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Sapphire Lagoon [サファイア・ラグーン1作目]  作者: 朧 月夜
【第十一章】[心奥の灯]
30/52

[想] -3-

「なるほど……大まかなことはテラから聞いていたが、確かにそういうことかもしれないな」


 夜。

 あれから再び明るさを取り戻した船員達は、大団円とばかりにルーラを取り巻いて宴を開き、酔い潰れるやら歌い疲れるやらで、甲板をベッドに眠りこけてしまった。ルーラも中心に置かれたコンテナの中で、いびきの大合唱から隔離されるように、水中に潜って深い眠りに沈んでいる。


「今までの経緯がそうであったにしろなかったにしろ、一度外界との繋がりを断ち切ってしまった人魚達が表に出てくるためには、かなりの時間と人間の協力が必要だと思います」


 僕はジョルジョと共に船長室にいた。


 金髪と銀髪の人魚の関係性・神の思惑・大ばば様とアーラ様の想い・そしてルーラの母さんの決意……全てがアーラ様の口から発せられた言葉から、僕なりに推理したことに過ぎなかったが、「一理ある」と船長もまたアーラ様のように頷いた。


「話はとてつもない方向に行ったものだな……いや、それでもやれることをやるだけのことさ。今のルーラは前向きだ。結界の人魚達もきっと理解してくれるだろう」


 船長はそう言って、いつぞやのように甘い紅茶を飲み干したが、僕には一つだけ引っかかるものがあった。


 ──ルーラの姉さん、あの銀色の美しい髪を持つ人魚の瞳だ。


 母親の若き死を未だ受け入れられず、やり場のない想いを憎しみへと変え、人間に向けてしまった人。シレーネである妹が、その人間達と共に生きる道を選ぼうとしている……。


 話すべきなのだろうか──ルーラの姉さんのことを。

 少なくともルーラの父親であるジョルジョは、確実にカミルと対面することになる。そしておそらくは、彼女の最も憎むべき人物──それはジョルジョだ。


「ところで……」


 空のカップを机に置き、しばらく物想いに(ふけ)っていたジョルジョだったが、話題を変えようと声を掛けたのは、僕の暗い表情に気付いたからだろうか?


「あ……はい」

「ルーラを結界に送った後、君はどうするつもりだい?」


 お陰で僕の迷いは一旦喉元に押しやられてしまった。

 僕の今後……さて、どうするのだろう。


「以前の職場では、僕はもう死んだことになっていますから……一度母の様子を看たら、また職探しから始めます。あの……この船の港は病院に近いので、其処まで乗っていても構わないでしょうか?」


 カミルのことはひとまず僕の心に置き去ろう。未だいつ会うかも知れないのだ。そう決め込んだ僕は、船長の質問に考えを巡らせて、一番適切な答えを導き出した。


「もちろん君を海の真ん中に放り出すつもりなんてないんだ。君の目的地が同じならちょうどいい。病院まで送らせよう。いや、私がついていくよ。君のお母さんにお願いがあるんだ」

「え……? 僕の……母に、ですか?」


 余りの驚きに、僕の二の句はやっとの思いで出てきたという状態だった。母さんに何のお願いがあるというのだろう?


「まだ分からないかい? 君を雇いたいと──その承認を得たいんだよ」


 にっこりと微笑み、僕を真正面から捉えたジョルジョに、僕は思わずカップを落としそうになるほど驚いた。


 ──ルーラの……お陰なんだろうか?


「勘違いしないでくれ。君のことはルーラに頼まれた訳でもないし、ルーラを守ってきてくれたお礼のつもりでもない。そんな理由で雇えるほど甘い仕事でないことは、君も十分分かっているだろう。フルボがあんな事をしてくれたお陰で船員が足りない状態でもある訳だし、私としては君自身の働きぶりを買ってのお願いなんだがね……もちろん君が今でも船乗りを目指しているならだが」


 まるで自分の心を見透かすように雇用理由を話したジョルジョは、少し真剣な表情で僕の返事を待った。


 ──船乗り……なりたい。喉から手が出るほどに欲しい夢。でも──


「もしかしたら、アメル……君はお母さんに、自分が何処で働いてきたのか話していないんじゃないのかい?」

「え……? あ、はい……」


 二度目の図星に僕は少し気まずい顔をして俯いた。けれどジョルジョは怒った様子もなく「やはりね」と苦笑し、


「ご主人を海で失って、息子を海に出せる母親などそうはいないさ。でも私は『君』が必要なんだ。だからこそ君に同行して、お母さんを説得したいんだよ」


 そう言って再び冷静な瞳を向けたジョルジョへ、ようやく僕は自分の意志を伝えようと口を開いた。


「船長……ありがとうございます。僕も母に嘘をついていることでずっと心を痛めてきました。けれど今回父のカケラを見つけたのを機に──父からの伝言もあることですし、今までの経緯を全て母に話す覚悟は出来ています。そして今後も船乗りを目指したいと告げることも……これはきっと自分自身で説得しなければいけないことだと思うんです! ですから、あの……もし本当に雇っていただけるのでしたら、その事は僕から母に話したいと思います」

「アメル……」


 自分を呼ぶその一言に、僕はハッとして(おもて)を上げた。


 ──父さん。


 まるで父さんに呼ばれたような、心地良い感覚に襲われたからだ。


「いや……良かったよ。ルーラも随分成長したものだと思ったが、君も大人になったものだな。皆も買い被りではなかったと喜ぶだろう──何せあいつら、アメルを雇えとうるさくてな、もちろん言われなくてもそうするつもりだったが──お母さんの承認を得ずとも明日皆に話そう。その代わり明日から仕事を始めておくれ」


 ジョルジョの嬉しさを含んだウィンクに、僕は大きく「はい」と答えてお礼を言った。退室しようと立ち上がった僕に、船長は一枚のブランケットを放り投げて、


「ルーラの傍にいてやってくれ。もちろんあの子が目を覚ましてコンテナの中へ招き入れたら自由にしてくれて構わんよ。私は『君のことを信じている』からね」


 そしてもう一度ウィンクをした──。




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