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 結界内──東の館。


 それから数日が経ち、シレーネと補佐としての職務を終えた夜の寝室で、二人は寝台に寝転び、ゆったりと流れる姉妹の時間を楽しんでいた。


「え? ……バースディ・パーティ?」


 カミルの申し出に、ルーラはひらひらと揺らしていた尾びれの先を止めて、頬杖を突いた。


「そう。明日はあなたの誕生日よ。あなたは余り大仰(おおぎょう)にされるのが好きではないから、本当に内々ではあるけれど、あの岩場でお祝いをしましょ」

「陸上で? どうして?」


 一年前の誕生日も、侍女の数名──マルタやヘラルド、新たに加わったトロール達が祝ってくれたが、この館の大広間でだ。どうしてわざわざ外界を選んだのか、ルーラには少し不思議な感じがした。


「先日父様に会った時に聞いたのよ。明日は満月できっと綺麗な夜空だろうって。たまには外で楽しむのも良いのではないかと思って。マルタと沢山ご馳走作るわね」

「あ、ありがとう! 姉様」


 お腹一杯美味しい物が食べられるとなれば、そんな不審すら何処かへ飛んでしまうルーラだが、灯りを消され「おやすみ」と返した暗い空間の中で、見えない天井を見つめ、そっと息を零した。


 ──明日……誕生日だなんて、忘れていたわ……。


 二年前の翌日を思い出す。あの日、あの一日に抱えきれないほどのことが起きたことを……初めての外界でアメルと出逢い、再会して、そして大ばば様が亡くなった──。

 あの時、もし大ばば様が亡くならなければ、サファイア・ラグーンへ行くこともなかったのだろうか。アメルを再び見つけて、一緒に旅をすることもなかった?


 カミルの寝台とは逆の方へ寝返りを打ち、背中を丸める。


 ──大ばば様……どうしてあの時、あたしにあんなことを言ったの? あたしがシレーネにふさわしくないと思ったから?


『我がルーラにシレーネを任せたのは、間違いであったかも……しれんな』


 ルーラには、今でもウイスタの真意が測れずにいた。


 自分にはそれに値する能力がないと、既に見限られていたのだろうか? もはや過去のシレーネを知るのは、ラグーンの主となったアーラだけだ。結界内にそれを知る者はもういない。では、そんな幻となった『シレーネ』とはどうあるべきなのか? 自分はどうなるべきなのか?

 どうなっていくことが、結界の人魚達にとって幸せなのだろうか?


 ──教えて……大ばば様、アーラばば様、父様、母様……誰でもいい。あたしはどうしたらいいの? 教えて……アメル──。


 二年が経ち、皆が魔法を使えるようになっても、彼女はこの先をどうすべきか決めかねていた。幾ら結界を神へお返ししなければいけないと分かっていても、そう簡単にこの守られた地を手放せる自信がない。


 ──何を焦っているのかしら。焦ったところで何も進まない……何も変わらない。全てが終われば、アメルの許へ行けると思っているの? 違う……終われば、また始まるのよ。まだまだやらなくてはいけないことは続いて、そして一つ完成すれば、次の一つが生まれるの……永遠に終わることはない──。


 何を考えても、どんなに先を見ようとしても、何故だか堂々巡りのような気がしていた。自分は進んではいないのではないのだろうか? 前へと尾びれを動かしたつもりが、本当は自分を軸にして回転しているだけではないか?


『でも僕は先のことなんて誰も分からないのだから、悩んだり決めつけるのはやめようって思ったんだ。だからルーラの姉さんもきっと変わるよ。何か理由があるとしても、それはいつか目に見えて、解決出来る道がきっと見つかる』


「あっ……」


 ふと思い出されたアメルの言葉が、胸を突くように小さな声を押し出させていた。


 ──そう……そうよね……そしてあの言葉は本当になった。姉様の哀しみは父様にほどかれて、温かな未来に変わった──。

 



 ありがとう……アメル。




 ルーラはやっと瞼を閉じて、闇に身を任せた。久し振りに聞こえたあの優しい声が胸を巡り、(しん)に穏やかな気持ちが自分の全てを包み込んで、少しずつ自信を取り戻していた。


 やがて海水を掻き回すだけの左手が、ずっと欲していたあの懐かしいぬくもりに辿り着いて、この上ない眠りが彼女を深い場所へと(いざな)う。


 その(おもて)には二年前の明日に得た、和やかな微笑みが映し出されていた──。




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