漫画家
鈴山が目を覚ますと、其処は見知らぬ土地だった。
鈴山は自分が公園のベンチに横たわっているのに気が付いた。辺りを見回すと、自動車が道路を走っている。どうやらここは日本の何処かのようだ。
「全く、何がどうなってんだ?」
体を起こした鈴山は、斎藤に押し付けられた切符の内一枚が無くなっている事に気が付いた。「2」と書かれていた切符が無い。
「…………こいつは困ったぞ…………」
残った「4」の切符を使えば帰ることができるのかもしれないが、それは、此処が斎藤の言う所の二次元だった場合だ。もしも此処が四次元と言う所だった場合、むしろ状況が悪化する可能性すらある。
鈴山は「4」の切符をズボンのポケットに入れ、思い足取りで公園から出て行く。
人も自動車も信号も建物も、何もかもが彼に馴染みのある日本の風景だ。しかし、此処が何処かは解らない。
一体俺はどうなってしまったのかと途方にくれていると、背後から誰かに声を掛けられた。
「あのー、ちょっとすみません」
突然声を掛けられてぎょっとすると、そこには眼鏡を掛けた四十代くらいの男性がいた。
「は、はい」
慌てて返事をした鈴山に対し、眼鏡を掛けた男性は申し訳無さそうに言う。
「すみませんが、私の原稿を見ませんでしたか? あれが無いと困るんです。ああ、もし川に落ちてたりしたら……」
体を震わせて頭を抱える男性。十秒程そうしていた彼だったが、困惑する鈴山の視線に気が付き、その場で深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとする。
「いや、みっともない姿をお見せしてしまった。私は山元源吾と言います。漫画家をしておりまして……。実は、せっかく出来上がった原稿が風に飛ばされてしまったのです。ああ、原稿を持ったまま気分転換の為の外出をした私が悪いのですが……」
「それなら、俺が手伝いますよ」
肩を落とす山元という漫画家がなんだか可哀想な気がしてきた鈴山は、無くした切符を探す序に原稿も探してあげることにした。
「ああっ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げる山元。そこで鈴山は良い事を思い付いた。
「そうだ。実は俺も無くし物があるんです。『2』と書かれた切符の様な物です。一緒に探してくれませんか?」
「はい、勿論です。是非お手伝いさせて下さい」
そうして二人は手分けして原稿と切符を探し始めた。
十数分後、鈴山は一枚の紙を発見した。どうやら山元の言っていた原稿のようだ。
「ん? これは……‼」
漫画が描かれていたその原稿には、付箋が貼ってある。そこにはこう書かれていた。
「す、『鈴山喜三郎の毎日』ぃ!?」