偽三佐さん、アキバを行く
■ 1 偽三佐さん、誕生する ■
私は、交渉相手の隣に立つ女性の姿に、言葉を失った。
鏡合わせ。そんな言葉がぴったりだ。開かれた口元、強張る頬、眉を跳ね上げてこちらを睨む視線まで私と同じ。
体の線が出る青の布鎧と、狼牙の祖霊紋が刺繍された衣。
違う服装だけが、二人が鏡像ではなく別人だと物語る。
驚いているのは彼女も同じようだった。そんな中、一人冷静な眼鏡の男、〈円卓会議〉代表の口元が吊り上げられる。
「さて。貴女は、我々の生活を見たいと仰っていましたね」
言った。我らと同じ世界の支え手、〈冒険者〉。その日常を知りたくないはずがない。だが。だからといって。
「彼女……高山女史と、一日入れ替わってみませんか?」
なにを言い出すのだ、この〈円卓会議〉代表殿は!
主人の暴走を諌めるのが副官の役目ではないか?
すがるような私の視線に、瓜二つの女性、タカヤマサンサは首を横に振った。援軍なし。戦況不利である。
確かに私の権限ならば、ステータスの一部偽装ができる。
瓜二つの彼女となら、入れ替わりも可能だ。けれど、それも見た目だけ。いきなり他人を演じられるはずもない。
「今、貴女が公式にアキバへ来るのは難しいでしょう。それに、私は貴女に、ありのままのアキバの街を見ていただきたいのです。貴女達が各地へと送り届けてきた〈冒険者〉が、いかなる存在か。伝承ではなく、貴女が、その目で。そのために、高山女史という隠れ蓑はぴったりだと思うのですよ」
「で、その心は?」
「なんとなく面白そうですし」
そっちが本音か、この面白眼鏡……!
「大丈夫です。挙動不審でも皆に信じてもらえる言い訳を、きちんと考えていますから」
全く信用に足らぬ満面の笑顔で、男は眼鏡を光らせた。
◇ ◇ ◇
「ということで。高山女史は、〈ロデリック商会〉謹製薬剤の治験に参加し、人格変容と記憶混濁という特殊なバッドステータスを受けてます。皆さん、今後二十四時間、彼女に不可解な言動があっても生暖かい目で見守るように」
アキバの街の最大級ギルド〈D.D.D〉の本拠。その主であり、事態の元凶である鬼畜眼鏡ことクラスティは、幹部メンバーの前でしれっと言ってのけた。
思わず彼の隣で膝を突きかける。雑! 嘘が雑すぎる!
そんな言い訳に誰が引っかかるのか!
……だが。
「またロデ研かあ……」
「俺、すげえマッチョになったことあるぜ……」
「拙者は可憐な美少女になったことがあるでゴザル」
「MAJIDE!?」
「……偶然と運命が生んだ乙女の策略。ロッテとルイーゼの狂騒……高山女史も災難だな」
「そこの厨二日本語しゃべれください」
「いつもより心持ちスルー能力下がってるのか頬ぴくぴくしてる三佐さんも初々しいと俺クロスレビューでも高評価!」
「テメェら落ち着けーっ! くそ、いつもの三佐さんの抑止力がないだけで大混乱だなあオイ!」
「ったく。平常運転でございますわね。まあ、高山さんもマジ働きすぎでしたし。たまにはいい休暇だと思いますわ」
「お嬢、晩餐会の随伴変わったの、まだ根に持ってんのか」
「ち、違いますわよ! ンなこと、全ッ然、これっぽっちも、根に持ってなんていないんですからねっ!」
……あれ? なんだ、これは。
英雄揃いの〈冒険者〉において最強の一角を担うギルド、〈D.D.D〉の幹部。それが、こんな荒唐無稽な嘘を当然のように受け入れていいのか。というかなんだこの緊張感のなさは。
「ね? 信じてもらえると言ったでしょう?」
こうして、釈然とせぬまま一日限定の、「入れ替わり」は始まったのだった。
■ 2 偽三佐さん、本屋へ行く ■
アキバの街。ヤマトに五つ存在する『祈り手らの街』の一。〈亜人間〉により危機に陥った祖の祈りに応え、〈冒険者〉が降り立った聖地。我らの任はこの街を各地と結ぶことだ。情報はそれなりに仕入れている。だが。
「ほら、安いよ安いよー!」
「懐かしソースせんべい! ロデ研印のチープ味だ!」
「今局所的に人気の原型師、虹幻ダイバー兄ィの木製姫様フィギュア! 現品限りでこのお値段!」
飛び交う〈冒険者〉らの声は、そこらにいるような平凡な商人となんら変わらない。伝承にある「世界の祈りに応えた聖徒」という幻想がばらばらと砕け散るのを実感する。
私が向かっているのは、ギルドで場所を聞いた書店。街の隅の一角に、その店〈古書店ひよこ堂〉はあった。
誰もが手軽に本を買える書店は、〈冒険者〉の都市ならではだ。書は文化。〈冒険者〉の本を読むことで、私は彼らの本質を掴めると思ったのである。
入口近くの棚の背表紙を眺める。地図、戦術書、娯楽書、風土記まである。いずれも〈大災害〉から数ヶ月で書かれたものだ。我々が数年かけて集めるような情報が、無造作に売られている。街を歩いたときとは真逆の意味で眩暈がした。
奥に歩を進めると、奥から女性の話し声が聞こえた。
店主だろうか。これだけの書を扱う〈冒険者〉の素顔が気になり、私は吊り布で隔てられた通路の奥へと踏み込む。
「あの場面、弟少年くんのさす兄サイコラブ感がたまらないですよね!」
「そう! 普段はしっかりしてるのに感情が制御不能になってるあたりがもう尊いで……ぇ? や、山ちゃんセンパイっ?」
入口と打って変わって鮮やかな絵表紙が並ぶ空間。そこで語らうのは、若草色の服の店主とおぼしき妙齢の女性と、巨大な帽子にだぼだぼのローブをまとった客の少女。
改めて周囲を見回した。この一角の本の表紙には全て、ある共通点があった。描かれているのは見目麗しい男性が二人。その顔と顔は吐息が近づきかねないほどに近く、あるいは睦まじく抱き合っているものもある。その中には、私をこの状況に放り込んだ鬼畜眼鏡らしき似顔絵もあった。
ちなみに、表紙は独特の画風だが、いずれも貴族付きの画家に負けぬ美麗で色とりどり。多色複写は熟練の筆写師の業で、少なくともこれらの本には高レベル〈画家〉と〈筆写師〉が(物理的な意味ではなく)絡んでいることになる。ある意味で、最先端の技術と熱意と想像力の結晶が集められた希少な宝物庫であると言えなくもない。
〈冒険者〉の世情に疎い私でも、この場所の意味はなんとなく察することができた。先客二人は、妙に気まずげに私から目を逸らす。沈黙が痛い。この空間で、部外者は私の方だ。
「ええと、いらっしゃいませ? あれ、ユズちゃんが呼んだんじゃないの? ま、まさか! 生モノ同人誌を取り締まるべく風紀委員的な活動に〈D.D.D〉が乗り出したとか?」
ひよこの刺繍がされた前かけを整えつつ、こちらを迎える店主の女性。そういえば、アキバにはひよこ印がトレードマークの、腕のいい製本師がいると聞いたことがある。〈街道の守り手〉の間で最近評判になっている〈ヤマト風土記〉の製本も、一部は彼女が手がけたという噂もあった。それが、彼女ということだろうか。
そして、もう一人の大きな帽子の少女には見覚えがあった。彼女は確か〈D.D.D〉の一員、高山三佐の知己ではなかったか。目が合うと、帽子少女は意を決したように口を開いた。
「山ちゃん先輩……まさか実はこっち側がお好きだったり?」
「ち、違うっ! 断じて! いや、これらの本は美麗だし技術の精華だとは思うがそれはさておいて!」
「ほほーう。理解はあると。これは、固定観念の殻を破ってぴよっと新たな趣味に目覚めてみては?」
「て、店主まで! いや、その、今日はアキバのガイドのようなものを見繕っていただきたい! その耽美なものは私には刺激が強すぎる!」
■ 3 偽三佐さん、甘味を味わう ■
「なるほどー。曖昧な記憶を取り戻すために本を読もうと」
適当に言い訳をしたところ、そういうことになってしまった。しきりに頷く帽子少女は、ユズコというらしい。
「それなら、〈ダンステリア〉にいきましょう!」
〈踊る店〉? 首をかしげる私に、ユズコは信じられないものでも見るように距離をとった。
「や、山ちゃん先輩があの店のことを忘れるなんて……さすがロデ研、驚天動地のおくすりを作るものですー」
……それは、そこまで驚くようなことなのだろうか。
◇ ◇ ◇
そして、私が連れられたのは、踊りとは何の関係もない食堂であった。なんでも間食、軽食、特に甘味を専門に扱う店であるという。
私たちにとって、甘味は希少なものだ。精製された砂糖はこれまで高価で〈貴族〉の嗜好品であり、輸送手段が限られる中においては、口にできる果実も限られていた。それを専門に、多くの種類を取りそろえられるというのは、まさに〈冒険者〉の豊かさの象徴だった。
〈大災害〉後の物流改革、そして〈冒険者〉による物資の提供で、〈大地人〉にも甘味が行きわたるようになってきたものの、こうして十を超える種類の色とりどりの菓子が当然のように並んでいるのを見ると、ちょっとした感慨にふけってしまう。
それらを包むように設えてあるガラスケースもまた、すさまじい技術の粋。改めて、これがアキバの街なのだ。
呆然と眺めていると、店主の女性が私の顔を見て、親しげに話しかけてきた。
「いらっしゃい。高山さんは、いつものでいいわよね」
なるほど、高山三佐はこの店の常連で、決まって頼むものがあるらしい。ならば、それをいただくとしよう。
あの冷静な副官に甘味を嗜む趣向があるとは、なかなか可愛らしいところがあるではないか。
と。そんな感想は、出てきた皿の前で、消し飛んだ。
出されたのは、ケーキだ。趣向の凝らされた、主人の渾身の作品であろうことは容易に想像がつく。だが。
その、量が、問題だった。
例えていうならば、一人の傭兵の前に立ちはだかる対軍級の怪物。普段なら歓迎すべき甘味も、この物量となればもはや半ば暴力の域だ。
覚悟を決めて、一さじ口に含む。
甘い。うまい。甘い。濃い。甘い。決して悪い味ではないが、とにかく甘い。甘いという単語をそのまま圧縮した存在だ。
贅を尽くした、という言葉がぴったりの品。私も確かに〈大災害〉後、砂糖の甘さに魅了された一人だ。だがそれにだってほどがある。大食の伝説で知られる、羅馬で〈子守狼〉に育てられたという祖王ですら、これを平らげたら満腹を訴えるのではないだろうか。
「これを、高山三佐は? 一人で? いつも?」
「ですよー。ぺろっと」。顔色変えずに
……〈冒険者〉恐るべし。
「いや、ショートケーキにあんこと黒蜜とフルーツの砂糖漬けとメープルシロップを配合した三佐スペシャルは〈冒険者〉のデフォと違いますからねー」
あまりの物量に圧倒され、助けを求める私の視線に、ユズコはため息をつくと、皿を差し出してきた。
「……しょうがないですねー、高山さん。今日だけですよ?」
微笑む彼女の皿に三佐スペシャルを取り分けようと匙を取り、そこで私の脳裏に鋭い金属音が響いた。
――聞き慣れた警戒音。胸の宝珠が熱を帯びる。
「高山さん?」
「店主。残りは包んでくれ。土産にしたい。後で取りに来る」
銀貨を置き、私は走る。街の外。東へ伸びる街道へと。
私の真の仕事を、こなすために。
■ 4 偽三佐さん、街道を守る ■
宝珠を握り、情報を確認する。
――主要四番街道、アキバより北西部、丙種危機。
――|解放可能権限は五級まで。人的損害の危険あり。
〈D.D.D〉の手を借りる? 否。時間がない。五級権限では、同胞の召喚も不可能だ。
「高山さん、どこへ行かれるのですかー?」
私の全力疾走に、ユズコは息も切らさず追いついてくる。見た目は華奢な少女だが、さすがは〈冒険者〉だ。だが、彼女の問いかけに答える言葉を私は持たなかった。
アキバの街を出てしばし。街の壁が小さく見えるほど走り続けたところで、私は慌しく街道を急ぐ馬車を見つけた。
旅の商隊だろう。それ自体は珍しくもない。だが。
「〈緑小鬼の略奪部隊〉? こんなところにこんなに……」
馬車のさらに向こうから追いすがってくる無数の亜人間。
この街道沿いの許容敵性存在のレベルは三十前後。にも関わらず、眼前の〈緑小鬼〉はそれを軽く越えている。
街道は安全に保つべし。許容敵性存在は一定の力量以下にすべし。それが、太祖の決定。それを守ることこそ、我らの盟約。
そのために、亜人らに分断された人の生存領域を繋ぐ道をもって線を引き、その線もって陣を描き、その陣でもって人の流れと地脈とから力をくみ上げ、独自の魔を練り上げてきたのだ。
私は馬車を背に、亜人間へと立ちはだかった。ユズコを振り返ると、彼女は〈火蜥蜴〉と馬車の護衛についていた。
「……下がってください! あなたも〈大地人〉でしょう?」
いつから気づかれていたのか。聡い娘だ。だが、私が〈大地人〉であることは、退く理由にならない。長くこの街道を守ってきた一族の末裔として、私にも、ささやかな矜持がある。
――脈道魔法陣精査。
主要四番街道、アキバ北西第十六地区。魔力供給は十分。
多くの人々がこの道を利用し、潤沢な思念を循環させてきた証。ここならば、甲種の伝承者ほどでないにしろ、我々も太祖よりの加護を得ることができるだろう。
主要街道はそれ自体が一つの巨大魔法陣だ。宝珠を通じてそこから吸い上げた力を練り上げ、魔術式を組み上げる。
道を通じて虹色の輝きがこの身に流れ込む様を幻視する。
道とはその性質からして繋ぐもの。伝えるもの。その概念を、人や物だけでなく、魔力にも適用できるのだと世界に強弁し、身一つでは成し遂げることのできない奇跡を顕現する。それこそが、我らの術、流転術式の基本にして極意。『祈り手らの街』の結界や動力甲冑にも応用される絶技。
足元が石畳と癒着する錯覚。皮膚から認識が拡張し街道を疾駆する。
道は我。我は道。ならば、この指を動かすのと同様に、この街道のありようを組み替えることも、不可能である道理はない。
――〈全ての道は我へと通ず〉
街道を走っていた亜人達が、背を向けた状態で瞬間的に私の眼前へと現れた。道の繋がりの組み換えと、方向の転換。
亜人達には急に私が背後をとったように見えただろう。
驚愕に一瞬硬直する亜人。その隙に私は次の術を発動した。
――〈我が牙は街道を駆ける〉
道の石畳が変形し、牙となって亜人の足元へと喰らいつく。
足をとられ倒れる亜人の全身をさらなる牙が襲う。
まるで食肉魚の群れる川に放り込まれた獣のように、亜人は見る間に石畳に喰いつくされた。
虚脱感が全身を襲う。五級権限では術式起動に伴う魔力消費のバックアップまではない。あくまで身にため込んだ魔力を起動のたびに消費する必要がある。
脈動魔法陣を応用した魔術の起動を五級権限で行うのは、いってみれば本来風車で回すような巨大な石臼を一人で動かそうとするような無理筋なのだ。
だが、それでも、私は責任を果たさねばならない。せめて、あと、一度、放逐のための魔術式を――。
くらむ意識。そのせいで私は、直前まで近づいてくる亜人に気づかなかった。
「っ!?」
その短剣が私を襲う。術式? 遅い。避ける? 足に力が入らない。防ぐ? 無手。右手を犠牲にする? やむなし――!
腕一本を犠牲にする覚悟を固め、迫る刃を受け止めようとした、その瞬間。
〈緑小鬼〉の全身が燃え上がった。遅れてやってきた〈D.D.D〉のユズコ嬢が使役する精霊の吐息、サラマンダーのブレスが直撃したのだ。
うめきもだえるその姿が、突如死角から現れた小男の一閃で両断され、亜人は虹の泡となって消滅した。
他の亜人も、新たに現れた〈冒険者〉によって見る間に殲滅されていく。
「GJでゴザルよ、ユズコ嬢。あとあの魔法、三佐さん……というか、そもそも〈冒険者〉でないでゴザルな、あなたは」
どうやらこの小男は、〈円卓会議〉の定期巡回であったらしい。私は大きく息をつき、二人に頭を下げた。
「騙してすまない。私は、シェノン。太祖からの盟約により道の防人たる一族、〈街道の守り手〉の一員だ」
■ 5 シェノンさん、里へと帰る ■
かくて、私のアキバでの一日は慌しく終わりを告げた。
幸いだったのは小男もユズコ嬢も〈D.D.D〉の一員であったこと。私がこの街に来たことは、鬼畜眼鏡の口止めによって、かのギルドの上層部にのみ知られることとなった。
クラスティと共に里へ戻ると、我らが部族の装束に身を包んだ彼女は、子供達に囲まれて大人気だった。何でも、彼女には乳母のような経験があるらしい。
「みさ先生、おうた!」
「おはなし!」
「おゆうぎー!」
「ほら、皆。高山殿が困っているだろう。これでも食べていろ」
「うわー!」
「すごーい!」
「あまあまさんだー!」
土産にした甘味、「三佐スペシャル」で子供達を引き剥がす。
私の姿を見ると、彼女は「おつかれさまでした」と微笑んだ。
貸していた族長の頭巾と、彼女に借りた帽子を交換する。
これで「入れ替わり」は終わり、という意思表示だ。
「アキバはどうでしたか、シェノンさん」
「全てが興味深かった。あと、どこかの鬼畜眼鏡が、どこかの腹ぐろ眼鏡と恋仲にあるという噂をものの本で読んだよ」
私の言葉に、鬼畜眼鏡殿は、わずかに瞳を見開いた。高山三佐が口元を押さえて必死に笑いを堪えている。
「なるほど。あなたは十分にアキバの街を堪能したようだ」
「クラスティ殿の御配慮のお陰だ。感謝している」
ああ、この表情で全ての溜飲は下がった。あとは、族長として言うべきことを口にすれば、これでこの喜劇もおしまいだ。
「アキバのあり様が我らと矛盾しないことは理解した。両者の明日に、よき縁があるよう、私も尽力しよう」
別れの気配を察したか、子供達が高山三佐にしがみつく。
「えー? みさ先生、帰っちゃうの?」
「やだー」
「まだあそぶー!」
「一日だけとの約束ですから。けれど、みんながよい子にして、シェノン様が許すなら、また来られるかもしれませんよ」
「シェノンさま、みさ先生を招待してあげて!」
「いろんなうた、おしえてくれたの! おはなしもいっぱい! てあそびも!」
……まったく。一族の子供を手懐けられては、かなわない。これも含めて、あの鬼畜眼鏡の策略ということか。
まあ、私も、子供たちも、そして、高山三佐殿も、悪くない経験をできた。そこには感謝しても構うまい。
そっくりの顔と奇妙な縁が結んだ特別な一日は終わり。
片やヤマトの街道を管理する部族の族長たる〈大地人〉。
片やアキバ最大の戦闘系ギルドの副官たる〈冒険者〉。
本来交わるはずのない、それぞれの日常が戻ってくる。
「また、やるか?」
「ええ、たまになら」
私達はそう口にして、全く同じ表情で笑いあった。
ご覧いただきありがとうございました。
本作は九石三羽様の同人サークル「Q!+」で頒布したログホラ二次本に寄稿させていただいたものを、ご許可いただき加筆したものです。
主人公、シェノンさんについては、ログ・ホライズンTRPGのオンラインミニサプリ(http://lhrpg.com/wednesday20140611.html)に記載がありますので、よろしければご覧ください。
平成29年8月12日に津軽が個人サークル「つがる甘煮堂(東コ21a)」にて頒布する副官本「虹色サイドキックス」とつながりがある作品ということで、公開させていただきました。当日イベントに足を運ばれる方で興味がありましたら、お手にとっていただけたら嬉しいです。