューグは「先へ」と一言呟き、足を前へと進める。

 それに俺達も追随。決して歩きにくいわけではないのでひとまず移動に関しては問題ない。ただし、ここから森を抜ける必要などもあるし、俺が消えたなんていう前例もある。さらに道は険しくなるのだが――


「……果たして」


 ふいにメリスが俺の横で声を発した。


「本当にこれで城に辿り着けるのか……」

「正直、それは甘い見立てだと思うけどな」


 こちらが述べるとメリスは深々と頷く。

 さすがにある程度島に上陸して進んでいるのに魔物の質が変わらないからな……メリスやチェルシーはこれが罠だと感じているのだろう。


 それはおそらくクリューグも同じか……後方から覗き見える表情を窺うと、それこそ進むごとに顔が厳しくなっていくように感じられる。魔王の本拠地にいるわけだから、これはむしろ当然と言うべきなのかもしれないが。

 ともあれ、見かけ上は順調。このまま勢い任せで城まで踏み込めれば……と俺はなんとなく考えながら、山を登り続けた。






 明確な変化が起きたのは山を登り切ってから。城の外観などを確認する間に、騎士の一人が声を上げた。


「ここから先、至るところに魔力を感じることができますね」


 その言葉によりクリューグは正面に目を凝らす。


「確かに前に来た時と比べ、魔力が感じられるな……」

「推測ですが、強制送還される魔法では?」

 騎士の言葉にクリューグは目を細め、

「確かに同じような魔法ではあるかもしれない。だが、攻めてきた軍団をただ戻すだけとは考えにくい」


 正解である。以前のように魔法陣が各所に仕込まれており、もし踏んだら島の一角に強制転移されてしまう。

 そこは魔法陣が仕込まれている鉄製の檻。さらに周囲を多数の魔物が固めているという、まさしく恐怖の場所である。


 理由付けとしては餌にして魔物の能力を高めるべく捕らえたというもの。味方が魔王に対し「なぜそんな真似をする」と問われればそんな感じで答える予定だ。

 ただまあ、果たしてそんな会話が生じるのかも疑問だけど……と、ここでさらなる変化が。魔物の唸り声――ただし、その方角は後方からだ。


「どうやら、退路を塞がれたみたいだな」


 クリューグは後方を一瞥し声を発する。ここまで突っ走ってきた以上、こればかりは仕方のない話なのだが……。


「先に進むも、退くも地獄というわけだ」

「となれば、選択肢は――」

「ああ、一つだ」


 部下の騎士に応じながら俺達の表情を窺うクリューグ。

 俺を含め冒険者達は一様に厳しいが、覚悟を決めたという雰囲気。兵士達も下より死地に入ることから心構えはしているのか、恐怖の感情はない。


 現時点で魔物に対し戦えていることからも士気は高い。戦況からしても前へという選択肢をとる可能性が高いが……。


「先へ進む……ただしここからは厳しい戦いが待っている」


 クリューグは言う。兵士や騎士達は全員一様に頷き、


「ここからどうなるかもわからないが、誰かが倒れても前に進む……フィス殿」


 そこで俺の名を呼ぶ騎士。


「海上で魔物を倒した能力……あなたの力も大いにお借りすることになると思いますが」

「大丈夫です。指示には従いますので、存分に使ってください」

「ありがとうございます」


 クリューグは礼を述べた後、大きく深呼吸をした。


「罠に注意しながら一気に進む。ここから先は魔物も強くなるだろう……とはいえさすがに今日中に城へ到達するのは難しいため、野営地候補まで進む」


 予め地形を確認して休める場所を決めている……今日はそこに到達するのが目標か。

 そして騎士達を先頭にして俺達へ動き始める……そこで俺は魔王ディリオンへ連絡をとり、次の作戦に移るよう指示を送った。


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