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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章
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恨まない理由

 帰還した日以降、砦の騎士達は国の上層部を呼んで会議に明け暮れる。その間俺やメリスは剣を振って訓練しつつ、どのような作戦になるのかを待つこととなった。チェルシーからの情報によると、文字通り紛糾しているようだ。

 ひとまず船を用いて攻め込むのは間違いないみたいだけど、そこからどう行動するかについては意見が分かれているとのこと。相手の出方が不明瞭な点もあるし仕方はないけど、ひとまず敵の本拠地については位置がわかったので、そこへ向かうまでにどうすべきかと考えているところだろうか。


 そんな折、食堂で昼食をいただいているとチェルシーが対面にやってきて会話をする。


「騎士達はまだ紛糾しているのか?」

「魔王についてどういう見た目なのかを含め、魔術師達がずいぶんとおどろおどろしく語ったからねえ。戦力をさらに増やすのか、それとも……ということで悩んでいる様子」


 そう言いながら彼女はパンをかじり始める。


「加え、砦側の守りだってどうにかしないといけないからねえ。現状では防衛に回せるだけの戦力はあまりないみたいだし」

「さらに増員して、防衛戦力も整った段階で攻撃、という流れになるのかな?」

「それが無難だろうねえ。ただあの魔王の強さは本物に違いないし、どれだけの数が必要になるのか……」


 チェルシーがそう語る以上、ディリオンの演技については問題無さそうだな。

 ふむ、ここで俺は少しばかり尋ねたいことができたので、口を開いてみることにする。


「なあチェルシー、魔王ディリオンと以前仕えていた魔王……気配とか違うだろうけど、どっちが強いと思う?」

「んー、そうだねえ……ここでメリスなら魔王ヴィルデアルだと答えるんだろうけど、あたしは少し違うね」

「違う?」

「正直、あたしも陛下のことについてはよく知らないんだよね……あ、もちろん性格とか容姿とか、そういうものは知っているよ? ただ、そうだねえ……あの御方は部下にも力の底を見せていなかった」


 ……う、うーん。俺は必要ないよなと思って力を示すことってあんまりなかったんだけど……なんだろう、マーシャと話した時もそうだったけど、俺の行動が変に解釈されてしまったみたいだな。


「あれがハッタリなのか、そうではなく真の力を隠していたのか、あたしには皆目見当がつかなかったねえ。側近のメリスだってきっとそうさ。だからどちらが強いのかと言われると、あたしにはわからない」

「ディリオンも力の底を見せているとは思えないけど……」

「そうだね。だからわからないと回答した面もある。ただ、一つだけ言えるのは陛下はどこか人間のような存在であろうとした。魔王ディリオンみたいに威圧させるようなことも、ほとんどなかったし」


 人間のような、ではなく人間であろうとしたんだけど……そもそも俺は元人間だからな。まあ千五百年前くらいに人間としての生は捨てたんだけど。


「ただ一つ確実に言えることは、国は相当な資源を投入しない限り、討伐することができそうにないってことかねえ。魔王は語っていたけど、あの島にいる間は魔物の生成も自由なんだろう? だとしたら文字通り魔王の力が尽きるまで戦わないと、勝利は来ない」

「そうだな……」


 クリューグとかは得られた情報から討伐は相当厳しいと考えているだろうな……と、そんなことを思っていると、クリューグが食堂に入ってきた。複数の騎士を連れてこれから食事らしい。


「休憩っぽいな」

「そうだねえ……あ、それともう一つ情報が。もう少し人を募るみたいだね」

「人を、募る?」

「募るというのは語弊があるかもしれないけど……神族側にも連絡しているようだ」


 ここで神族か。持ち帰った情報を考慮すると人間達だけでは手に余るから……という考えなんだろうけど。

 しかしこれは少しばかり厄介かもしれないぞ。さすがにディリオンは神族が襲来することは考慮に入れていないだろう。彼らに対抗できるくらいの手段は持っているにしても、さすがに出てきたら全力で応じる必要があるだろうし、犠牲者が生まれるかもしれない。なおかつこっちの作戦がバレるかも。


 ここは、そうだな……俺は食事を終えるとチェルシーと別れ、部屋に戻る。


「あー、ディリオン。聞こえるか?」

『ああ、大丈夫だよ』


 魔法を使いディリオンと会話。さて、


「人間側の様子なんだが、どうするかはまだ結論に達していない……ただ、神族に協力を仰ごうという案も出ているようだ」

『神族か……うーん、そうするとかなり面倒かな』

「そうだな。選択肢としてはいくつかあるけど……神族が出てくる前にどうにかしたいよな」

『それなら少し、人間側を焦らせるしかないか。こっちとしては心苦しいけど』


 心苦しい、か。やはりディリオンは人間側に対し恨みなど抱いていない。


「――なあ、ディリオン」

『どうしたんだい?』

「一つ質問したいんだが、前に滅ぼされた時はそれこそ失意の内に消えたんじゃないのか? 人間に対し恨みとかは――」

『私が至らなかった……それだけの話だ』


 切って捨てるように、ディリオンは答えた。


『そういえば私の目的などは語っていなかった?』

「ああ、そうだな。聞いていない」

『過ぎ去ってしまったことだし、話してもいいか……もしフィスがこれから同胞のために居場所を作るのなら、参考にしてくれればいいよ』


 唐突な言葉。それってもしや、


「ディリオンは、人間と交流を深めたかったのか?」

『ああそうだ。とはいえその目的はひどく俗物的だ……けれどその理由や経緯、そして滅ぼされてしまったけれど、最期どうなったか……それらの結果により、私は人を恨まずに済んでいる』


 恨まずに……言葉を待っていると、ディリオンはさらに語る。表情は見えないけど、きっと笑っている。


『それこそ、私はある理由によって人間と交流を……いや、この島を一つの国に見立て、国交を開こうとしたんだ。そしてそれには、協力者の存在があった』

「協力者……?」

『最初、この島に魔王と呼ばれる存在が住んでいたなんてことはわからなかったため、島が出現した段階で今のオルワード王国の領土に存在していた国が調査に入った。魔王として顕現した当初、私はどうすればいいかわからなくて、戸惑っていたのだけれど……その調査隊と出会った。まず最初に、その出会いは最悪極まりないものだった。人間はこちらを攻撃してくるし、私も応戦した』


 そこから間が生じる。過去の出来事に思いを馳せているのだろう。


『けれど、それが最初のきっかけで私は人を恨まなかった……良い機会だし、それを今から語るとしよう――』


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