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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章
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出陣

 出発の日、砦を出て海岸へ向かうと、いくつもの帆船が停泊していた。


「厳しい戦いだろうけど、頑張りましょう」


 メリスが言う。彼女に加えチェルシーは既に臨戦態勢。海上でどうなるかも予想つかない状況なので、これは至極当然か。

 一方で俺はディリオンと上手く合わせなければならないので、そういう意味で大変だな……と内心思いながら乗船。他の砦や周辺の町にいた冒険者などもいて、ずいぶん気合いが入っている。


 騎士クリューグについては別の船らしい。騎士の中における精鋭も彼が乗る船にいる。戦力を分散させて万が一においても魔王に挑めるよう対応……といったところか。あまり効果はなさそうだけど。


 俺自身、この日まで騎士達がどう戦うか考えてみたのだが……正直打てる手はほとんどない。時間に余裕があれば検討していた神族の援軍などに期待するのが得策なのだが、魔王ディリオンはそれをさせないようにした……もし打ち合わせなどなく、ガチでディリオンと戦う場合、苦戦は免れない。それどころか全滅すら想定する。


 今回の場合、もう騎士には頼らず独力だけでなんとか対応しようとするかな……そんな結論を抱く間に船は出発する。合計五隻。砦の防衛戦力については最小限に、間違いなく現状で動けるだけの戦力……その全てが動き出した。


「一隻でもやられたら、たぶん後がないだろうねえ」


 と、出発直後にチェルシーが呟く。


「そもそもこの戦力でどうにかなるのかって疑問も大いにあるけど、道中で魔物と交渉し被害が出たら島に上陸してもまともに戦えないなんてオチもあり得る」

「それは騎士クリューグもわかりきっているだろうな」


 彼が乗る船を見据えながら俺は応じる。


 出発前の時点で悲壮感が漂っていたからな……船も互いに衝突して大破しないよう間隔を開けるなど、色々と被害が拡大しないような処置を施している……とはいえ海上で被害が出た時点で退却も視野に入れないといけないくらいなのだが……たぶん騎士クリューグは止まらないつもりだろうな。


 すなわち玉砕覚悟の特攻なわけだが……さて、魔王の島まで多少距離はあるが、今の速度ならば昼くらいには到達できるだろうか。


「メリス、チェルシー、どうする?」

「見張りに徹すればいいと思う」


 メリスの言葉にチェルシーも「そうだね」と返事。俺も賛同し三人で警戒に当たることにした。

 甲板にいる人間は全員一様に厳しい表情。いつ何時襲われても大丈夫なよう、兵士や騎士達は声を掛け合い動いているが……、


「士気は高そうだけど、一度つまずいたら終わりそうだな……」


 そんな評価を下す。ともあれこの戦力でやるしかないので、騎士達も士気の維持には腐心しているところだろうな。

 俺は空を見上げる。雲は無く綺麗な快晴で、天気が急変するという可能性は低そう。というか日差しが気持ちよく、俺としてはディリオンのことも知っているのでなんだか気が抜けそうだな。


 ただぐーたらしていれば当然怪しまれるので見かけは注意を払っている感じに……そうして船は、魔王の島へと進み続けた。






 異変が生じたのは島が見え始めて少ししてから。海中に目を向けていた兵士が「何かいる」と報告し、他の船も同様のサインを示した。


「いよいよ、って感じだね。さてどんな魔物が出てくるのやら」


 チェルシーは鋭い眼光で海へと視線を送る。メリスは剣を抜こうか迷った様子なのだが……、


「巨大な魔物だったら、剣は役に立たないかもね」

「そういうことなら俺の出番だな」


 こちらが述べる。それにメリス達だけでなく兵士達も注目し、


「魔法を行使して魔物が襲い掛かってきた瞬間に反撃する……が、肝心の魔物がどういった手段で攻撃を仕掛けてくるかわからない。よって甲板に乗り込んできた魔物に応じられるように迎撃態勢に入ってくれ」

「わかった」


 メリスが承諾すると同時、聞いていた騎士は俺の言葉に従うように動き始める……そうこうする内に海の中から鳴き声が聞こえてきた。

 それはグオオ、という唸り声のような音。途端に甲板が騒がしくなり、海を注視する者が増え始める。


 俺は魔法の準備を行いながら他の船へ視線を送る。ディリオンの事前打ち合わせでは、海中の魔物は俺がいる船を襲撃する予定だ。こっちの動向については逐一情報を渡しているので、仕損じることはないはずだ。


 まず俺が魔法で魔物を倒し士気を上げる。で、そのまま島に到着して一気に攻め込む……砦に出現した魔物をけしかけ、こっちの戦力を分散させながら騎士クリューグや俺やメリスなんかを城へと誘う……これが一応考えた流れだが、さすがに味方側の動きを完全に制御することはできないので、想定外のことだってあるかもしれない。それについては臨機応変に……ただここはあまり心配していない。ディリオンは魔王の島の中ならばあらゆる状況を把握できるからな。


 その時、一人の兵士が声を上げる。どうやら魔物が海中から姿を現した――

 刹那、俺達の横手に海水を巻き上げ魔物が姿を現わす。波が生じ船が揺れ兵士達が動揺する中で、俺は魔物を確認――それは胴長の海竜だった。


「て、敵襲!」


 誰かが叫ぶ。そして甲高い雄叫びを響かせ、甲板にいる面々全てを威圧する。

 次いでその大きく開けた口から魔力が生じる――それに倒し俺は、魔法を発動させる!


 左手をかざして発揮したのは火炎魔法。ただしそれは炎の槍――いや、炎の柱とでも言うべき巨大な魔力が解き放たれ、それに応じるべく海竜もまたブレスを放つ。

 魔力の込められたブレスと炎が激突。轟音が生じ、兵士や冒険者達が大丈夫なのかと事の推移を見守る。


 メリスやチェルシーなんかは俺が押し負けてもフォローできるよう動いているみたいだが……問題ない。俺の炎はブレスを突き破り、その頭部へと直撃する!

 魔法をまともに食らい大きく体を傾ける海竜。次いで俺はさらなる火炎魔法を行使――再びその頭部へと浴びせる。


 それにより、頭部が見事に吹っ飛んだ……結果、海竜は崩れ落ち、体を着水。そのまま海へと沈んでいく。

 同時に歓声が聞こえ始める。巨大な魔物を倒した……これで士気も上がるはず。


「このまま一気に畳み掛ければいいけど、な」


 こっちのセリフにメリスやチェルシーは頷いたが……表情は、険しいものだった。


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