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「うーわー。これマジやべえな!」


 恭介の場違いな快活すぎる声が響きわたる。声には無邪気さと無鉄砲さと何も恐れぬ馬鹿さ加減がひとつの遠慮もなく籠められている。

 いつもならため息一つと共に、「馬鹿みたいな声出さないで」の呆れで一蹴してみせるのだが、今の私にその余裕はなかった。


 ――やっぱり来るんじゃなかったかも。


 一蹴出来ないのは、恭介の愚かで馬鹿らしい提案に自分も少なからずの興味を示して彼について来てしまったからだ。

 暗いというのはそれだけで恐怖を煽る。いやがおうに不安が増す。

何に。

 そこにいる何かにだ。そこにいるかもしれないものにだ。


「これは、絶対に出るぞ」


 恭介が満面の笑顔でこちらを見る。


 ――笑ってんじゃないわよ、この馬鹿。




「たまにはさ、日常にない刺激ってやつが人間には必要だと思うんだよ」


 相変わらず入りから間抜けで興味を惹かないテーマだ。さも仰々しく言いながら、この後に続くのは決まって低俗で、間違ってでも興味など持ってしまったら、くらいついてしまった自分自身を恥じる結果となるのがオチだ。


「お前、心霊好きだよな?」


 この時点で私は負けた。そっぽを向いていれば良かったのに、心霊というワードに私は条件反射のように恭介の方を見てしまった。

 恭介の笑顔を見た瞬間に、私は自分を心の中で恥じた。

 なんだかんだ、男女の付き合いにある私達の付き合いは決して短くはない。故に彼は良くも悪くも、私を知っている。


「つまんねえ日常からの脱却だ」






 心霊やオカルトに興味を持ったのはいつ頃だろう。物心ついた頃には自然とそういった類のものに惹かれている自分がいた。テレビやら本やら、媒体を通して知る別の世界に魅了された。しかし、惹かれながらも同じぐらいに恐れてもいた。

 幼少の頃、生まれて初めて金縛りにあった。目も開けられず、全身が鎖を縛られまるで動く事の出来ない感覚は絶望的で、瞬く間に私は恐怖に包まれた。次第に耳の奥からテレビの砂嵐のような雑音が流れ始めた。


 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


 五感がこのまま全て奪われ、私という存在もろとも消えてしまうのではないかという言い知れぬ恐怖に見まわれている中、雑音の中に違う音が混ざり始めている事に気が付いた。


「……う」


 何かの呻き声のようだった。しかしそれが人の声である事だけはなんとなく分かった。雑音は鳴り止まない。次第に声がクリアになっていく。


「ふ、う………が……」


 声は途切れるような呼吸を刻みながらも、言葉をつなげようとしている。

 そしてやがて、その言葉が繋がった。


「チガウ」


 その瞬間金縛りは解け、反射的に瞼を開いてしまった。

 

「ひっ……」


声にならない悲鳴が漏れた。

開いた目の先には、灯りの消えた私の部屋の天井があるはずだった。

だがそこには、私の事を真上から見下ろす、暗闇の中でもはっきりと分かるほど白目をむきだしにした、男の顔があった。


次に目が覚めた時には、いつもの朝があった。

夢だったのか。だがあのリアルな感覚をどうしても夢で終わらせる事は出来なかった。その後何度か金縛りにあったが、あの男が現れる事はなかった。しかしこの体験が、私の中で心霊の世界が紛いものではないんだと確信付けるものになった。


その時に思った。実際に踏み入ってはならない世界だと。

部外者の立場でいれば楽しめる。誰かがどこかで恐ろしい体験をした。それはいい。だが自分がその立場になるのは怖くて仕方がない。だから心霊スポットやらに肝試しのように立ち入る事は一切してこなかった。そんな事は出来ないと思って生きてきた。


しかし、恭介も分かっている。どこかでやはり、私がその世界に惹かれている事を。

だからくだらない恭介の言葉でも、私はついていってしまったのだ。


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