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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章
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決戦への誘導

 ディリオンの言及としては、神族が来てから攻略する場合、魔物が大量に生まれており厳しい。よって先ほど出現した魔物が大量に生み出される前に仕掛けた方がいい……そんなことを暗に語っているわけだ。


「……条件とは、ずいぶんと悠長だな」


 クリューグが魔王ディリオンへ告げる。それに相手は、


『相手をするのも面倒だからな……要求は一つ。我が島に来るな。それだけ守れば、二度と魔物を差し向けるようなことはしない』


 沈黙が生じる。無論のこと、人間側としてはそんな要求は聞けるはずもない。


『その顔つきからは、聞き入れるつもりはないようだな』


 魔王が語る。それに対しクリューグは厳しい表情と共に、


「……害悪そのものである貴様の言葉など、誰が聞く?」

『聞く他ないだろう? この魔王を倒せない限りは』


 気配が濃くなる。それに対しクリューグ達は戦意を消さないまま、対峙し続ける。


『……ふむ、強力な援軍を期待しているようだが』


 と、突如魔王は話題を変えた。これは当然、神族達のことだ。


『何か手があると思い、こうして姿を見せたわけだが、なるほどそれならば我が命を刈り取るだけの力を有することができる……かもしれん』


 その言葉と同時、魔王は俺達を侮蔑するような気配を見せる。


『そちらの手は理解した。ならば、こちらも相応の態度をとる必要があるな』


 ――クリューグは苦虫を噛み潰したような顔をする。魔王の狙いが情報を得るためのものだと悟ったわけだ。


『それ故の警告だ……もう一度だけ、チャンスをやろう。戦うか、手を引くか』

「……断る」


 クリューグが応じる。それによって魔王もまた決断したようだった。


『よかろう。ならば五日後……我がしもべ達が貴様らの国を、蹂躙するだろう。それまでに精々用意しておけ。無駄な抵抗だとは思うが、な』


 刹那、魔王の気配が途切れる。気付けば圧するような魔力が一瞬でかき消え、壊された城壁だけが、魔王が襲来したことを指し示すものとなった。


「……どうやら援軍を期待するには、時間がないようだな」


 クリューグは息を吐く。それと同時に彼は、


「今一度、会議を……とはいえ、どうするかは決まったようなものだが――」






 そこから会議は紛糾することなく、騎士達は全会一致で戦う道を選ぶ。そして船の準備を始める。

 五日後、というのがポイントである。たぶんだけど、魔王ディリオンは魔物を陽動に利用して資料でも探した。神族がどの程度でやってくるのか。あるいは今から魔王の島へ向かう場合、どの程度の時間必要なのかを探ったのだ。


 結果、五日という期間に落ち着いた――チェルシーと十日後に神族が来るならとか話し合っていたが、実は意外と正解だったのかもしれない。


「あまり良い展開とは言えないねえ……」


 そんな中、チェルシーは声を上げる……ちなみに俺達は砦の廊下。魔物などがいないか念のために巡回している状況だ。


「魔王に乗せられて戦うわけで、たぶん既に島は魔物で埋め尽くされているんじゃないかい?」

「それは俺も同感だが、騎士クリューグの決断は仕方がないと思うけど」


 こちらの意見にチェルシーは小さく頷き、


「相手は五日後に大陸襲撃をするってことだからねえ。国を守るためには短期決戦しかない……とはいえ、特攻に近いね」

「失敗したなら国側としては神族が来るまで時間を稼ぐ形になるな。たぶん騎士クリューグは攻撃が失敗する可能性を考慮し、王城に連絡。避難などをお願いするはずだ」

「なるほど。町などに連絡し避難準備をしておくと」

「幸い魔王は五日後と警告したからな。それまでに国中に知らせれば、被害拡大を防ぐことはできる」


 ただ、魔王が襲来するってことで国内は大混乱になるだろう。城側としても微妙なところだな。公表すれば大変なことになるけど、知っていて秘密にしていれば国側としても信用が失墜する。

 落としどころとしては「騎士クリューグ達が戦争を仕掛けるため、魔王の報復を警戒する」といったところか。ただこれだと完全に町の人間を非難させるとかは難しいかもしれないけど……たぶんこの方針でいくだろうな。


「私達は五日後まで待機って言い渡されているけど」


 チェルシーは俺へとさらに続ける。


「フィスとしては何かやっておくかい?」

「いや、俺は坐して待つよ。決戦の日は近いんだ。現状で何かをしたとしてもあまり意味はなさそうだし」

「そうだねえ……ただメリスはあきらめが悪いかもしれないけど」


 彼女は窓から中庭を眺める。そこには教練に参加しているメリスの姿が。

 模擬戦闘をやっているようで、彼女の剣が騎士や兵士の武器を叩き落としている光景が見える。俺が調べ物とかしている間に彼女は砦の人達と馴染んだようだ。


「……俺も顔を出した方がいいんだろうか」

「どっちでもいいんじゃないかい? ちなみにあたしもたまに参加しているけど、腕を鈍らないようにする、ってくらいにしか効果がないし」


 メリスの実力なら、騎士や兵士は力不足とは思うけど……あー、これは逆かもしれないな。

 魔王を討つために彼女は戦っているけど、魔王の島に乗り込む以上は自分だけ頑張っても厳しい。よって兵士や騎士達の実力を少しでも上げて生存力を高め、魔王に到達しやすくする……そんな感じかな。


 こう解釈すると打算だらけのようにも感じられるけど……彼女の行為は人間側にとっても悪くはないので放っておこう……それじゃあ俺は、ディリオンと打ち合わせでもするか。


「俺は部屋に戻っているよ」

「ああ」


 手を振り分かれる。そして部屋に戻ると同時、


「ディリオン、五日以内にこっちは動き出すぞ」

『作戦成功だね。こっちも島で着々と準備は進めている』

「で、船で移動している間のことだが――」


 そうして俺は彼と打ち合わせを行う……その間に騎士達は三日後、魔王の島へ向かうことを決議する。

 さて、いよいよ決戦……魔王ディリオンが滅ぶことは確定だが、上手くやらないければ――絶対に作戦だと気付かれてはならない。


 メリスやチェルシーもいるためかなり大変だな……また俺はマーシャとも話し合う。ディリオンに関する事情を説明し、受け入れてもらえる態勢を整える。

 結果としてその辺りのことで俺も時間を取られる結果となり――三日後を迎えることとなった。


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